銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「手取り収入の継続した減少」が日本の苦しさの要因

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老後資金2,000万円必要とした金融庁の審議会の報告書が大きな話題になっています。

そして、消費税の増税が予定されています。

個人としては、増税や老後に備えて、節約や貯蓄・資産運用を考えている方も多いでしょう。

日本が一億総中流とされていた時代は遠く過ぎ去り、生活が「苦しい」と答えているのは全世帯の57.7%(厚労省2018年国民生活基礎調査結果)となっています。

今回は、個人の年収に焦点を当て、なぜ我々が生活が苦しく感じるようになってきているかを考察しましょう。

 

平均給与の推移

まずは、平均給与(額面の年収)の推移を見ましょう。

平均給与は1997年の467万円がピークです。リーマンショック後の2009年には急減し、足元では徐々に戻ってきています。それでも2017年は432万円となっており、約20年という期間で見ると平均給与は大きく減少してきました(国税庁調査)。

これは、月にすると約3万円の給与減少となります。すなわち、毎日1,000円の収入が失われたことになります。

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(出所 時事通信Webサイト)

2018~2019年には働き方改革によって残業削減がなされていますので、平均給与は減少する可能性があります。

 

手取り収入の推移

給与をもらっているビジネスパーソンなら誰もが気付きますが、給与はそのまま手元に入ってくる訳ではありません。企業等に勤めていると税金や社会保険料を控除された残りが実際の収入となります。これが「手取り」です。

給与が700万円だとしても、実際の手取りは500万円台半ば程度となってしまうのです。生活をする上では、年収(額面)は何ら意味がありません。手取り収入こそが可処分所得として重要です。 

上記の通り、平均年収(額面)は大きく減少してきました。

では、手取り収入はどうでしょうか。

以下の表を見てください。
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(出所 NHK News Web/サクサク経済Q&A/2017.12.18)

上表は2012年~2017年までの手取り収入の推移です。2018年~2020年は想定です。

5年間でも相応に手取り収入が減少していることが分かります。(それ以上に累進課税を意識するかもしれませんが。)

しかし、上表だけでは問題が分かりません。もう少し長いスパンで手取り収入の推移を確認しましょう。

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(出所 DIAMOND ONLINE/同じ年収でも「手取り」は15年下がり続けている 2017.12.21)

上表は年収700万円で40歳以上、専業主婦の妻と子供二人がいるサラリーマンの例です。手取りは15年間で50万円減少=▲8.5%となっているのです。

50万円といえば、月で4万円強、一日1,400円弱です。

かなり大きな影響を受けていると考えて良いでしょう。

しかし、日本はデフレだったのだから、手取り収入が減少しても影響は緩和されていたのではないかと思う方もいらっしゃるでしょう。

以下の図表をご覧下さい。

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(出所 独立行政法人労働政策研究・研修機構Webサイト)
上表を見ると分かる通り、2000年代では確かに低下していますが、横ばい傾向が強く、近時は2014年の消費増税により物価が上昇しました。従って、この20年程のスパンでみると、物価は横ばい、手取り収入は低下してきたというのが正しい認識と言えます。

 

今後の動向

手取り収入が減少してきた要因は年金と健康保険料の負担増が大きいと言えます。

過去の推移を見ると、厚生年金保険料が13.58%(2003年)→18.30%(2017年)と大幅に上昇してきました。

健康保険料は協会けんぽの場合、8.20%(2003年)→10.00%(2012年)とこちらも増額してきました(民間企業の健保組合は元々の料率が低く、近時は更に大きな割合で料率が上昇している組合も存在します)。

上記のように厚生年金保険料と健康保険料を足すと6.5%です。例えば、月収(額面)が40万円の場合は、2.6万円の負担増があったことになります。

2000年初めの年収700万円と現在の年収700万円は「価値が異なる」のです。

そして、2018年以降を考えると、働き方改革による残業代減少によって、手取りは減少していっているものと思われます。

加えて、2019年10月には消費税増税が予定されています。これは手取り収入への影響はありませんが、物価の上昇という形で家計に影響を与えます。

更に、2020年には年収850万円超ならば給与所得控除の上限額が引き下げられ、増税となる等、手取りが減少する要因もあります。

このような状況では、消費が増える訳はありません。

実際の収入が減少するのですから、マンション価格等、様々なものに影響が出てくることになるでしょう。

健康保険料や厚生年金保険料の料率増加のように少子高齢化の日本においては避けがたい要因はありますが、額面給与よりも「手取り収入を増加させる」方策を取っていかない限り、消費は盛り上がらないでしょう。

これが日本における不景気感、閉塞感の要因なのではないでしょうか。

今後も、手取り収入にこそ注目が必要です。