銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

スルガ銀行の「資金繰り」という問題(2018年4~12月決算)

f:id:naoto0211:20190214201215j:image

スルガ銀行が2019年3月期3Q(2018年4~12月)決算を発表しました。

シェアハウス向け融資に端を発したスルガ銀行の状況はどのようになっているのでしょうか。

今回はスルガ銀行の決算について重要なポイントに絞って見ていきましょう。

 

決算概要

まずはスルガ銀行の決算の概要をおさえておきましょう。

以下は日経新聞の記事です。以下引用します。

スルガ銀行の18年4~12月期、最終損益961億円の赤字
2019年2月14日 日経新聞

スルガ銀行が14日に発表した2018年4~12月期の連結決算は、最終損益が961億円の赤字(前年同期は347億円の黒字)となった。経常収益は前年同期比7.3%減の1090億円、経常損益は789億円の赤字(前年同期は506億円の黒字)だった。

経営成績について、経常収益は、貸出金利息の減少による資金運用収益の減少等により、前年同期から減少した。経常費用は、シェアハウス関連融資等にかかる与信費用の増加により、前年同期比1210億2800万円増加の1879億4800万円となった。

2019年3月期は最終損益が975億円の赤字、経常損益が755億円の赤字の見通し。

このようにスルガ銀行の2018年4~12月の決算は貸出金の減少による減収、不良債権処理による最終大幅赤字となりました。

この損益については予想の範囲内と考えて良いでしょう。

しかし、上記の新聞記事では触れられていませんが、スルガ銀行については大きな問題が起きています。

次にスルガ銀行の「大きな問題」を見ていきましょう。

 

資金繰り問題

スルガ銀行の3Q決算については、様々な報道機関等が記事を書くと思いますので、今回は最も問題となる可能性がある「資金繰り」という問題に焦点をあてます。

以下の数字を確認してください。

 

【2018年12月末時点(連結)】

  • 現金・預け金 4,033億円(前期末=2018年3月末比▲5,701億円)
  • 貸出金 29,736億円(同▲2,745億円)
  • 預金(負債) 32,213億円(同▲8,587億円)

今回のスルガ銀行の決算でポイントとなる数字は上記3点です。

スルガ銀行からは預金(預金者から預かっている負債)が流出しています。9カ月の間に▲21%減少しているのです

一方で貸出金は長期の不動産投資ローンが多いでしょうから簡単には回収出来ません。同じ期間に貸出金は▲8%しか減少していません。

すなわち、誤解を恐れずに言えば、預金の減少額(流出)と貸出金の減少額(入金額)の差である▲5,842億円が外部に流出した、といえるのです。

それを裏付けるのが現金・預け金の▲5,701億円の減少です。

貸出金はすぐにはキャッシュ化が出来ない資産です。一方で預金は預金者から請求があればすぐに支払わなければなりません。

銀行の「金庫」には預金者から預かった預金が現金のまま保管されている訳ではありません。一部の現金を残し、残りは貸出金等として運用しているのが銀行のビジネスモデルです。

つまり、預金者から一度に集中して預金の払い戻し請求がなされると銀行は預金の払い戻しに応じられなくなります。銀行には少しのキャッシュが無いからです。

銀行は信用で成り立っているビジネスです。銀行に預けたお金は必ず返ってくる、という安心感があるから預金が集まり、すぐには預金が引き出されず、そのため企業や個人に貸出が出来るのです。

しかし、スルガ銀行に起きていること(もしくは起きつつあること)は、預金の流出です。スルガ銀行に預けている預金が返ってこない可能性があると判断している預金者が増えてきたということです。

2018年12月末時点では約4,000億円の現金がありますが、これを超える預金の払い戻し請求がなされたならば、他にキャッシュ化できる資産が少ない(有価証券は1,305億円)スルガ銀行は第三者から資金を借りなければ払い戻しに応じられなくなります。そのような事態が発生すれば、まさに資金繰り破綻であり、信用不安の発生であり、取り付け騒ぎになるかもしれません。

このようにスルガ銀行の預金減少は大きな問題となる可能性があるということなのです。

金融庁や日本銀行はスルガ銀行の資金繰り破綻を懸念しており対応を取り始めています。

(以下の記事ご参照)

この金融庁や日本銀行の取り組みが効果を発揮するかは分かりません。

 

所見

スルガ銀行の資金繰りに問題が起きるかは筆者には分かりません。預金の流出は明確な理由なく止まるかもしれません。また、金融庁の対応や、日本銀行からの資金調達により資金繰り問題が表面化しないこともあるでしょう。

しかし、一方で信用不安が加速する可能性もあるのです。

恐らく、金融庁は必死でスルガ銀行と他行との統合を模索しているでしょう。預金者の不安が大きくなる前に信用の補完を狙っているはずです。

遠くない未来に、統合の発表がなされる可能性が高いのではないかと筆者は予想しています。

(なお、どの銀行も統合を忌避する可能性もあります。スルガ銀行の貸出の延滞率が急激に上昇しており想定以上に資産が傷んでいる可能性があるためです。)