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会社の飲み会への強引な誘いはパワハラではないのか?

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日本企業のような日本的組織には、飲み会(酒席)文化があります。

近時は、飲み会を忌避する従業員の増加や、共働き・子育て世帯の増加、パワハラやセクハラの発生への懸念、働き方改革等から、会社の飲み会への参加圧力は緩和されてきているかもしれません。

しかし、日本的組織は同調圧力が強く、会社の飲み会は実質的に強制されていると感じる方もいらっしゃるでしょう。

今回は、職場で飲み会への参加を強引に誘われることはパワハラにならないのか、考察してみたいと思います。

 

パワーハラスメントとは

飲み会への実質的な強制参加を経験したことがある方は多いのではないでしょうか。

その時には、これはパワーハラスメント(パワハラ)だと感じたかもしれません。

このパワハラという言葉は、一般的な用語となっていますが、法的に問題となる「パワハラ」は一般に思われているよりも範囲が狭いと言えます。

法律にはパワハラの具体的な定義はありませんが、厚生労働省によると職場におけるパワハラとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。

その上で、職場のパワーハラスメントの6類型として、過去の裁判例や個別労働関係紛争処理事案に基づき、次の6類型を典型例として整理しています。

1)身体的な攻撃
暴行・傷害
2)精神的な攻撃
脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3)人間関係からの切り離し
隔離・仲間外し・無視
4)過大な要求
業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
5)過小な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
6)個の侵害
私的なことに過度に立ち入ること

これらの類型が全てを網羅している訳ではありません。パワハラは様々な事情を基に総合的に判断されます。

 

飲み会の誘いはパワハラか

職場では、歓送会や忘年会・新年会等、会社の飲み会に参加するように誘われることは多いでしょう。

その際に、年次の若い方は、実質的に参加を強制されていると感じることもあるのではないでしょうか。これはパワハラでしょうか。

一般的に言えば、上司や先輩からの飲み会への誘いだけならばパワハラには該当しません。

上記6類型を見て頂ければ分かるように、飲み会の誘いは、どの類型にも該当しないのです。

しかし、単に飲み会に誘うのみならず、断っても繰り返し執拗に誘う、断った後から無視をする、嫌がらせをする、人事評価を下げる等の事象があるのであれば、パワハラの類型には該当する可能性が出てきます。

パワハラは法律で明確に決まっているものではありません。飲み会への参加を強要した人の態度、強要された人の抵抗の程度、職場の雰囲気等、様々な要素から、「立場を利用して」「業務外の行為を強要する」パワハラへの該当性、違法性が判断されることになります。

ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(東京高判平成25年2月27日判決労判1072号5頁)は、上司が極めてアルコールに弱い体質の部下に対し執拗に飲酒を強要したことなどについて会社の使用者責任を認め、慰謝料の支払を命じています。

誠昇会北本共済病院事件(さいたま地判平成16年9月24日労判883号38頁)では先輩による飲み会へ参加強制も認定されていますが、主に長期的ないじめが背景となっています。

 

まとめ

飲み会への強引な誘いは、誘われた個人としてはパワハラと感じることも多いでしょう。

しかし、飲み会の強引な誘いだけではパワハラとは認定されない可能性が高いのです。

それでも、本当に会社の飲み会に強制的に参加させられるならば、それは業務に該当する可能性があります。

パワハラではなくとも、強引な飲み会の誘いがなされるのであれば、業務として会社に残業代を請求することを上司や先輩に「脅しても」良いかもしれません。(本当に脅すのではなく、相手に感じさせることがポイントです。)

昔の日本企業では通用せず、むしろ職場のいじめにあったかもしれませんが、現在ならば抑止力にはなるかもしれません。