銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行系証券会社から運用商品を購入しないことを強くお勧めする理由

ちばぎん証券という証券会社が仕組み債の販売で金融庁から業務改善命令を受けました。親会社の千葉銀行およびその提携相手である武蔵野銀行も同様です。元々は、証券取引等監視委員会が、ちばぎん証券等3社に対し、仕組み債を顧客に十分な説明なく販売していたとして、行政処分するよう金融庁に勧告していたものです。

仕組み債は、リスクが高く、仕組みが複雑であり、個人に販売するのは適さないと金融庁が指摘している金融商品です。昨年には金融庁が仕組み債の販売状況の調査に乗り出し、結果として、地銀(その証券子会社含む)は仕組み債の販売を取りやめたところが続出しました。その中で、地銀の雄であり、地方銀行協会の会長行の一行である千葉銀行がグループとしてこの業務改善命令を受けたことは、大きな衝撃を持って受け止められています。

今回は、ちばぎん証券や千葉銀行・武蔵野銀行がなぜ業務改善命令を受けたのかについて皆さんと確認していきたいと思います。きっと、銀行(もしくはその子会社である証券会社)から運用商品を買いたいと思わなくなるのではないでしょうか。

 

金融庁の改善命令

では、まずは金融庁の改善命令の内容を確認してみましょう。行政からの行政処分の文面を見る機会は少ないと思いますので、抜粋して掲載します。以下はちばぎん証券に対する行政処分の文面です。

 

<金融庁の業績処分>

ちばぎん証券株式会社(以下「当社」という。)に対する検査の結果、以下の問題が認められたことから、証券取引等監視委員会より行政処分を求める勧告が行われた。

【適合性原則に抵触する業務運営の状況】

 当社は、当社の親会社である株式会社千葉銀行、及び千葉銀行とアライアンス契約を締結している株式会社武蔵野銀行との間で各々金融商品仲介業務に係る提携契約を締結し、千葉銀行及び武蔵野銀行に対し、金融商品仲介業務として当社に顧客を紹介する業務(以下「紹介型仲介」という。)(注)を行わせている。当社全体の収益額における銀行からの紹介顧客に係る収益額の割合は高く、銀証連携に係る収益が当社の中心的な収益源となっている。
(注)千葉銀行及び武蔵野銀行は、顧客を紹介する際、当社の取扱商品の概要説明のみを行い、個別商品の具体的な特性・条件等に言及した説明を禁止している。
 こうした状況を踏まえ、当社の業務運営状況を検証したところ、以下の問題が認められた。
 

(1)適合性原則に抵触する勧誘が長期的・継続的に発生している状況
1) 当社は、以下のとおり、顧客の投資方針や投資経験等の顧客属性を適時適切に把握しないまま、多数の顧客に対し、複雑な仕組債の勧誘を長期的・継続的に行っている状況が認められた。
ア.顧客の投資方針と当社が把握している投資方針が異なっている事例
 個人の仕組債保有先(令和4年6月末時点で仕組債を保有していた8,424 顧客)のうち、2,424 顧客は、最もリスク許容度が高く、当社において複雑な仕組債を購入することが可能となる投資方針の「積極的値上り益重視」ではなく、これよりもリスク許容度の低い投資方針を有する顧客であった。
イ.顧客の投資経験と当社が把握している投資経験が異なっている事例
 銀行で投資経験を把握されずに紹介され、当社が投資経験を確認した上で仕組債の購入に至ったとしている80 顧客のうち、34 顧客は、金融商品の投資経験を全く有していない顧客や当社において複雑な仕組債を購入することが可能となる投資経験を有していない顧客であった。
2) 当社は、複雑な仕組債の勧誘に際し、少なくとも3顧客に対し、仕組債の参照指標に係る変動により損失が生ずるおそれがある理由等について、顧客属性に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明を行っていないことが顧客への説明状況の検証において認められた。
 
(2)適合性原則を遵守するための態勢が不十分な状況
 当社は、銀行側において紹介型仲介契約で定めた業務を超えた商品説明がなされる等の適合性原則の遵守に支障を生じさせる要因が発生していたにもかかわらず、適切に実態把握するなどしてこれを解消しなかったほか、当社営業員に対して顧客の投資方針や投資経験等の適合性を適切に把握する方法を周知徹底しないまま、複雑な仕組債の勧誘販売を急拡大させた。
 この結果、仕組債を購入した顧客からの苦情が多数寄せられるようになったが、その苦情の中には、当社が把握している投資方針と顧客が述べる投資方針が一致していないものなど、当社における適合性原則の遵守状況に問題があることを示唆するものが含まれていた。当社は、それらの苦情の大半を「一方的申出」として処理を完了したため、苦情の中に含まれる適合性原則の遵守に関わる問題点を適切に抽出分析することなく看過し、業務改善に向けて苦情を適切に活用できなかった。また、多数の苦情が継続的に発生する状況を自ら解消し切れず、自主規制機関である日本証券業協会から適合性原則の遵守状況に関して計3回に及ぶ注意喚起を受けることにも繋がった。
 日本証券業協会から適合性原則の遵守状況に関する懸念が示されたことを踏まえ、当社は全社的かつ抜本的に苦情対策に取り組むことを目的として、社長自らも参加する会議体を発足させたものの、適合性原則に抵触する勧誘販売状況の実態把握やこれに基づく実効性ある態勢整備を行わなかったことなど、適合性原則に抵触する勧誘販売を防止・改善するための取組が不十分であった。
 以上のとおり、当社においては、適合性原則に対する理解やその遵守の重要性に対する意識の希薄さ等により、真の顧客利益を考えた投資勧誘ではなく、手数料収益を上げるためのツールとして仕組債の販売がなされ、適合性原則を遵守するための態勢整備も不十分であったため、適合性原則に抵触する不適切な勧誘販売を防ぐことができなかった。

 上記⑴2)の行為は、金融商品取引法第38条第9号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第1項第1号の「契約締結前交付書面の交付に関し、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明をすることなく、金融商品取引契約を締結する行為」に該当すると認められる。

 上記⑴及び⑵の状況は、適合性原則に抵触する業務運営を継続的に行っていたものと認められ、当社における仕組債の勧誘販売状況は、金融商品取引法第40条第1号の「顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること」に該当すると認められる。

 なお、上記の状況は、当社経営陣において、銀証連携で生じていた問題を適切に把握していなかったこと、適合性原則に対する理解やその遵守の重要性に対する意識が希薄であったことにより発生したものであると認められる。

(出所 財務省関東財務局「ちばぎん証券株式会社に対する行政処分について」)

 

適合性の原則とは、顧客の知識、経験、財産の状況、契約締結の目的に照らして不適当な勧誘を行なってはならないという原則です。要は投資家保護のためのルールであり、金融機関は、金融商品等の取引にあたり、この適合性の原則を遵守しなければなりません。ところが、ちばぎん証券は、この適合性原則の遵守が出来ていなかったとして処分されたことになります。特に、仕組み債を保有する顧客の3割弱が、リスク許容度の低い顧客であり、簡単に言えば「仕組み債のような複雑でリスクのある商品を買いたくない」と言っている顧客でした。そのような顧客にも、ちばぎん証券は仕組み債を販売していたことになります。そして、仕組み債で損をした顧客からの苦情の大半を「一方的申出」として処理しており、販売体制に問題があると認識しなかったという問題も指摘されています。

銀行もしくは銀行から紹介を受けた証券会社から販売される金融商品は、信用出来る、安全であるというような印象が顧客にはあります。但し、銀行は信頼するに値しません(確りとやっている銀行もありますが...)。銀行から商品を購入するということは、多額の手数料を取られるものです。資金を増やしたいのに、手数料を取られたマイナスから運用がスタートするのです。そして、仕組み債のように銀行の儲けが多い商品を勧められるのです。銀行の儲けが多いということは、投資家のリスクは高い商品が多いということもあります。銀行も商売でやっているからしょうがないところもあるのですが、リスクが無くて儲かるような運用商品は無いのです。上手い話なんてありません。

 

証券取引等監視委員会の勧告

次に、金融庁の行政処分の元になった証券取引等監視委員会からの勧告内容を確認しましようこちらの方が実態を把握出来るかもしれません。

「ちばぎん証券・千葉銀行・武蔵野銀行に対する検査結果(事案の概要)」において、検査で把された不適切な誘因・勧誘の状況として挙げられているのは以下の通りです。

 

【銀行員へのヒアリング結果等】

  • 個別銘柄を説明してはいけないと思っていなかった。
  • 紹介客も自分の収益になり、実績として大きい。一人だと収益目標を達成しづらいので、証券の方と連携して営業。仕組債は収益効率がよい。
  • 証券営業員に個別銘柄を伝えてその銘柄の勧誘を断られたことはなく、証券営業員は私が依頼した銘柄を勧誘していた。
  • 各支店長に対し、役員が各店別の仕組債(EB債)収益実績表を送付し、積極的な証券仲介の取組を指示。

【証券営業員へのヒアリング結果等】

  • 顧客の利益よりも銀行との良好な関係性を維持することを優先してしまった。銀行員の顔色を窺ってしまっていた。
  • 銀行員が事前勧誘をしてしまっている。銀行からのトスアップ(紹介)の段階で仕組債に決まっていたケースもあったと思う。
  • 同行する銀行員が年上の方だと、リスクの説明を強調して話すと睨まれることがあり、後で指摘されることもあった。

(出所 証券取引等監視委員会「ちばぎん証券・千葉銀行・武蔵野銀行に対する検査結果(事案の概要)」)

これを見る限り、適合性の原則が意識されているとは思えない(もしくは意識されていても結局は無視されている)内容です。また、同勧告では、検査で把握された不適切な苦情処理の状況についても報告されています。

【銀行の問題点】

  • 証券会社が立ち上げた各種会議体により、銀行は、紹介顧客に関する苦情が長期・継続的に多数寄せられてきていることを把握していたにもかかわらず、苦情の発生原因分析や改善策の立案等に十分に取り組まず。
  • 銀行に対しても苦情が寄せられていたが、適切な対応が取られず。※本来想定されていたビジネススキームを前提として対応(あくまで証券会社の顧客であり、銀行の顧客ではないとの整理)。

【証券会社の問題点】

  • 自主規制機関からの計3回に及ぶ注意喚起を受けて、社長も参加する苦情対策のための会議体を設置したものの、適合性原則遵守のための実効性ある態勢整備が行われず。
  • 長期・継続的に寄せられた多数の苦情の中には適合性違反を示唆するものが含まれていたにもかかわらず、それらを「一方的申出」として処理し、苦情を業務改善に活用せず。

【顧客からの苦情の主な内容】

  • 投資経験がないにも関わらず、仕組債を勧誘され、額面割れ償還になってしまった。
  • 銀行の顔見知りの行員から「預金は金利が低いので少しでも役に立ちたい。使う予定のないお金を安全に運用し小遣いが稼げる」と債券(仕組債)の購入を勧められたが、その仕組債で損失を被った。
  • 買付したEB債について、ノックインしたら株券で償還されるという説明は聞いていない。自分の投資スタイルと違う商品を勧誘された。

(出所 証券取引等監視委員会「ちばぎん証券・千葉銀行・武蔵野銀行に対する検査結果(事案の概要)」)

 

所見

この検査結果を見る限り、銀行もしくはその子会社の証券会社が信頼できないことが見えてくるのではないでしょうか。もちろん、全ての販売員に問題がある訳ではなく、真面目に顧客のことを考えている販売員が大半でしょう。それでも、組織全体の販売体制及びチェック機能としては問題があり、自浄作用も働かず、ということがこの検査結果からは見えてきます。地銀の雄である千葉銀行ですら、このような状況ですから、他の地銀がどうなっているのかは推して知るべしです。

筆者が銀行系証券会社から運用商品を購入しないことを強くお勧めする理由はここにあります。皆さんはどう思われますか?