ローン担保証券(CLO)と呼ぶ証券化商品が世界経済の新たなリスクとなってきたと日経新聞が報じています。
約10年前にはサブプライムローンを証券化した金融商品が世界に混乱を巻き起こしました。
ローン担保証券(CLO)とサブプライムローンの証券化商品とは、何が同じで何が違うのでしょうか。
今回は日経新聞のCLOに関する記事について簡単に考察しましょう。
記事の内容
まずは日経新聞の記事を確認しましょう。以下、引用します。
米証券化商品、リスク浮上
2019/02/22 日経新聞格付けが低い企業への融資をまとめたローン担保証券(CLO)と呼ぶ証券化商品が世界経済の新たなリスクになってきた。最大市場の米国での2018年の残高は6100億ドル(68兆円)超とリーマン・ショックが起きた08年の2倍になった。景気悪化で企業倒産が増えれば投資する各国の金融機関が打撃を受けかねず、米連邦準備理事会(FRB)も警戒し始めた。日本でも、こうした証券化商品に金融庁が新たな規制を導入する。
米国の証券化市場は18年に1.6兆ドルと、ピークの07年の85%程度。リーマン危機の火種になった信用力の低いサブプライムローンを組み込んだ債務担保証券や仕組み融資はピークの2~3割に減ったが、CLOの残高は増え続けている。
量的緩和政策による先進国の金利低下を背景に、12年ごろから高い利回りを求めて信用力に劣る企業向けの融資債権を束ねたCLOを買う投資家が増え、発行が盛んになった。
米国では信用格付けがBB以下の企業に対する融資である「レバレッジドローン」の規模が1.1兆ドルと6年で倍増した。通常の企業向け融資の利回りは良くても2%程度だが、同ローンでは4%以上。借り手に甘く、財務の健全性維持をさほど求めない「コベナンツ・ライト」と呼ぶものが8割を占める。CLOはこうした劣化した融資を証券化して世界にばらまいた形になっている。
リスクはすでに顕在化しつつある。米シェール関連企業の多くはレバレッジドローンや高リスクのハイイールド債券市場で資金調達して開発資金に充ててきた。原油価格が急落した昨年末には、シェール企業の採算悪化懸念からレバレッジドローン市場から一気に資金が引き揚げられた。
シティグループが調査対象とする米レバレッジドローンのうち、12月に額面を上回って取引されたのはわずか0.9%。10月には7割を超えていた。足元では7%程度になったが、市場の厳しい目は続いている。
融資の劣化は米当局も警戒する。FRBは昨年11月28日に公表した金融安定報告で企業債務のリスクに言及。同12月にはイエレン前議長が「企業債務の規模はかなり大きい。景気が後退に転じれば非金融セクターで多くの破産につながるリスクがある」と指摘した。
CLOは高利回りを求める日本の銀行なども保有を増やしている。大手銀行など国内金融機関の証券化商品の保有残高は18年9月末で34兆2870億円と、5年3カ月ぶりの高水準。米国のレバレッジドローンを裏付けとしたCLOが押し上げているとみられる。
CLOは一部のメガバンクや農林中央金庫なども保有しているが、大手は資産を厳しく選別し、組み込まれた米企業のリスクを分析している。ただ地方銀行のなかにはリスクを判別できないまま、利回り重視で手を出している例もあるという。
金融庁はリーマン危機の発端になった証券化によるリスクの拡散を警戒し、19年3月末から国内の銀行や信用金庫などの金融機関を対象に、証券化商品の保有に新たな規制を導入する。
発行元が総額の5%以上を自ら保有していない証券化商品は通常の3倍のリスクがある資産とみなす。金融機関は作り手が自社で5%以上を保有する商品でなければ事実上買えなくなる。
(以下略)
この報道内容だけを見ると、リーマンショックの再来でもあるのではないかと感じる方もいるのではないでしょうか。
以下でもう少し詳しく確認していきましょう。
CLOとは
まずはローン担保証券=CLOとは何かを確認しましょう。
Collateralized Loan Obligationの略称で和訳はローン担保証券。資産担保証券の一種である。金融機関が事業会社などに対して貸し出している貸付債権(ローン)を証券化したもので、ローンの元利金を担保にして発行される債券のことをいう。
金融機関にとっては、元来流動性の劣る貸出資産を、ローンより市場性の高い債券の形態にすることができるので、より機動的に資金を調達することができるというメリットがある。
実際には、金融機関がローンを特別目的会社に譲渡し、特別目的会社が債券を組成し、投資家がこれを購入する。そして、ローンからの元利金を投資家が受け取るという仕組みが一般的である。
CLOは、シニア債・メザニン債・劣後債といった支払優先順位の異なる数種類の債券が組成される。ローンからの元利金は支払優先順位の高い順に支払われる。よって発行体が同一であっても、階層の異なる債券ごとに、それぞれ異なった格付けが付与されている。CLOは、リスク・リターンの選好が異なる様々な層の投資家に対して、投資機会を提供することができ、個別企業の発行する債券にはない投資機会を提供することができるとされている。(出典 野村證券Webサイト)
これがCLOです。
簡単に言えば、金融機関が事業会社などに対して貸し出している貸付債権(ローン)を証券化したものです。
サブプライムローン証券化商品は信用力の低い個人向けの住宅ローンを証券化したものでした。
CLOは事業会社向けですのでローンの対象先が異なると考えておけば良いでしょう。
では、このCLOはなぜ近年急拡大してきたのでしょうか。
そのキーワードは米国の長期金利の上昇です。金融緩和が米国で正常化に向かう中で、固定金利で発行される債券は価格が下落します。
一方で変動金利の債券は金利上昇を享受出来ます。
すなわち、米国の金利上昇局面では、銀行やその他長期投資家の変動金利債券への投資意欲が強まるのです。
米国の貸出は変動金利が多いため、証券化した場合も変動金利の債券となります。具体的には、金利はLIBOR(銀行間の貸出金利)+スプレッド(個別企業の信用力等に応じた利鞘)で決定されます。
LIBORは1~6ヵ月でその時点のレートに切り替わりますので、若干のタイムラグはありますが金利上昇に連動することになります。
これがCLOが増加した要因の一つです。
もちろん、投資不適格クラスの事業会社向け貸出という比較的高金利を享受できるローンを証券化したことにより、投資家を惹き付ける利回りを提供出来ているという要因も存在するでしょう。
世界的な金融緩和環境では、利回りが確保でき、金利上昇リスクを回避できる金融商品に人気が集中するのです。
所見
では、CLOはサブプライムローン証券化商品のように危険な商品なのでしょうか。
筆者は証券化商品というだけでリスクがあるとするような論調には賛成しません。
あくまで、その商品自体のリスクを見るべきだからです。
リーマンショックの際のサブプライムローン証券化商品は、不動産価格の上昇が前提でローンを組んだ、元利払いの能力がない層に貸出を行ったという点で根本的な問題を抱えていました。元利金を返せない債務者への貸出であるなら、いくら証券化でリスクを切り分けて商品を組成しても「無価値なものから価値は生まれない」のです。
CLOも同様です。
CLOの裏付けとなっているローンが傷んでいるかは個別に中身を見るしかありません。サブプライムローンのように問題があるローンもあるでしょう。しかし、一律に危険とは言えません。
サブプライムローンの場合は不動産価格という要因が共通でした。
しかし、CLOに業種の偏りがないのであれば一律に悪くなるリスクは軽減されます。例えば輸出企業が不振でも、内需企業は業績が堅調ということはあり得るのです。
CLOという証券化商品が増えていることを騒ぐのではなく、その基となるローンがどのようなもので、債務者の動向がどのようになっているかが根本的には重要なのです。
なお、地銀の一部が格付だけを見てCLOを購入しているのかは分かりません(おそらくそのような地銀はあるのでしょう)。内容が理解出来ないモノを買うのはCLOの議論とは異なります。そもそも内容が分からなければ、その商品の価値が分かりません。売り主の言い値で買わされる、すなわちカモにされているのかもしれないのです。また、どのような環境になった時に損失となるかが判断出来ません。ポートフォリオを分散していたつもりが同じようなリスクばかりを取っていたということもありえるのです。この点が分からないモノを投資することの問題点なのです。