銀行員のための教科書

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日本国の財政をベタに家計に例えてみる

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日本の財政状況が非常に悪い、日本国の借金が他国と比較しても膨大であるというような話をお聞きになったことがあるでしょう。

GDPと比較すると日本の借金は財政で問題となったギリシャやイタリアよりも悪いと解説する報道をご覧になった方も多いのではないでしょうか。

一方で、日本の財政状況は悪いはずなのに、日本国が借金をきちんと返せると皆が思っているのか、金利の急上昇・インフレ等の問題は起こっていません。

そして、日本国はもっと借金をして国民にばらまき、景気を良くした方が良いとの意見まで存在します。

そもそも日本の財政はどのような状況なのでしょうか。今回は日本の財政を単純化して確認してみたいと思います。

 

日本の財政状況

日本の財政状況は、財務省が公表しています。

全体の特徴としては、基礎的財政収支として支出される費用が76兆円あるのに対して税金収入は62兆円、その他収入は5兆円しかありません。費用と収入の差は新たな借金により埋めているのが日本の財政です。

以下の図は平成31年度一般会計歳出・歳入の構成(臨時・特別の措置を除く)です。

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(出所:平成31年度予算のポイント/財務省)

この図表でも分かる通り、日本の財政は以下のようになっています。

  • 支出の34%を占めるのは社会保障費
  • 地方税収入の少ない地方公共団体への配分である地方交付税交付金が支出全体の16%
  • 社会保障費と地方交付税交付金の合計で国の支出の半分を占める
  • 他の支出としては公共事業6%、文化・科学振興5%、防衛費5%、その他9%

日本の政府による支出は無駄が多いように思われる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、割合から見ると社会保障費と地方交付税交付金という高齢化社会においては減らしにくい項目で支出の半分を占めています。

では、支出は前年度比でどのように推移しているのでしょうか。

【一般歳出 599,359億円(前年度予算比+10,401億円、+1.8%)】

  • 社会保障関係費 339,914億円(前年度予算比+10,031億円、+3.0%
  • 文教及び科学振興費 53,824億円(前年度予算比+311億円、+0.6%)
  • うち科学技術振興費 13,378億円(前年度予算比+204億円、+1.5%)
  • 恩給関係費 2,097億円(前年度予算比▲407億円、▲16.2%)
  • 防衛関係費 52,066億円(前年度予算比+155億円、+0.3%)
  • 公共事業関係費 60,596億円(前年度予算比+807億円、+1.3%)
  • 経済協力費 5,021億円(前年度予算比▲68億円、▲1.3%)
  • (参考)ODA5,566億円(前年度予算比+27億円、+0.5%)
  • 中小企業対策費 1,740億円(前年度予算比▲31億円、▲1.8%)
  • エネルギー対策費 9,104億円(前年度予算比▲82億円、▲0.9%)
  • 食料安定供給関係費 9,816億円(前年度予算比▲108億円、▲1.1%)
  • その他の事項経費 60,181億円(前年度予算比▲1,707億円、▲2.8%)
  • 予備費 5,000億円(前年度予算比+1,500億円、+42.9%)

【国債費 235,082億円(前年度予算比+2,062億円、+0.9%)】

【地方交付税交付金等 159,850億円(前年度予算比+4,701億円、+3.0%)】

【合計 994,291億円(前年度予算比+17,163億円、+1.8%)】

以上を見て分かる通り、前年度比で3%以上増加しているのは社会保障費と地方交付税です。

社会保障費は過去20年間で約20兆円増加しました。

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(出所:2018年4月11日財務省財政制度等審議会財政制度分科会資料「社会保障について」)

人口構造の変化による自然増では、2016~2018年度は年間6,300億円増えると推計されており、これを抑制するために様々な対応策が実施されています。

日本の財政における問題は、ある意味で簡単です。社会保障費と地方交付税交付金をどのようにするかが最も重要なのです。

防衛費や公共事業が大きな問題ではないのは明らかです。

高齢化により膨張する社会保障費(年金や医療費等)と地方公共団体への配分に向き合うことこそが、日本の財政問題の根本です。

 

家計に例えた日本の財政状況

日本の財政状況を家計に例えると、どのようになるでしょうか。単位が分かりやすいように毎月の家計に例えると以下のようになります。

  • 毎月の手取り収入は67万円
  • 扶養する老親の医療費と生活費等で34万円を負担
  • 地方の親戚への仕送りを16万円実施
  • 通常の生活費(防衛費、公共事業費等)は25万円
  • 月々の収入では支出を賄えず借金をすることが常態化
  • 今まで積み重なってきた借金の元本返済と利息支払が毎月24万円
  • 毎月の収入と支出の差額補てんと元本返済・利息支払のため、毎月32万円を新規に借入

これが日本の財政状況を家計に例えた場合の姿です。

家計と比べることが適切ならば、日本の収入と支出の状況は持続不可能です。

 

まとめ

国家の財政と家計を比べることに批判があることは承知しています。また上記では支出と収入のみに焦点を当てていますが、国家のバランスシート(資産と負債のバランス)を見るべきとの意見もあります。

そして、国家には徴税権があることから、個人や企業の金融資産が余剰となっている日本においては、国家の信用が失われない等の意見もあるでしょう。

日本銀行が国債を大量に買うこともできるため、むしろ政府は財政出動を行い景気を改善すべきだという意見もあります。過去の実績を鑑みれば、日本国の信用は崩壊してこなかった事実がその根拠となります。

しかし、収入で支出が賄えず、差額を新たな借金で埋めているならば、その借金はいつか返す必要があるはずです。返さなくて良い借金ならば、それは借金ではありません。そして、そのような借金(のようなもの)は誰が提供してくれるのでしょうか。

借金を返さなくていけないのであれば、そのための選択肢は家計も国家財政も変わりません。

収入を増やすか、支出を減らすかです。

日本においては消費税により収入を増やそうとしており、一方で医療費や年金の増加を抑制しようとしています。しかし、現在のレベルでは緩和効果はあっても解決には十分ではありません。

日本は少子高齢化が進んでいきます。シルバー民主主義と言われるように、政治家は、割合が多くなり、かつ選挙での投票率が高い高齢者が好む政策を実施する傾向がさらに強まるでしょう。

冷静に国家の財政を考えるならば、本来は社会保障費や地方への支援を減らすしかありません。それが無理ならば、税収を増やすのです。

これが、必要な改革だと筆者は認識しています。日本の財政問題の解決には、派手なことも、奇策もないのです。