山口県に本店を置く西京銀行に対して金融庁が立ち入り検査を行うと報道されています。
西京銀行は、東証1部上場のTATERUが公表した「従業員が、不動産投資を希望する顧客の預金残高データを改ざんし提出していた」銀行です。そして、西京銀行はTATERUの顧客の融資の申し込みを一手に引き受けていたと一部では報道されています。
すなわち、金融庁はスルガ銀行のような問題が西京銀行にもあるのか、疑いを持っているということでしょう。
今回は、この西京銀行の2019年3月期2Q決算について確認していきましょう。
西京銀行頭取インタビュー記事
まずは、西京銀行の頭取がTATERUの改ざん問題が発覚した後に取材で答えている内容を引用します。
データ・マックス Net IB News 2018年09月25日
「TETERU改ざん問題」西京銀行・平岡頭取との一問一答
(中略)
平岡 アパート融資は福岡を中心にやっているのですが、福岡の人口が増えているのと、昔と違って今は中高年などのお1人の方でもアパートに入られる方が多く、需要はあります。ですが、実質実入りでいいますと、全部保証付きですから、意外と利ザヤが少ない。リスクはないですが・・・。そのため店舗の統廃合とか、人も減らしてきていて、いずれにしろなくなるからそろそろ減らしていく方向だろう、という考えはもっています。
福岡でのTATERUのアパートは、割と評判が良いと我々は認識していますが、それ以外のところはもう全部やめています。地元のアパートについては、2004年12月に原則やめていて、それ以外の大手との提携も、昨年の夏ぐらいにやめています。唯一残っていたのがTATERUだけです。――西京銀行の今の事業の柱は。
平岡 事業の柱といえば、地元・山口の中小企業への融資ですね。これが、地方銀行の存在意義ですし、そこがないと預金は集まりません。
(以下略)
このように西京銀行はアパートローンにはすでに消極的であり、地元の中小企業への融資が事業の柱であるとしています。
では、この点を踏まえて西京銀行の2019年3月期上半期の決算内容を以下で見ていきましょう。
決算概要(2018年4~9月)
では、西京銀行の決算を見ていくことにしましょう。数値は単体決算です。
- 業務粗利益(≒売上高)8,958百万円(前年同期比+289百万円)
- 資金利益(貸出金・有価証券利息等)9,461百万円(同+305百万円)
- 役務取引等利益(手数料)▲806百万円(同+405百万円)
- その他業務利益(債券売買損益含む)302百万円(同▲421百万円)
- 経費5,823百万円(同▲58百万円)
- コア業務純益(債券売買損益を除く本業利益)2,855百万円(同+150百万円)
- 資金運用利回 (A) 1.50%(同▲0.06%)
- うち、貸出金利回 1.60%(同▲0.08%)
- うち、有価証券利回 1.56%(同▲0.05%)
- 資金調達原価 (B) 1.04%(同▲0.08%)
- 総資金利鞘 (A)-(B)0.46%(同+0.02%)
- 有価証券評価損益 全体 +3,985百万円(同▲1,467百万円)
以上の決算をまとめると、西京銀行は「本業の資金利益が増加し」「債券売買益への依存度が低く」「総資金利鞘がプラスになり」 「本業の利益が増益」、かつ「有価証券の評価損益も減少したものの含み益を維持」ということになります。
この決算だけをみていれば好調といっても良いでしょう。
西京銀行の決算における留意点
以上のように西京銀行の2019年3月期中間決算は好調に推移しています。
しかし、貸出内容を精査していくと、少し違った風景が見えてきます。
以下の数字を確認しましょう。
<2018年3月期ディスクロージャー誌>
- 不動産業向け貸出件数5,366件、貸出残高288,385百万円(筆者註:一件平均54百万円弱)
- 住宅ローン 377,593百万円(平成29年3月)、414,947百万円(平成30年3月)
- 住宅ローン残高のうち、賃貸に係るもの(前事業年度239,573百万円、当事業年度215,925百万円)については、上記残高より控除
- 貸出金(全体)=1,176,749百万円(平成30年3月末比+72,924百万円、平成29年9月末比+114,442)
- 業種別貸出金=不動産業、物品賃貸業 332,398百万円(平成30年3月末比+39,867、平成29年9月末比+58,233百万円)
- 業種別貸出金=その他 480,013百万円(平成30年3月末比+20,171百万円、平成29年9月末比+35,898百万円)
西京銀行の貸出金は全体で11,767億円あります。
そのうち「不動産業・物品賃貸業」が3,324億円=28%、「その他」が4,800億円=41%となり、あわせて69%となっています。その他のうち、ほとんどは住宅ローンとなります。この2つのセグメントで、ほとんどの同行の貸出と増加額を説明できます。そして、不動産業は上記の通り小口のものが多いと想定され、ほとんどがアパートローン向け貸出となっている可能性があります。
なお、同行の業種別貸出の例示をすると、製造業 38,839百万円、建設業 42,794百万円、卸売・小売業 52,027百万円、医療・福祉 35,752百万円となっており、不動産業・物品賃貸業の比率が突出していることが分かります。
すなわち、西京銀行は地方銀行ではありますが、一般的なイメージの地方銀行ではなく、地元の不動産関連融資を行う銀行ということになります(全て地元で融資しているかは不明ですし、上記の頭取インタビューの内容とも齟齬があるかもしれませんが)。付言しておくと、スルガ銀行はほとんどが個人向け融資ですので、西京銀行の方が法人との取引もあるといえ、この点では異なります。
これが西京銀行の貸出の内容です。
これ以上のことは第三者が内容を把握するのは難しいでしょう。実際の債権の内容がどのようになっているか、自己査定はきちんと行われているか、保全はきちんと評価されているか、貸倒引当金の水準は正しいか等は内部に入ってみないと分かりません。
これから金融庁が西京銀行の資産内容を確認することになると思われます。TATERUの改ざん問題のような事象はあまりないのかもしれませんし、スルガ銀行のように多数の問題があるのかもしれません。しかし、そもそも西京銀行は不動産関連融資が多い銀行です。地銀各行が厳しい環境下で収益苦戦している中、相応の業績を上げているということは、どこかで無理をしている可能性はあります。
金融庁の立ち入り検査結果に注目していきたいと思います。