RIZAPグループが2019年3月期の決算を発表しました。
決算内容は最終赤字が193億円の大幅赤字となっており、M&Aを乱発してきたことが要因とされています。
テレビCMでおなじみのRIZAPグループにどのようなことが起きているのでしょうか。
今回はRIZAPグループの2019年3月期決算について確認してみましょう。
報道内容
RIZAPグループの2019年3月期決算概要を掴むには新聞記事を確認するのが良いでしょう。以下日経新聞の記事を引用します。
RIZAP、前期最終赤字193億円 M&A乱発のツケ重く、本業は好調
2019/05/15 日経新聞RIZAPグループが15日発表した2019年3月期連結決算(国際会計基準)は最終損益が193億円の赤字だった。90億円の黒字で過去最高益を更新した前の期から一転。18年11月時点で見込んでいた70億円の赤字からも大幅に赤字が膨らんだのは、急速なM&A(合併・買収)で抱えた不採算子会社の構造改革費用がかさんだためだ。会員増や単価上昇で堅調な本業を軸に今期は黒字転換を目指す。
15日記者会見した同社の瀬戸健社長は「緊急性の高い構造改革は完遂した。今期は成長事業へ経営資源を集中して黒字化し、来期にはV字回復させたい」と話した。
決算書類には企業の存続に疑念を抱かせる状況を示す「継続企業の前提に関する重要事象」が記載された。多額の損失計上が理由だが、同社は同日、取引先金融機関との融資枠(コミットメントライン)契約も結んだと発表した。安定的に資金調達できることから、「事業活動の継続性に疑念はない」としている。
19年3月期の売上高は過去最高の前の期比82%増の2225億円だった。CD・ゲーム販売のワンダーコーポレーションの買収などが増収につながった。ただ、営業損益は93億円の赤字(前の期は117億円の黒字)に転落。前の期に利益を87億円押し上げていた割安な買収の際に発生する「負ののれん」を、新規M&Aの停止で計上できなくなった。構造改革関連費用を販売管理費に93億円計上したことも響いた。
同日決算発表した上場子会社8社が店舗閉鎖などの費用を特別損失に計上し単純合計の最終損益が約85億円となったことも最終赤字幅の拡大につながった。ただ、18年6月に公募増資などを実施したため期末の自己資本比率は7.3ポイント増の23.5%だった。
本業の個人向けジム事業は堅調だ。19年3月末時点の累計会員数は18年3月末に比べて2.4万人増の13万人。17年度の増加数(2.7万人)とほぼ同じ水準だ。15年4月には3割程度だった半年以上の在籍会員数は、現時点で5割弱まで増えた。長期在籍の会員が増えると、募集コストなども不要になるため収益の安定につながる。個人向けジムなどの売上高は413億円と前の期比26%増、営業利益は17年3月期と比べて3.5倍に増えた。
ただ、消費者の健康志向の高まりなどで業界の会員獲得の競争は激しい。RIZAPは個人向けジムの新規出店を18年11月から停止し、129店にとどまる。(以下略)
新聞記事だけを見るとM&Aで売上は大幅に増えたものの、不採算子会社の構造改革が必要になり大幅な赤字に転落したように感じるかもしれません。またM&Aの新規停止で見込んでいた収益が発生しなくなったことも目に付くでしょう。
ただし、本業は好調であり、構造改革も行ったことから、短期的に業績は回復するだろうというイメージを持つかもしれません。
では、RIZAPグループの業況について、もう少し詳しく見ていきましょう。
RIZAPグループ決算の状況
まずRIZAPグループの決算資料を見てみましょう。
IR資料におけるハイライトでは以下の文言が記載されています。
1. 売上収益 2,225億円 7期連続過去最高
2. 構造改革の進展により▲93億円の営業損失を計上
3. 20年3月期営業利益 黒字化の達成へ(出典:RIZAPグループ2019年3月期決算説明会資料)
この文言だけを見ると、売上は過去最高を達成し、構造改革が「進展」しているから前向きに営業損益が赤字になり、翌期は黒字化するということですので、前向きなイメージが伝わってきます。
しかし、RIZAPの利益減少は尋常なレベルではありません。まず以下のスライドを見てください。
(出典:RIZAPグループ2019年3月期決算説明会資料)
まず、2018年5月の期初時予想は営業利益が230億円の黒字予想でした。そしてM&Aの新規停止等を発表した2018年11月にはこれが▲33億円の赤字転落となり、そして最終的には▲93億円の営業利益赤字となりました。
当初予想からすると▲323億円の下方修正です。
この赤字要因は以下のスライドで説明されています。
(出典:RIZAPグループ2019年3月期決算説明会資料)
赤字となっている要因自体は店舗閉鎖や在庫評価減等であるということは分かりますが、そもそも230億円の利益はどのように出そうとしていたのでしょうか。
2018年9月中間決算発表時のRIZAPグループの発表が参考になります。概要は以下の通りです。
- 通期の連結営業利益の当初見通しについては230億円。今回 (2018年11月の発表時点で)予想を下方修正し、連結営業利益を通期▲33億円に変更。この減益要因は、①子会社の経営再建遅れ=▲71.6億円、②構造改革関連費用等を含む損失=▲83.5億円、③新規M&Aの原則凍結=▲103.6億円。
すなわち、RIZAPグループはM&Aにより103億円の営業利益を当初見込んでいたのです。RIZAPグループというのはM&Aによる利益(本項では詳細の説明は割愛します)のような、あまりにも不確かで自社の事業活動とは関係のない利益を見通しとして盛り込んでいたことになります。
(出典:RIZAPグループ「2018」年3月期決算説明会資料)
上表は2018年3月期決算説明資料ですが、この図が示しているようにRIZAPグループの業績急成長の背景には、M&Aによる割安購入益がありました。これは単純に言えば「負ののれん」です。これを計上することによってRIZAPグループは業績をかさ上げしてきたのです。
RIZAPの成長ストーリーは、単純に言えば「赤字であるが割安の企業を手あたり次第に買ってくる」「M&A割安益を計上して業績を良く見せる」「購入した企業の業績を立て直す」ということにありました。
今回の決算で露呈したのは、M&Aを停止したことにより本業の収益力が弱いこと、購入した企業の業績立て直しが全く進んでいないということです。
所見
RIZAPグループは、2019年3月期で193億円もの赤字を計上しました。企業の存続は大丈夫なのでしょうか。
これについては足元では問題ないと言えるでしょう。
RIZAPグループはカルビー元CEOの松本氏を迎えた時期(2018年6月)に増資を発表しました。ある意味で最高のタイミングで増資を発表し、355億円を手にしました。
増資により財務体質は改善し有利子負債は減少しています。また2019年3月末時点で422億円の現預金を確保しており、かつメガバンクと70億円のコミットメントライン契約の締結を発表(2019年5月)しています。
しかし、RIZAPグループの中長期的な企業存続については筆者は疑問を持っています。RIZAPグループは投資家に向けた情報開示が非常に恣意的と感じているからです。
M&Aの割安益を駆使して、(会計上の制度を上手く使い)企業グループ規模を急拡大してきた手法は事例としては面白いとは思いますが「実態以上に企業を良く見せてきた」(企業決算をきちんと分析すればもちろん分かるのですが)という観点では、大きな問題があるのではないかと筆者は考えています。
2018年6月の増資タイミングも、筆者からすると大物経営者を招聘し、株価を最大限に釣り上げて増資する狙いがあったとしか思えません。
M&A割安購入益が計上できるようなM&Aというのは、優良企業を購入出来ないのは当然です。購入出来るのは「現株主が赤字改善が見込みづらいため、会計上の価値よりも割安でも早期に売却したいと考えている企業」ぐらいです。RIZAPグループのM&Aによる業績かさ上げ手法は、最初は良くても(=購入益)、後から辛くなる(=赤字企業の業績が積み重なる)ものです。だからこそ、他の企業は同じような手法を取らないのです。
RIZAPグループは投資家に対して非常に不誠実と言っても過言ではないと筆者は考えているのです。
但し、企業が開示等で不誠実であったとしても、きちんと利益(実際にはキャッシュフロー)を伸ばしているのであれば、投資家にとっては「良い企業」です。
RIZAPグループは本業のRIZAP事業が順調に成長し、利益を上げていると説明しています。しかし、数字を押さえるのは非常に重要です。決算説明会資料では掲載されませんが、決算短信には以下のセグメント利益が記載されています。
<セグメント利益(2019年3月期)>
- 美容・ヘルスケア=売上高77,280百万円/営業利益1,136百万円
- ライフ スタイル=売上高55,648百万円/営業利益▲348百万円
- プラットフォーム=売上高91,082百万円/営業利益▲5,538百万円
上記の美容・ヘルスケアのセグメントに、RIZAPのパーソナルトレーニングジム事業も含まれます(当該セグメントには子会社業績も含まれています)。
RIZAPグループという2018年3月期には136億円の連結営業利益を計上(半分以上がM&A割安購入益でしたが)していた企業の本業セグメントは足元で上記の通りなのです。
すなわち、RIZAPグループは本業の収益力も足元では高くないのです。
RIZAPグループは緊急性の高い構造改革施策が完了し、再び成長軌道に乗せるとしています。この成否については現時点では分かりません。
今までは「テレビCMのインパクトにより本業が急拡大」「知名度を梃子にM&Aを行い、会計手法を駆使し企業業績をかさ上げ」することがRIZAPグループが実践してきたことです。
これから必要になるのは、子会社含めた事業に対する経営陣の理解と課題への取組です。本質的な経営手腕が問われることになります。
今後の業績について注目して見ていきたいと思います。