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大塚家具の増資を事例とした「株式の有利発行」について確認する

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大塚家具が第三者割当増資等の資本増強策を発表しました。

この第三者割当増資は、増資が発表された前日である2019年2月14日の株価終値460円に対して290.11円であり、▲37%のディスカウントとなります。

2月14日に大塚家具の株式を保有していた「既存」株主は一株460円の時価がついている株式を保有していた一方で、新たに株主となる第三者は既存株主が保有している株価よりも大幅に低い価格で株式を取得することになるのです。

これは「不平等」ではないでしょうか。

今回は、上記のような「株式の有利発行」について大塚家具の事例をもとに見ていくことにしましょう。

 

第三者割当増資とは

今回の大塚家具のように特定の第三者に新株を割り当てる第三者割当増資とはどのようなものなのでしょうか。 

以下定義を確認しておきましょう。野村證券のホームページから引用します。 

<第三者割当増資>

会社の資金調達方法の一つであり、株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えておこなう増資のこと。株式を引き受ける申し込みをした者に対しては、新株もしくは会社が処分する自己株式が割り当てられる。第三者割当増資は、会社の株主資本を充実させ、財務内容を健全化させる。
(中略)
ただし、第三者割当増資は、既存株主にとって、持株比率が低下するうえ、不公正な価格で新株発行等が実施された場合に経済的な不利益を被る恐れもあるため、発行手続きは会社法により詳細に決められている。特に新株を「特に有利な価格」で発行するときは、会社の取締役は株主総会でその理由を開示して特別決議を経る必要がある。

(出所:野村証券ホームページ)

上記にある通り、第三者割当増資は既存株主にとっては不利益を被る可能性があるため詳細に手続きが決められています。 

しかし、今回の大塚家具の事例は、冒頭に述べたように時価よりも大幅に低い価格で新株が発行(割当)されることになっています。

これは問題ではないのでしょうか。

以下で更に詳しく見ていくことにしましょう。 

 

会社法の規定

第三者割当増資は、基本的に取締役会決議により行うことができます。

会社法第二百一条 第百九十九条第三項に規定する場合を除き、公開会社における同条第二項の規定の適用については、同項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。

しかし、「払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合」(会社法199条3項)は有利発行に該当し、株主総会の特別決議が必要となります(会社法309条2項5号)。

会社法第第百九十九条 

(中略)

3 第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。

 

会社法第三百九条 株主総会の決議は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。

(中略)

五 第百九十九条第二項、第二百条第一項、第二百二条第三項第四号、第二百四条第二項及び第二百五条第二項の株主総会

そして、有利発行に該当するにもかかわらず、株主総会の特別決議を経ていない場合、法令違反として株式発行の差止め原因となります(会社法210条1号)。

会社法第二百十条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第百九十九条第一項の募集に係る株式の発行又は自己株式の処分をやめることを請求することができる。
一 当該株式の発行又は自己株式の処分が法令又は定款に違反する場合

以上が第三者割当増資、有利発行にかかる会社法の規定です。

 

実務における有利発行の基準

上記で会社法の条文を確認してきました。では、どのような条件で株式を発行すれば「有利発行に該当」するのでしょうか。

実務面では、日本証券業協会が「第三者割当増資の取扱いに関する指針」(証券会社向けの指針)を公表しています。

<日本証券業協会「第三者割当増資の取扱いに関する指針」(抜粋)>

(1) 払込金額は、株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9 を乗じた額以上の価額であること。ただし、直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に 0.9 を乗じた額以上の価額とすることができる。
(2) 株式の発行が会社法に基づき株主総会の特別決議を経て行われる場合は、本指針の適用は受けない。

以上のように、「有利発行に該当しない」基準というのは、第三者割当増資を決めた取締役会決議の直前日の株価の90%以上です。大塚家具の事例では460円×90%=414円以上です。これが原則となります。

ただし、市場価額(=株価)というのは、公正な新株発行価額の基礎とはなりますが、株価が何らかの原因で投機の対象となり一時的に高騰している場合等の場合は、最長6ヵ月間の平均価額の90%以上にすることを例外として認められています。

 

大塚家具の事例

では、大塚家具の290.11円=▲37%(前述)という第三者割当増資にかかる発行価額は妥当なのでしょうか。

以下、大塚家具の発表資料に説明がなされています。

本新株式の発行価額につきましては、本新株式の割当先との協議により、本第三者割当に係る取締役会決議日(以下「本取締役会決議日」といいます。)の直前6ヶ月間(2018年8月15日から2019年2月14日まで)の東京証券取引所JASDAQスタンダード市場における当社株式の終値(以下「終値」といいます。)の平均値(小数点以下第3位を四捨五入)である322.34円を基準とし、当該金額に対し10%のディスカウントをした290.11円とすることといたしました。当該発行価額は、本取締役会決議日の直前営業日である2019年2月14日の終値460円に対しては、36.93%のディスカウント、本取締役会決議日の直前1ヶ月間(2019年1月15日から2019年2月14日 まで)の終値の平均値である411.18円(小数点以下第3位を四捨五入)に対しては29.45%のディスカウント、同直前3ヶ月間(2018年11月15日から2019年2月14日まで)の終値の平均値である345.57円(小数点以下第3位を四捨五入)に対しては16.05%のディスカウントとなります。

(出所:大塚家具/平成31年2月15日付「第三者割当による新株式及び新株予約権の発行、業務・資本提携契約の締結並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」 )

以上の通り、大塚家具の第三者割当増資は有利発行には該当しないギリギリの水準を狙ったものです。

実務上の基準はクリアしているため問題ないと判断される可能性は高いとは思います。

しかし、基準はクリアしているとはいえ、既存の株主への負担を強いる第三者割当増資との見方もできます。

筆者としては、当該割当増資が出来なければ資金繰り破綻の可能性が高かったと考えますので、会社存続という観点では既存株主にとってもメリットはある第三者割当増資だとは思います。しかし株主によっては、有利発行を決めた経営陣に対しての評価は分かれる可能性はあるでしょう。

以上が大塚家具を題材とした第三者割当増資、新株の有利発行についての事例確認です。