銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地銀が高リスク運用商品への投資を行うこと自体が「悪い」わけではない

f:id:naoto0211:20191217212524j:image

地方銀行が高リスクの運用商品投資に踏み込んでいると報道されています。

今回は、地方銀行の投資について簡単に考察したいと思います。

 

報道記事

まずは直近の報道記事を確認しましょう。

日本の地銀、高リスクのクレジット商品にますます踏み込む-調査
Ayai Tomisawa Bloomberg
2019年12月17日

  低利回りが長期化する中で利益確保に苦戦する日本の地方銀行の一部は、リスクの高いクレジット商品へとますます踏み込みつつある。ジャンク級(投機的格付け)に近い外債やローン担保証券(CLO)などだ。ブルームバーグがまとめた調査で分かった。
  地方の人口減少で打撃を受けている地銀は、政府が業界統合を促す中で生き残りを模索している。投資銀行業などへの多角化によってマイナス金利の痛みを緩和できるメガバンクと異なり、地銀にはそのような業務シフトを行う資源がない。
  地銀の資産はこれまで日本国債が中心だったが、低利回りが伝統的に保守的な地銀の国債離れ、リスク資産への傾斜を促している。調査に答えた地銀29行のうち5行が、トリプルB級格付けの外債を購入したと回答。トリプルBは投資適格の中の最低水準だ。2行はCLOを保有していると回答した。
  ムーディーズ・インベスターズ・サービスのシニアクレジットオフィサーの佐藤俊作氏は、銀行が収益性の悪化を軽減するために利回りの高い、高リスク貸し出しを増やすことで資産の質が弱まるだろうとの見解を示した。

もはや日本国債保有せずとの回答も  
  調査では20銀行が日本国債保有を劇的に、または若干減らしたと回答。1行はもはや日本国債を保有していないという。住宅ローン担保証券(MBS)や相対的にクーポンの高い東京電力パワーグリッド債を購入したという回答もあった。
  S&Pグローバル・レーティングの吉澤亮二シニアディレクターは、「追い込まれてるところはよりディープなところをいってる。規模が小さめで収益の落ち込みが高いところは意外とそうなってるところが多い」と指摘。「今リスク量を取りにいってるので、われわれの想定を超えることがないか、当然信用力を変えなければならない。そこは注意してモニタリングしている」と語った。
  その上で、収益悪化に直面する現在の低金利環境下で地方銀行は、穴埋めのためにリスクをより取らないといけなくなるだろうとの見方を示した。
  ブルームバーグの調査は主要地方都市に支店を持つ地銀を対象に、11月後半から12月前半にかけて実施した。
原題:Stricken Local Banks in Japan Buying Riskier Debt to Survive (1)(抜粋)

この記事の通り、マイナス金利環境下で収益が落ち込んでいる地方銀行は何らかの運用を行うしかありません。

しかし、以前は主要な選択肢であった国債は利回りが確保出来ません。

利回りを確保するためには、リスクは高いが利回りの良い債券等へ投資するしかなくなってきているということになります。

 

投資の三原則

一般的には、投資方針を決定する際に考慮しなくてはならない「収益性」「安全性」「流動性」のことを投資の三原則といいます。

収益性が高ければリスクは高く、安全性が高ければ収益性は低く、流動性が高ければ収益性は低くリスクも低い、このようなイメージです。

収益性と安全性・流動性は相反するものなのです。

この収益性と安全性・流動性を組み合わせながら、投資主体の置かれた環境(投資規模・余力、投資期間、取ることの出来るリスク量、目指す収益等)を勘案し、投資を実行していきます。

尚、銀行は融資も本業ですが、日本の場合は貸出(融資)債権の売買が活発ではないため、貸出債権は一般的な債券に比べると流動性に劣ります。

同じようなリスクと利回りならば、貸出よりも債券投資をした方が、流動性がある分、投資としては有利となります。

 

地銀投資の問題点

Bloombergの記事では、地銀はリスクの高いクレジット商品へとますます踏み込みつつあるとされています。

記事では、ジャンク級(投機的格付け)に近い外債やローン担保証券(CLO)、トリプルB級格付けの外債、住宅ローン担保証券(MBS)、東京電力パワーグリッド債が投資商品として挙げられています。

筆者は、これらの商品が悪いとは考えていません。単にリスクが高いだけです。

金融の世界におけるリスクは不確実性の高低です。リスクが高いとは、儲かる可能性も高いが、損する可能性も高いと表現出来るでしょう。

投資家は、自身がどれだけのリスクを取っているかを理解しているならば、何ら問題ない投資なのです。

但し、ここで問題となるのは、地銀が本当にリスクの管理・コントロールが出来ているのかということです。

現状では、ほとんどの投資家が運用先に困っています。

そのため、リスクに比して低い利回りでも投資家である地銀が投資をしてしまっている可能性があります。

そして、複雑な商品になると、流動性が無い、もしくは低いものが存在します。

利回りは良くとも、いざというときには流動性がないことにより大きな痛手を被ってきた投資家は多いのです。流動性が枯渇して破綻したアメリカの大手ヘッジファンドLTCMの教訓を忘れてはなりません。

繰り返しますが、リスクの高いクレジット商品で運用すること自体は悪くありません。リスクを管理・コントロール出来ていないことが問題なのです。「リスクが高い=悪ではない」ことは認識しておくべきでしょうか。