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みずほの2019年3月期業績下方修正は「前向きではない」という事実

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みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)が2019年3月期の業績予想を引き下げました。

主な要因は勘定系システムや店舗の減損処理と債券・デリバティブの処理です。

みずほの今回の業績下方修正は何を示しているのかについて、今回は考察していきましょう。

 

発表内容

みずほFGはは業績下方修正の理由をどのように説明しているのでしょうか。

業績・財務情報について(FAQ)

<Q>

みずほフィナンシャルグループが2019年3月6日に発表した業績予想の修正について教えてください。

<A>

みずほフィナンシャルグループは、2019年3月6日付で2019年3月期の業績予想を修正致しました。具体的には、2019年3月期決算で約6,800億円の損失を計上する見込みとなり、親会社株主に帰属する当期純利益について従来予想の5,700億円から800億円に下方修正しました。
損失の内訳については以下の通りです。
① ソフトウェアや閉鎖予定店舗等固定資産の減損損失(約5,000億円)
② 外国債券の含み損処理等に伴う損失(約1,800億円)
本件は、現時点で見通せる将来の損失を一括計上することで、お客さまの新しいニーズに今まで以上に対応できる、より柔軟で機動的な運営を可能とする前向きな取り組みと考えています。
配当金については、本件損失計上に関わらず、これまでの安定配当方針も踏まえ維持することとし、年間配当予想1株当たり7.5円、期末配当予想1株当たり3.75円は変更致しません。

(出所 みずほFGホームページ)

この説明では、現時点で見通せる将来の損失を一括計上するということしか分かりません。

次にみずほFGが発表したプレスリリースを確認しましょう。こちらの方が詳しく説明されています。

2019年3月6日

構造改革への取り組みを踏まえた損失の計上と業績予想の修正に関するお知らせ

当社は、2019年3月期決算において、構造改革への取り組みを踏まえた損失を新たに計上する見込みとなりました。
本日開催の取締役会において、公表済の2019年3月期の業績予想を下記の通り修正することを決議しましたので、お知らせ致します。
なお、年間配当予想につきましては、変更ございません。

 

1.構造改革への取り組みを踏まえた損失の計上
当社は、2017年11月に発表した抜本的構造改革を踏まえ、現在策定中の2019年度を初年度とする次期経営計画において、ビジネス構造、財務構造、経営基盤の3つの構造改革を基本方針とし、本年5月に公表することを予定しております。
この次期経営計画の策定過程で、当社の主要な国内連結子会社である、株式会社みずほ銀行、みずほ信託銀行株式会社及びみずほ証券株式会社において、以下の事由等による損失(約6,800億円)を2019年3月期決算で計上する見込みとなりました。

①固定資産の減損損失(約5,000億円)
当社グループは、2016年度に導入したカンパニー制の運営定着を進めると共に、それを支える管理会計についても、鋭意高度化に取り組んで参りました。これにあわせ、今般、固定資産の減損会計の適用方法についても、管理会計の高度化に対応して見直しを実施致しました。
また同時に、次期経営計画の策定過程において、各事業部門の将来の収益計画や店舗戦略等の見直しを進めております。これらを踏まえた結果、国内リテール事業部門に帰属するソフトウェアや閉鎖予定店舗等の固定資産について減損損失を特別損失として計上する見込みです。

②市場部門の有価証券ポートフォリオ再構築等に伴う損失(約1,800億円)
金融市場における不透明感が高まる中で、より安定的な収益構造と、事業環境の変化に耐えうる強固な財務基盤の実現を目指す上で、市場部門において過去に投資した外国債券等の有価証券ポートフォリオを再構築致します。
また、デリバティブ取引のカウンターパーティーリスク等を時価評価に反映させるためにデリバティブ評価方法等を精緻化致します。
これらに伴い、経常費用に含めて上記に係る有価証券売却損等を計上する見込みです。
これらの金額は、本日現在における概算値であり、2019年3月期決算において確定する予定であります。

(中略)

3.今後の経営の方向性
本年5月に公表することを予定しております次期経営計画の骨子は、以下の通りであります。
なお、前記1.に記載の損失の計上は、これらの方向性に資するものであると考えております。
(1)次期経営計画における考え方
次期経営計画においては、顧客ニーズの構造変化に対応し、長年の業務運営のなかで生じた経営資源配分等のミスマッチを解消し、新たなニーズに対応していくことが構造的な課題と認識しております。
この観点から、ビジネス構造・財務構造・経営基盤をストックベースで変革し、これらの質的転換を図ることを検討しております。今後、これらの取り組みをより具体化し、各ステークホルダーへの価値創出を実現して参ります。
(2)構造改革の意義
次期経営計画では、「前に進むための構造改革」に取り組んでいきますが、その意義を以下の通りと考えています。

  • 顧客ニーズを起点とした次世代の金融への転換に向けて舵を切る
  • ストックに切り込み、競争環境の変化にも対応しうる柔軟な事業・収益構造を構築する
  • 新規事業を創出する等、成長のための経営資源余力を確保する
  • クレジットサイクル等の事業環境悪化のリスクに備え、危機時にも耐えうる財務基盤を更に磐石なものにする

(3)収益構造の早期転換
今後も当面は厳しい事業環境が続くとの認識の下、現時点で実行可能な打ち手を実行し、前倒しで構造課題を一掃するとともに、収益のボラティリティを抑え、安定的な収益基盤をより強固なものにして参ります。

(以下略)

(出所 みずほFGホームページ)

今回の業績下方の要因は、以下となります。

  • 国内リテール事業部門に帰属するソフトウェアや閉鎖予定店舗等の固定資産について減損損失
  • 外国債券等の有価証券ポートフォリオを再構築、デリバティブ評価方法等の精緻化

そして、その背景としては「顧客ニーズの構造変化に対応し、長年の業務運営のなかで生じた経営資源配分等のミスマッチを解消し、新たなニーズに対応していくことが構造的な課題と認識」していることが挙げらています。次期経営計画の策定過程で、前倒しでこの構造課題を一掃するとともに、収益のボラティリティを抑え、安定的な収益基盤をより強固なものにしていくために、今回の処理を行うことにしたと説明されています。

しかし、この説明でもみずほの業績下方修正の理由は分かりにくいと言えるでしょう。

次に日経新聞の記事を確認しましょう。

 

報道内容

みずほFGの業績下方修正については日経新聞が以下の記事を掲載しました。

みずほFG、6800億円損失 今期純利益800億円に下方修正
2019/03/06 日経新聞

 みずほフィナンシャルグループ(FG)は6日、2019年3月期の連結決算に、店舗や次期勘定系システムの減損処理などで約6800億円の損失を計上すると発表した。低金利やデジタル金融の進展で収益基盤としての役割が弱まり、経営の負担になった店舗やシステムを処理する。これに伴い、連結純利益の予想を前期比86%減の800億円に下方修正した。
 システム投資や店舗にかかるコストは、収益性が低下した銀行にとって重い負担になっている。みずほは前倒しで損失処理することで身軽になり、デジタル化やキャッシュレス化といった金融環境の変化に備える。坂井辰史社長は記者会見で「柔軟で機動的な経営に向けた前向きな処理だ」と説明した。

(中略)

 6800億円の損失のうち、個人向け金融サービスの口座を管理する次期勘定系システムの開発費などを4600億円減損処理した。次期システムにはまだ移行の途上だが、前倒しで処理することでシステムの償却負担が5~10年間、経営を圧迫する事態を避ける。
 店舗の統廃合では400億円を減損計上した。17年に公表した構造改革計画で24年度末までに統廃合するとしていた約100拠点に、数十拠点を追加して処理した。
 このほか、含み損を抱える外国債券を売却して損失を出し、金融派生商品(デリバティブ)取引のリスク評価も見直すことで1800億円を損失処理する。
(以下略)

この記事では、みずほFGの社長が「柔軟で機動的な経営に向けた前向きな処理だ」と説明しています。すなわち、来期から始まる新経営計画に際し、前倒しで費用を処理しておくことを前向きとしているのです。

 

他行比較

みずほFGの業績下方修正の主要因は4,600億円の次期勘定系システムの開発費についての減損です。また店舗の減損損失も400億円実施されています。そこで、このシステムおよび店舗に焦点を当て、みずほFGと他メガバンクとの比較をしてみましょう。

以下はいずれも2018年3月期連結決算数値となります。

<みずほ>

  • 有形固定資産 11,111億円(総資産比 0.54%)
  • 建物 3,415億円(総資産比 0.16%)
  • 土地 6,288億円(総資産比 0.31%)
  • 無形固定資産 10,927億円(総資産比 0.53%)
  • ソフトウエア 2,853億円(総資産比 0.14%)
  • その他の無形固定資産(開発中のソフトウェア等) 7,192億円(総資産比0.35%) ※みずほ銀行の有報記載を参照し全てが開発中のソフトウェアと仮定
  • 総資産 2,050,283億円
  • 連結従業員数 60,051名
  • (土地+建物)÷連結従業員数=16.2百万円
  • ソフトウェア÷連結従業員数=4.7百万円
  • (ソフトウェア+その他無形固定資産)÷連結従業員数=16.7百万円

<三井住友>

  • 有形固定資産 34,751億円(総資産比 1.75%)
  • 建物 3,419億円(総資産比 0.17%)    
  • 土地 4,243億円(総資産比 0.21%) 
  • 無形固定資産 8,656億円(総資産比 0.43%)  
  • ソフトウエア 4,288億円(総資産比 0.22%)
  • その他の無形固定資産 1,645億円(総資産比0.08%) ※全てが開発中のソフトウェアと仮定
  • 総資産  1,990,491億円
  • 連結従業員数 72,978名
  • (土地+建物)÷連結従業員数=10.5百万円
  • ソフトウェア÷連結従業員数=5.9百万円
  • (ソフトウェア+その他の無形固定資産)÷連結従業員数=8.1百万円

<MUFG>

  • 有形固定資産 13,700億円(総資産比 0.45%)
  • 建物 3,030億円(総資産比 0.10%)
  • 土地 6,971億円(総資産比 0.23%)
  • 無形固定資産 12,467億円(総資産比 0.41%)
  • ソフトウエア 5,323億円(総資産比 0.17%)
  • その他の無形固定資産 4,556億円(総資産比0.15%) ※全てが開発中のソフトウェアと仮定
  • 総資産  3,069,374億円
  • 連結従業員数 117,321名
  • (土地+建物)÷連結従業員数=8.5百万円
  • ソフトウェア÷連結従業員数=4.5百万円
  • (ソフトウェア+その他の無形固定資産)÷連結従業員数=8.4百万円

以上の比較を抜粋するとポイントは以下です。

①連結従業員一人あたりの土地・建物保有金額

  • みずほ=16.2百万円
  • 三井住友=10.5百万円
  • MUFG=8.5百万円

②連結従業員一人あたりのソフトウェア(開発中含む)

  • みずほ=16.7百万円
  • 三井住友=8.1百万円
  • MUFG=8.4百万円
以上の比較は連結の数値であるため、銀行だけのものではありません。各FGともリース会社、海外現法、信託銀行、資産運用会社等の規模が異なりますので単純比較は正確ではないかもしれません。
しかし、それでも上記の比較で如実に表れていると筆者が考えているのは「みずほの店舗が連結従業員一人あたりで残高が多い=店舗整理を先送りしてきた可能性が高い」「みずほの連結従業員一人あたりでソフトウェアの額が多い=慎重になりすぎシステム開発経費を使い過ぎた可能性が高い」ということです。
連結従業員一人あたりで土地建物、ソフトウェアの額を比較することに意味があるかという批判もあるかもしれませんが、(突き詰めれば)銀行はどこも差異化が進んでいないため、筆者は比較の一指標として用いています。
 

所見

以上、今回発表されたみずほFGの業績下方修正について考察してきました。
みずほは次期経営計画期間中の「収益をかさ上げする」ために償却負担の重いシステム経費や店舗損失を前倒しで処理しました。また、外債投資については2018年12月末時点で▲1,445億円の含み損がありました(その他有価証券全体では▲2,555億円)ので、これを処理しただけとも言えます。
これは「前向き」と言えるのでしょうか。
筆者からすれば、これは前向きではありません。
経営としてお金をかけ過ぎたシステムの処理、今まで怠ってきた店舗の統廃合、市場での運用失敗を処理しようとしたことであり、過去の清算です。
確かに、将来の収益下押し要因を取り除くということでは前向きという表現もあるかもしれませんが、これはあくまで過去の事象に対応するものなのです。
新しい経営計画でどこまで未来を語れるのか、未来の絵姿を練り上げそれを実現するためにリソースを使えるかこそが、前向きなのです。
みずほは元々トップバンクの集合体です。日本興業銀行の産業調査部は高い調査能力で有名であり、富士も一勧も日本のトップバンクとなったことがある銀行です。
経営統合し、みずほとなってからは、かつてのイメージは薄れつつありますが、ぜひとも復活を望みます。