スルガ銀行の2019年3月期決算が発表されました。
スルガ銀行の業績は、シェアハウス融資における不正手続きの発覚、延滞債権の増加を受け、大幅な赤字となっています。
しかし、問題は赤字なのでしょうか。それ以外に何か大きな問題はないのでしょうか。
今回はスルガ銀行の2019年3月期決算について確認していきましょう。
報道内容
スルガ銀行の決算概要をつかむには新聞記事を確認するのが良いでしょう。以下、日経新聞の記事を引用します。
スルガ銀前期、971億円の赤字
2019/5/15 日経新聞スルガ銀行が15日発表した2019年3月期の連結決算は、最終損益が971億円の赤字(前の期は69億円の黒字)だった。不正が横行した投資用不動産向け融資の焦げ付きに備えた引当金が響き、02年3月期以来17年ぶりの最終赤字となった。巨額の不良債権処理で損失懸念を一掃し、再建を進めたい考えだ。
投資用不動産向け融資での不正を受け、不良債権処理損失から償却債権取り立て益を除いた実質与信費用は1363億円に達した。
このうち、シェアハウス関連融資先が977億円を占めた。1棟収益ローンなど投資用不動産ローンが222億円で、創業家関連(ファミリー)企業向けが134億円。シェアハウス関連融資の保全率は92%で、18年12月時点からほぼ横ばいだった。
本業のもうけを示す単体の実質業務純益は531億円で22%減少したものの、貸出金利回りは0.29ポイント低下の3.32%で、地域金融機関としては高い水準を維持した。総資金利ざやは0.23ポイント低い1.45%。財務の健全性を示す自己資本比率は連結で8.90%で、規制で求められる4%を大きく上回った。ただ、19年3月末の預金残高は3兆1656億円で、18年3月末に比べて9240億円も減少している。
預金減少の規模は大きいが、有国三知男社長は「(流出が)完全に止まったわけではないが、潤沢な資金は確保できている」と説明する。
20年3月期の連結業績は、経常損益が160億円の黒字(前期は743億円の赤字)、最終損益も105億円の黒字に転換すると見込む。不良債権処理が一服するうえ、比較的金利の高い個人向けの貸し出しが収益を下支えする。
(以下略)
なお、スルガ銀行の実質業務純益(本業の利益、営業利益に近い概念)は531億円です。この水準は、同じ静岡地盤の第一地銀である静岡銀行の実質業務純益539億円であり、ほぼ同等水準です。
静岡銀行の預金残高は9兆8777億円、貸出残高は8兆5568億円と、スルガ銀行の3倍程度の規模と考えておかしくはありません。それでも本業の利益水準は同等なのです。
スルガ銀行の利益水準がいかに高かったか(そして今も高いか)について理解できるでしょう。
業績概要
それでは、もう少し詳しくスルガ銀行の業績について見ていくことにしましょう。
まず資金利益≒貸出金利息が前期比▲144億円(同▲12.2%)となりました。
貸出金期末残高は、前期末比▲3,471億円(同▲10.6%)となっています。2018年3月期には3,533億円の新規実行がありましたが、2019年3月期はシェアハウス関連融資の問題発覚により新規融資を止めていましたので新規融資は373億円に留まりました。
スルガ銀行は、貸出全体で見ると平均貸出期間は10年間となっているのでしょう。毎年10%程度貸出残高が減少するものと思われます。
このポイントは銀行は貸出業務が儲かっている間は、ストック商売であるが故に、急激に業績が悪化しないということです。
スルガ銀行は、新たな貸出をしなくとも、今までの貸出金の利息によって、地銀上位の静岡銀行と同じレベルの本業利益を計上出来ているのです。
シェアハウス向け融資について大幅な損失が計上されましたが、この融資を除けば現在のところは相応の利益を計上出来ていることになります。
しかし、スルガ銀行の決算で最も問題になるであろうことは、間違いなく資金繰りです。
資金繰り状況
スルガ銀行の預金期末残高は、前期末比▲9,240億円(▲22.5%)となっています。同行の大半を占める個人預金期末残高は、前期末比▲6,861億円(▲21.4%)となっており、不祥事に敏感である法人(地方公共団体含む)が預金を減少させたのみならず、個人もスルガ銀行から預金を引き出したことが分かります。
以下は昨年度のスルガ銀行の預金残高推移です。
<預金残高推移>
- 2018年3月→2018年6月:▲2,181億円
- 2018年6月→2018年9月:▲4,556億円
- 2018年9月→2018年12月:▲1,873億円
- 2018年12月→2019年3月:▲630億円
預金残高は減少ペースが低下しており、落ち着きを取り戻していると言えるかもしれません。
この預金減少=▲9,240億円により影響は出なかったのでしょうか。
まず、2018年3月末に9,734億円あった現預金は4,241億円(前期末比▲5,493億円)まで減少しました。
預金者に9,240億円を返すために、現預金を▲5,493億円取り崩したことになります。
では、残りはどうしたのでしょうか。
これが、貸出金残高の減少です。貸出金期末残高は、前期末比▲3,471億円となっています。
すなわち、2019年3月期においてスルガ銀行は預金者からの預金引き出しに応じるために、手元現預金を約5,500億円取り崩し、さらに貸出金の回収金約3,500億円を預金払い出しに回しました。
仮の話ではありますが、貸出金の新規実行を前年度と同等の水準で行っていたら、スルガ銀行の現預金はほとんど無くなっていたことになります。
もし2019年3月通期並みの預金引き出しが続けばスルガ銀行の資金繰りは持たない可能性が高いと言えます。
これが現実のスルガ銀行の足元における問題であり、信用が失われた銀行の最も大きな問題は資金繰りの安定(少なくとも預金残高の減少ペースを貸出金残高の減少ペースと同等に抑える)ことです。
所見
以上、スルガ銀行の2019年3月期決算のポイントを見てきました(貸出金の引当・処理のような分かりやすい分野については新聞等報道でも分析されるのでそちらに任せます)。
スルガ銀行の問題は、とにかく資金繰りということになります。
銀行という業種は信用が無くなった瞬間に破綻します。預金の取り付け騒ぎが起これば、銀行はどうしようもありません。
銀行は、預かった預金を全て手元に置いておかず、第三者に貸出として渡しています。それでも、預金者に「いつでも預金を返してもらえる」という安心感を与えることによって、このビジネスモデルが成り立つのです。
スルガ銀行は、この信用が棄損しかけている状況にあると言えます。信用を補完するために、金融庁も含めて資本提携先を探しているのです。
スルガ銀行が現在発表している提携はあまり実効性が見込めないと筆者は考えています。それでもスルガ銀行は信用が棄損している状況を変えなければならないのです。
本来であれば、りそな銀行や大手地銀の傘下に入ることが最も信用の補完となりましたが、シェアハウス融資以上に貸出残高が多いワンルームローンや一棟収益ローンが実際にはシェアハウス融資同様に問題を抱えている疑念が払しょく出来ないならば、他行の傘下に入るのは難しいでしょう。
もしかすると、預金者はスルガ銀行の信用について問題ないと判断し、預金の引き出しを行わなくなるかもしれません。しかし、こればかりはどのようになるか分かりません。
スルガ銀行は早急に創業家の株式問題を片付け、自行の貸出債権の質に問題が無い旨を第三者(金融庁等)からお墨付きをもらい、他行の傘下に入る準備を行う必要があるものと思います。スルガ銀行が万が一にでも破綻すれば、他の弱小と言われる地銀にも取り付け騒ぎが波及する可能性があります。金融当局としては留意が必要でしょう。