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スルガ銀行の資金繰り懸念は終わっていない~2019年4~9月レビュー~

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スルガ銀行が2020年3月期2Q決算(2019年4~9月)を発表しました。業務純益(営業利益に近い概念)、経常利益、最終利益とも黒字を確保しています。

スルガ銀行は業況の最悪期を脱したのでしょうか。

今回はスルガ銀行の2019年4~9月の中間決算の内容について確認したいと思います。

 

業績概要

スルガ銀行の2020年3月期中間決算の概要は以下の記事にまとまっていますので引用します。 

スルガ銀、159億円の最終黒字に 4~9月期 
2019/11/14 日経新聞

スルガ銀行が14日発表した2019年4~9月期連結決算は最終損益が159億円の黒字に転じた。前年同期は不正が横行した投資用不動産向け融資の焦げつきに備えて巨額の引当金を積み、1007億円の最終赤字だった。4~9月期は引当金などの費用が減り利益を押し上げた。

本業のもうけを示す単体のコア業務純益は前年同期比33%減の198億円だった。低金利で貸し出しから得る利益の減少傾向が続いた。不正融資問題の影響で流出が続いた預金残高は9月末時点で3兆1649億円と、6月末より231億円増えた。
財務体質の強化を優先して中間配当は無配当とした。20年3月期の連結純利益は、当初予想より50億円増の155億円に上方修正した。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52164360U9A111C1EE9000/

スルガ銀行の最終利益は黒字に転換しました。前年同期は、シェアハウス融資等の問題により多額の貸倒引当金を積み巨額の赤字になっていましたが、当期はその要因が剥落したからです。

本業のもうけを示す業務純益(一般企業の営業利益に相当)は大幅に減少していますが、これは新規貸出を見送っていたことと金利の低下が要因と思われます。

また、流出が預金残高は2019年9月末時点で流出が止まったとされています。

これだけを見ると、スルガ銀行は一時期の経営危機を脱したようにも思えます。以下でもう少し詳しく決算の内容を見ていくことにしましょう。

 

決算のポイント

今回のスルガ銀行の決算のポイントは、黒字転換したことに焦点が当たるのでしょう。そのような解説は新聞等が行うと思いますので、筆者としては本当に重要と思われるスルガ銀行の資金繰りこそにポイントを絞りたいと思います(中期計画で発表した施策やシェアハウス融資の処理状況は重要ですが、今回は省きます)。

<資金繰り>

  • 預金残高 31,649億円(前期末比▲7億円、2019年6月末比+231億円)
  • 現預金 6,786億円(前期末比+2,550億円)

これだけ見るとスルガ銀行の資金繰り懸念は緩和されていると言えます。預金流出も収まり、現預金の水準も増加しました(一部は貸出債権の証券化で調達しています)。

しかし、預金については個人からの流出が続いています。2019年9月末時点の個人預金は24,561億円ですが、これは2018年9月末比▲2,872億円です。前期末(2019年3月末)比では▲496億円、2019年6月末比では▲208億円ですので、預金の流出スピードは緩やかになりましたが、個人からの信頼回復は道半ばと言えるでしょう。

また、最も大きな懸念点ですが、上記の数字はあくまで決算断面だということです。

預金の「期末残高」ではなく「平均残高」で見ると違う風景が見えてきます。

<預金「期末」残高>

  • 2018年9月 34,159億円
  • 2019年3月 31,657億円(2018年9月比▲2,502億円)
  • 2019年9月 31,649億円(2019年3月比▲8億円)

<預金「平均」残高>

  • 2018年9月 37,913億円
  • 2019年3月 35,042億円(2018年9月比▲2,871億円)
  • 2019年9月 30,790億円(2019年3月比▲4,252億円)

上記残高推移で見ると分かるように、期末時点の預金残高は下げ止まっています。

一方で、平均残高では減少幅は拡大しています。

これは何を意味するのでしょうか。

 

スルガ銀行の資金繰り

筆者は、上記に何らかの調整の意図を感じます。

スルガ銀行は法人取引が少ないことで有名ですから、期末だけ法人取引先に「お願い」をして法人預金を積み上げるのは難しいでしょう。提携関係にあるノジマは、連結で225億円(2019年9月)しか現預金を保持していません。ノジマがスルガ銀行の資金繰り懸念払拭、支援のために預金を預け入れようとしても限界があります。

ここで筆者が思い出したのは以下の日経新聞の記事です。

スルガ銀救った「預金支援」 迫る銀行廃業時代
2019/01/14 日経新聞
 「スルガ銀行に預金してくれないか。500億円は欲しい」。2018年秋、地方銀行を所管する金融庁の銀行第2課は主な地銀に預金協力を打診した。ある地銀幹部は「20年前の奉加帳方式が復活したのか」と驚いた。
 会社員らを対象にした投資用不動産向け融資を拡大し、高収益を誇ったスルガ銀行。弁護士らでつくる第三者委員会は18年9月7日に投資用不動産への融資に絡んで、組織的な審査書類の改ざんなど不正融資の実態を公表した。
 この前後から預金流出が加速。「このまま預金が減れば危険水準に陥る」。スルガ銀行首脳は危機感を募らせていた。18年4~9月期に減った預金は6737億円で、全預金の16%。預金のほとんどを融資に回し、換金可能な有価証券は手元にわずか。特異な事業構造も災いした。
 「スルガ銀行の自業自得だ」。金融庁内には資金繰り破綻はやむを得ないとの強硬論もあった。だが、資金規模が3兆円を超える大きな地銀が破綻すれば、中小の地銀への連鎖は避けられない。「新体制で再生するまで信用を補完した」と金融庁関係者。日銀も資金供給を準備し、スルガ危機の封じ込めに動いた。

(以下略)

すなわち、筆者は、金融庁の要請に基づき、期末だけ預金を他地銀がスルガ銀行に預けているのではないかと想定しています。

しかし、預金が減少していっても貸出も減少(=返済によりキャッシュとなって戻ってくる)していけば資金繰りの問題は発生しません。そこで預金と貸出金の差がどのようになっているのかも確認しましょう。

<預金と貸出金の差額>

  • 2018年9月 期末残高差=3,300億円、平均残高差=6,564億円
  • 2019年3月 期末残高差=2,668億円、平均残高差=4,494億円
  • 2019年9月 期末残高差=4,933億円、平均残高差=3,396億円

平均残高差はまだ縮小傾向が続いています。そして2019年4~6月には1,080億円の債権を証券化しています。すなわち、単純化すると債権は▲1,080億円、預金残高は+1,080億円となっているはずです。この事象も勘案すると、まだスルガ銀行の資金繰りは厳しい状況が続いているのです。