銀行員のための教科書

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金融庁が要請したスルガ銀行への預金支援はナンセンス

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スルガ銀行を金融庁が預金支援したと報じられています。

これはどのようなことでしょうか。

今回はスルガ銀行への預金支援について考察します。

 

報道内容

日経新聞が非常に興味深い報道をしました。スルガ銀行の資金繰りを支えるために、他の銀行にスルガ銀行への預金を要請したというものです。

スルガ銀救った「預金支援」 迫る銀行廃業時代
2019/01/14 日経新聞

 「スルガ銀行に預金してくれないか。500億円は欲しい」。2018年秋、地方銀行を所管する金融庁の銀行第2課は主な地銀に預金協力を打診した。ある地銀幹部は「20年前の奉加帳方式が復活したのか」と驚いた。
 会社員らを対象にした投資用不動産向け融資を拡大し、高収益を誇ったスルガ銀行。弁護士らでつくる第三者委員会は18年9月7日に投資用不動産への融資に絡んで、組織的な審査書類の改ざんなど不正融資の実態を公表した。
 この前後から預金流出が加速。「このまま預金が減れば危険水準に陥る」。スルガ銀行首脳は危機感を募らせていた。18年4~9月期に減った預金は6737億円で、全預金の16%。預金のほとんどを融資に回し、換金可能な有価証券は手元にわずか。特異な事業構造も災いした。
 「スルガ銀行の自業自得だ」。金融庁内には資金繰り破綻はやむを得ないとの強硬論もあった。だが、資金規模が3兆円を超える大きな地銀が破綻すれば、中小の地銀への連鎖は避けられない。「新体制で再生するまで信用を補完した」と金融庁関係者。日銀も資金供給を準備し、スルガ危機の封じ込めに動いた。
 地銀の優等生とされたスルガ銀行でさえ、不正融資で経営の屋台骨が揺らげば資金繰りに窮した。経営難に陥るリスクを抱えている地銀は少なくない。
 貸出金利と金融商品の販売手数料から営業経費を引いた本業損益で、5期以上も赤字を解消できない地銀は全106行のうち23行ある。その数は毎年2~3割増えている。有望な企業が地方に少ないうえに、マイナス金利で収益の源泉である貸出金の利ザヤが縮小していることが底流にある。有価証券運用が失敗したり、想定外の不良債権を抱えたりすれば健全性を示す自己資本比率が規制水準の4%を下回る銀行はいくつも存在している。
 地銀が張り巡らす店舗網は全国で約1万。大手銀行の4倍だ。行員は1.8倍。にもかかわらず預金量は大手の8割にすぎない。人口減で縮む国内市場に多くの銀行がひしめく構造はもはや持続性に欠ける。
 「廃業という選択肢もある」。金融庁内で苦肉の策として模索されているのは、危機的な状態になる前に経営をたたむ銀行の自主廃業案だ。銀行法は廃業命令や、その一歩手前の上場廃止命令を規定していない。中小の地銀が経営難に陥れば、預金はあっという間に流出する。近未来の銀行廃業時代を見据え、危機対応の聖域なき議論が進む。

(以下略)

以上が金融庁が地方銀行に要請した預金支援の概要です。

これが事実かは筆者には分かりませんが、この時点の様々な動きを見れば、事実の可能性は高いでしょう。

 

その他の報道等

上記の日経新聞記事にあった通り、スルガ銀行が資金繰りの懸念がわずかでもあったことは以下の記事でも分かります。

日銀、スルガ銀に最大2500億円の資金供給可能に=関係筋 2018/11/2 ロイター

[東京 2日 ロイター] - 日銀は、スルガ銀行(8358.T)の資金繰りに万全を期すため、最大で2000─2500億円の資金供給を行う体制を整える。スルガ銀が差し入れる住宅ローン債権を元にした信託受益権を担保として認める。スルガ銀に端を発する金融システム不安を未然に封じ込める狙いだ。複数の関係筋が2日、明らかにした。

関係者によると、スルガ銀は住宅ローン債権3000億円超を信託銀行に信託譲渡し、受益権を取得した。日銀に対して「適格担保」となるかどうかの判定も依頼、内諾を得ており、近く担保として差し入れる。

これにより、同行は日銀から速やかに資金を借り入れられる体制を整える。日銀が実際に資金供給するかどうかは、資金繰り状態を見て判断する。

(中略)

スルガ銀が信託受益権を担保にすることで、日銀が金融機関の要請に応じて受動的に貸し付けを実行する「補完貸付制度」や、金融機関の健全性を確保するために個別に条件を設定して行う有担保貸付など、さまざまな資金供給手段を活用する枠が広がることになる。

金融庁や日銀は、スルガ銀の資金繰りを常時モニタリングしているが、現在のところ、資金繰り難に陥るとはみていない。しかし、不測の事態に備えて、スルガ銀が日銀から資金供給を受ける仕組みが必要と判断し、同銀に対して体制を整えるよう求めた。

(以下略)

スルガ銀行は中間決算発表の記者会見で、資金繰りについても発言していました。

資金繰りが悪化した場合に備え、日銀と連携して適格担保を元に資金供給を受けられる準備をしていることを明らかにしていたのです。その上で、現預金が5,000億円超あり、すぐに資金供給が必要な状態ではないと強調していました。中間決算で判明したことは、シェアハウス向けの不正融資問題が起きて以降、預金流出が続いており、2018年9月末までの半年間で6,697億円減少していたという事実です(2018年11月14日 Bloomberg)。

 

所見

この金融庁が地方銀行に預金支援を要請したというのは事実でしょうか。

そして、このようなやり方は金融システム維持のために、本当に必要なのでしょうか。

このような要請をアンダーグラウンドで行い、実際にスルガ銀行が破綻して地方銀行に損失が発生したら、金融庁は責任を取れるのでしょうか。それこそ、市場や個人が疑心暗鬼になり、地方銀行に取り付け騒ぎが起こる可能性もあるでしょう。

このような金融行政はまさに護送船団方式と言われていた時代の行政と何ら変わっていないように思います。

今回はこのような手法によって問題が顕在化しなかったのかもしれませんが、今後は間違いなく難しくなります。

現在は、銀行の自己資本比率規制上は、他の銀行向け債権(預金も銀行に対する貸付債権です) は20%のリスクウェイトですが、バーゼル3が国内銀行にも適用されるとリスクウェイトが引き上げとなります。

(※リスクウェイトとは、保有する資産(債権)の種類によって決まる信用リスクの大きさを示す指標。貸倒リスクの大きい資産ほど高いリスク・ウェイトとなる。出典 三井住友FGディスクロージャー資料)

スルガ銀行の場合、現在の格付はムーディーズ・ジャパンでB2です。

以下の資料を見れば分かるように、リスクウェイトが長期債権なら100%、短期債権なら50%になります。

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 (出典 「信用リスク(標準的手法)」の概要 2018年2月 金融庁/日本銀行)

すなわち、将来的には、地方銀行がスルガ銀行に預金を預けることは貸出を行うことと同じ自己資本の用意が必要ということなのです。

預金金利はほとんど付かない一方で、リスクは一般企業への貸出債権と同じだとみなされるのです。

このような取引を金融庁は喜んでも、銀行の株主は許さないでしょう。

本件については、金融庁の裁量行政も問題ですが、もし金融庁要請を受けて地方銀行がスルガ銀行に預金していたのであればその地方銀行も問題ではないでしょうか。