銀行員のための教科書

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台風襲来に大災害債券「CATボンド」を確認する

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大型の台風が日本に迫っています。まずは、被害が出ないように祈るばかりです。

台風のような災害に対して金融はどのようなことが出来るのでしょうか。

火災保険や地震保険は分かりやすい例でしょう。残念にも建物に被害が出た場合等には補修費用を銀行が融資するというのもあるでしょう。

そのような金融取引の中で、「大災害債券」もしくは「CAT(キャット)ボンド」と呼ばれる商品が近時注目を浴びています。

今回はこの大災害債券=CATボンドについて簡単に確認してみましょう。

 

大災害債券=CATボンドとは

大災害債券を英語で表記すると”Catastrophe bond”となります。

この英語表記を略して「CATボンド」と呼ばれているのが大災害債券です。

雨天のような日常的な自然現象とは異なり、低頻度の巨大災害が起きると大災害債券の発行体は多額の補償金を受け取れるという仕組みです。

言葉を換えると、大災害債券は、「定められた要件を満たす災害(台風・洪水・地震等)が発生した場合に保険会社等の発行会社が資金を受け取る、もしくは投資家の償還元本が減少する仕組みの債券」をいいます。

大災害債券が成り立つ理由は以下です。

CATボンドという金融派生商品が成り立つのは、「3~5年といった契約期間中に、条件に合致する大地震は発生しない」と予想して、CATボンドを購入する投資家がいるからである。大地震が起きなければ投資家は比較的高い利子収入を得られ、期間終了時には投資元本を受け取れる。しかし、地震が起きれば、多額の補償金の受け手として設定されている企業や事業体に対し、投資家は補償金の原資を分担して負担しなければならない。つまり、投資元本が毀損するリスクがある。

(出所 モーニングスターWebサイト)

このように当然ながら、投資家が存在するからこそ、金融商品として成立しているのです。

 

大災害債券の動向

投資家にとってみれば、保険料収入というリターンの源泉は災害等の発生リスクへの対価となります。

世界のマーケット・金融政策、すなわち伝統的な投資資産と相関性が低いことが大災害債券の特長となります。

大災害債券のマーケットは「世界中が金余りとなっている中」で順調に拡大しています。大災害債券およびILS(Insurance-Linked Securities=保険リンク証券)の市場規模は、発行残高で4兆円超となっています。

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(出所 Catastrophe bonds & ILS issued and outstanding by year - Artemis.bm

但し、米国の債券市場は3,000兆円程度、日本でも1,000兆円超ありますので、大災害債券の残高は、債券市場から見るとわずかといえます。

世界的な金融緩和環境の中、収益がある程度確保可能であり、かつ株式・債券等のマーケットとの相関が低い大災害債券へは今後も資金の流入が続く可能性があります。

下の図表は大災害債券等の利回りと予想損失率の年平均の推移を示したものです。資金の流入により発行者の方が強くなっているのか、条件が悪化(利回りと損失率の差が縮小)してきているのが見て取れます。

但し、地球温暖化が地球環境・経済に大きな影響を与えるようになるのであれば、この流れは変わる(誰も大災害債券を買おうとしない)こともあり得ます。

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(出所 Average catastrophe bond & ILS issuance expected loss and coupon by year - Artemis.bm

 

日本の発行事例

日本の発行体も大災害債券を発行しています。

一つの例ですが、JA共済連が発行した大災害債券の事例を挙げておきます。

地震リスクを証券化  JA共済連

 JA共済連は2月15日、建物更生共済の自然災害リスクに関し、地震による日本国内で発生した損害を対象にした証券化を実施したことを公表した。
 JA共済連では過去2度地震リスクの証券化(キャットボンドの発行)を行っているが、今回のキャットボンド(債権名「Kibou(キボウ)Ltd.)は、東日本大震災により発行金額3億ドル(約240億円)全額の回収となった第2回目のキャットボンド「Muteki」と同様、キャットボンドから回収した資金を建物更生共済の共済金支払財源の一部として充当することができ、JA共済連が積立てている異常危険準備金や海外再保険などと合わせて巨大災害に対する備えを万全にするために実施されたもの。
 今回のキャットボンドは、JA共済連がドイツに本社をおくハノーバー再保険会社と再保険契約を締結して、建物更生共済の地震リスクを同社に移転。JA共済の地震リスクを証券化するためにケイマン諸島に設立された特別目的会社のKibou Ltd.が、投資家に対してJA共済の地震リスクを裏づけとした米ドル建て債権(3年満期、額面3億ドル)を発行し、将来の巨大地震発生に備えた資金を調達する。
 投資家は利回り(5.25%+マネー・マーケット・ファンド利回り)を受取ることができるが、地震で計測された地震動における地表最大化速度に基づいて算出された指数が予め定めたレベルを超える地震が発生した場合には、償還予定元本の一部または全部を減額されるという発行条件が設定されいる。
 なお、前回(平成20年5月)に発行したキャットボンドMuteki Ltd.については、東日本大震災が世界で初めて元本全額回収事由に該当し、発行金額3億ドル全額を回収し、建物更生共済の共済金支払財源の一部に充当された。
(2012.02.17)

(出所 https://www.jacom.or.jp/archive03/news/2012/02/news120217-16205.html

 

今後の想定

筆者としては、大災害債券は、伝統四資産(内外株式・内外債券)やREITと相関が低いため、オルタナティブ投資としてはかなり有望だと考えています。

一方では以下の引用記事の通り、特に個人向けの主要な金融商品になることは難しいだろうとも思います。

大災害の発生リスクに対する投資、つまり「不測のリスクを引き受ける」という性質を考えると、『一般の個人投資家に推奨できる投資対象・金融商品にはなりにくい』というのが大方の意見だろう。ましてや、日本は地震大国であり東日本大震災の凄惨な記憶が国民の心に残っている中、大災害発生リスクと投資を結びつけるのは『甚だ不謹慎だ!』と考える人も少なくないかもしれない。

(出所 モーニングスターWebサイト)

しかし、大災害債券は一種の保険であり、保険はリスクを引き受けてくれる主体が存在しなければ成り立ちません。

筆者としては、様々な経済主体が大規模災害によりリカバリーできないほどのダメージを負わないように、保険としての仕組みが拡がっていった良いのではないかと考えます。今後の動向に注目していきたいと思います。