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大塚家具2018年12月期決算のポイントと今後の展望~増資は企業存続への最後のチャンス~

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大塚家具が2018年12月期の決算を発表しました。

同時に資金調達およびヤマダ電機との業務提携も発表しています。

この資金調達および業務提携で大塚家具の経営は安定するのでしょうか。

今回は大塚家具の2018年12月期決算について確認していきましょう。

 

大塚家具の業績概要

まずは新聞記事から大塚家具の業績の概要を掴みましょう。以下は日経新聞からの引用です。

大塚家具、最終赤字32億円 18年12月
2019/02/15 日経新聞  

 経営再建中の大塚家具が15日発表した2018年12月期の単独決算は最終損益が32億円の赤字だった。最終赤字は3年連続となる。同日、取引先の企業連合と米投資ファンドから第三者割当増資で約38億円を調達すると発表。あわせてヤマダ電機との業務提携も公表した。資本増強と提携による販路拡大で、財務の改善に取り組む。
 売上高は前の期比9%減の373億円だった。都内の旗艦店を中心に販売が振るわず、保有する株や不動産の売却でも補えなかった。未定としていた期末配当は見送った。同社は、14日の予定だった決算発表を延期していた。
(中略)
 第三者割当増資では、19年3~6月に1株290円で1311万株を発行する。14日の終値(460円)からは4割近く安い水準で、発行済み株式数は現在の1940万株から7割近く増える。新株を引き受ける企業連合は、大塚家具や18年末に業務提携した中国の同業「居然之家(イージーホーム)」などの取引先で構成する。
 このほか新株予約権も別途発行し、最大38億円を調達するとも公表した。越境EC(電子商取引)を手掛けるハイラインズ(東京・渋谷)や同じ米ファンドが引き受ける。権利が全て行使されればさらに830万株増える。ヤマダ電機との提携は人材交流や販売協力を柱とする。

以上の通り、大塚家具の最終赤字は3期連続であり、売上高は▲9%となりました。

そして、38億円の第三者割当増資、最大38億円の新株予約権(行使されれば増資と同じ効果)の資本増強を発表し、更にヤマダ電機との業務提携(≠資本提携)を発表しました。

新株予約権が行使されると、現在の1,940万株の発行済株数が2,411万株増加して4,351万株となる見込みであり、現在の株主にとっては大幅な希薄化となります。そもそも、現在の株価対比では4割近く低い水準で第三者割当を行いますので、既存の株主にとっては厳しい内容となったと言えるでしょう。

しかし、この水準で調達を行わなければならないほど、大塚家具の資金繰りは追い詰められていたということであり、喜んで投資を投資家が存在しなかったということなのです。

では、以下で大塚家具の2018年12月通期決算について、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

 

決算のポイント

以下、大塚家具の2018年度決算における主要数値です。

  • 売上高 37,388百万円(前年同期比▲3,691百万円、▲9.0%)
  • 営業利益 ▲5,168百万円(同▲32百万円)
  • 経常利益 ▲5,313百万円(同▲169百万円)
  • 当期利益 ▲3,240百万円 (同+4,019百万円)
  • 純資産 12,729百万円(自己資本比率60.8%)
  • 営業キャッシュフロー ▲2,608百万円
  • 投資キャッシュフロー 3,104百万円
  • 財務キャッシュフロー 391百万円
  • 現金・現金同等物 2,695百万円(前年同期比+888百万円)
  • ※なお、貸借対照表上は現預金は3,195百万円となっているため、500百万円は何らかの理由で簡単には活用できない現預金であると考えられる 

以上を見ると分かることは、大塚家具は▲3,691百万円(▲9%)減少した売上高に見合うコスト削減を実施し、営業損失を前期と同程度に着地させたということです。裏を返すと、ここまでコスト削減をしたにもかかわらず、売上が不振で黒字化できなかったと表現することもできます。

売上が急減する中で現金を確保するために、投資キャッシュフローがプラスになっているように、資産を売却して現預金を確保したというのが全体の流れです。

しかし、2018年12月期で大塚家具が保有していた売却可能資産はほとんど売ってしまいました。

投資有価証券は595百万円(前年同期比▲2,158百万円)、土地178百万円(同▲2,180百万円)、建物11百万円(同▲431百万円)となっており、既にキャッシュ化が可能な資産はほとんど残っていないことが分かります。(差入保証金は4,720百万円ありますが、これをキャッシュ化するのは店舗を閉鎖しない限り難しいでしょう)

すなわち、大塚家具は本業である商品の販売を行う以外にキャッシュを得る手段をほぼ失ったのが2018年12月期でした(過去の利益の蓄積を全て失ったとも言えます)。

このタイミングで大塚家具は第三者割当増資等を行うことを発表しました。この資金獲得・業務提携等で大塚家具の経営不安は払しょくされるのでしょうか。

 

増資と資金使途 

大塚家具は、2019年2月15日付で「第三者割当による新株式及び新株予約権の発行、業務・資本提携契約の締結並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及びその他の関係会社の異動に関するお知らせ」を発表しました。

この中で大塚家具は以下のような現状認識を示しています。

好立地への厳選した多店舗展開といった店舗網構築が途上であることや、2015 年の委任状争奪戦の過程で付着したマイナスイメージの払拭と「低価格シフト」といった当社ポジショニングについての誤解の解消など、ブランドイメージの再構築が資金の不足等により十分な実行に至っていないことなどから、大型店を中心に来店客数が減少し、売上の減少がコスト削減のペースを上回る状況となっております。営業損失を解消し、営業キャッシュ・フローをプラスにするためには売上高の減少を食い止めることが必須(以下略)。

そして、上記現状認識=売上高減少を食い止めるために資金が必要であり、その調達手法としては銀行借入や公募増資ができなかったことから、今回の第三者割当増資等に踏み切ったと説明しています。

当社が早期に営業損失を解消し、営業キャッシュ・フローをプラスにするためには、コストの削減のペ ースを上回る売上の減少を食い止めることが必須であります。最大の経営課題である売上改善に向けて、 当社は 2015 年度からビジネスモデルの再構築に取り組み、その具体的内容として 2017 年3月に「経営ビジョン」を発表しました。本第三者割当により調達する資金を活用し、上記の「経営ビジョン」の重要施策の一つであるECビジネスの強化を加速し、ECを店舗と並ぶ事業の第2の柱とするビジネスモデルの構築をより一層推し進めるとともに、それに伴う店舗及び自動化倉庫など物流設備への投資、卸売やコントラクト事業などの新たな販路の拡大、委任状争奪戦の過程で付着したマイナスイメージの払拭と「低価格シフト」といった当社ポジショニングについての誤解の解消などのブランドイメージの再構築及び顧客の属性情報、購買履歴等に基づくマーケティングオートメーションの導入を含む従来水準(2014 年以前で年間約 35 億円規模)のマーケティング及びプロモーションの展開を図ってまいります。上記各施策に加え、Easyhome との業務提携の推進及びハイラインズとの業務・資本提携関係を構築することによって、中国本土での当社商品の販売や訪日中国人客招致による日本の当社店舗における販売等、売上増による当社の根本的な収益構造の改善等をも進めることを、両社との取り組みの中心に据えることとしております。 安定的な単月黒字化の実現までの間の営業キャッシュ・フローのマイナスを補うための運転資金の調達とともに、これらの施策を進めるにあたっての必要資金の調達は、当社の現状の業績状況等を踏まえると、金融機関からのコーポレートローンによることは難しい状況にあり、同じ理由により、証券会社の引受けにより行われる公募増資による資金調達は困難と考えられ、継続的な事業展開と安定した収益基盤の整備に必要な資金を一括調達することが可能であると同時に、最適なパートナーである Easyhome との業務提携の推進に資するとともに、ハイラインズとの提携関係を構築することができる、本第三者割当の方法による資金調達が最善と判断いたしました。

この認識は妥当なところでしょう。既存株主にとっては希薄化があり厳しい内容ですが、企業破綻するよりは良いと考えてもおかしくはないでしょう。 

この第三者割当増資、新株予約権により調達した資金は以下の使途で使用されます。

 

<第三者割当増資38億円の資金使途>

  • ECビジネス強化のための倉庫自動化及び物流効率化費用 1,750百万円(2019 年3月〜2020 年4月)
  • 店舗改装費用 500百万円(2019 年3月〜2019 年 12 月)
  • ITシステム投資 250百万円(2019 年3月~2019 年 12 月)
  • 売掛債権の買戻し費用 1,200百万円(2019 年7月)
  • 以上合計 3,700百万円

以上で分かるように、第三者割当増資により獲得した資金はほとんど1年以内に投資等で使用される予定としています。

なお、売掛債権の買戻し費用というのは、同社発表では金融取引によるものであり誤解を恐れずに言えば借入金の返済に近い取引と思われます。

「ECビジネス強化のための倉庫自動化及び物流効率化費用」については実質的にはコスト削減(年500百万円)の投資であり、同社資料だけを基に判断すれば妥当と言えそうです。

<新株予約権38億円の資金使途> 

  • マーケティング及びプロモーション費用 1,300百万円(2019 年3月~2021 年2月)
  • 人件費、賃借料、商品仕入等の運転資金 1,638百万円(2019 年3月~2020 年2月) 
  • マーケティング及びプロモーション費用 830百万円(2019 年3月〜2024 年2月)※第2回新株予約権の資金使途
  • 合計 3,768百万円 

新株予約権が行使された場合に獲得できるキャッシュは上記の通りマーケティング・プロモーション費用に充当しするとしています。

また、安定的な単月営業利益黒字化を実現するのを2020年2月と設定していることが想定され、それまでの期間における営業キャッシュ・フローは▲19 億円程度生じるものと見込んでいることが説明されており、この赤字部分にも新株予約権の資金は充当されることになります。

 

所見

大塚家具は今回の増資等で約75億円弱(発行諸費用控除後)を獲得する見込みです。そして大塚家具の現在見込んでいる2020年2月までの営業キャッシュフロー(現金の流出)は▲19億円ですので、しばらくの間は資金不足に陥ることは回避できたと言えるでしょう。

しかし、公表している資金使途及び支払時期で資金を使用していった場合に、販売増につながらなければ今までと同様に資金繰りの危機が起きる可能性はあります。

同社が認識を示しているようにこれからの大塚家具の存続のためには、売上の減少を食い止めるしかありません。もう商品以外に他に売却できるモノはありません。この1年程度が本当の正念場と言えるでしょう。第三者から増資を受け入れることが出来たので、あと1年程度勝負できるチャンスを大塚家具はもらったとの表現の方が正しいかもしれません。

中国企業やヤマダ電機との業務提携の効果については筆者は何とも言えません。分かっているのは、過去のTKPとの提携効果は見えにくかったということ、そもそも販売力が落ちてきている家電量販店との業務提携に効果があるかは不透明であることです。中国企業との今後の提携効果については筆者には全く見通せませんが、本当に大塚家具が発表しているような効果をもたらすことができるのであれば非常に大きなインパクトが期待できるかもしれません。

筆者は、これをきっかけとして、大塚家具は他社の傘下に入るべきではないかと思います。現行の経営陣では同社のビジネスモデルを変革出来ないのではないでしょうか。少なくとも2015年から現社長は経営を握っています。それでも効果が出ていないのです。このように指摘すると同社含め様々な方から反発を招くかもしれませんが、過去において同社の経営を回復させられなかったのは事実であるとは指摘できるのではないでしょうか。