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大塚家具のヤマダ電機傘下入りは、資金繰り破綻回避以外の効果が見えない

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経営難に陥っていた大塚家具がヤマダ電機の傘下に入ることが発表されました。

これを受け大塚家具の株価は急騰しています(2019年12月12~13日)。

今回は大塚家具のヤマダ電機の子会社化について考察しましょう。

 

報道内容

まずは大塚家具のヤマダ電機傘下入りについての日経新聞記事を引用します。概要がつかめるでしょう。

大塚家具、ヤマダ電機傘下に 家具・家電で相乗効果
2019/12/12 日経新聞

経営再建中の大塚家具は12日、ヤマダ電機の傘下に入ると発表した。ヤマダが30日付で大塚家具に約43億円を出資し、大塚家具の株式の51%を握る。大塚家具は住宅関連事業も手掛けるヤマダと組み、家具と家電との相乗効果を狙う。大塚家具の大塚久美子社長は当面続投する。家具業界ではニトリなどとの競争が厳しく、大塚家具が浮上できるかは不透明な部分もある。
大塚家具は客離れが止まらず、2018年12月期まで3期連続で最終赤字。19年1~9月期は売上高が前年同期比23%減の210億円、最終損益は30億円の赤字だった。純資産は15年12月末の344億円から今年9月末時点で123億円に減り、財務体質も悪化していた。大塚家具が30日付で実施する第三者割当増資をヤマダが引き受け、資金繰りの不安は解消する。

12日に都内で記者会見した大塚家具の大塚社長は自らの進退について、「引き続き全力を尽くしたい」と続投する考えを表明。ヤマダ傘下入りで「法人取引を増やせるようになる」と述べた。
一方、ヤマダの山田昇会長は「(大塚家具の売上高が)10%伸びれば、来期(21年4月期)には黒字になる」との見通しを示し、「3年で(今回出資する)40億円を回収できるくらいの営業利益が出せる」と強調した。家電と家具との相乗効果を狙う考えだ。
大塚家具とヤマダは2月に業務提携した。ヤマダはリフォームや家具など住宅関連商材を増やした新業態の店舗を拡大しており、大塚家具から商品供給や販売員の派遣を受けていた。両社は店舗での協力などを一段と深めていく考えだ。

(以下略)

では、このヤマダ電機による大塚家具の子会社化についてもう少し詳しく見ていくことにしましょう。 

 

大塚家具の事情

まず、大塚家具の直近(2019年1~9月)決算状況については以下の記事をご参照下さい。

2019年9月末時点で22億円の現預金を保持する大塚家具ですが、2019年1〜9月の間に41億円のキャッシュが減少しています。1ヶ月に▲4.5億円のペースですので、このままのペースでキャッシュが減少すれば5ヶ月後(2020年2月)には資金繰りが行き詰まると上の記事では指摘していました。

以下は大塚家具の発表したプレスリリースからの抜粋です。

当社の営業キャッシュ・フローには大幅な季節変動があり、例年、営業キャッシュ・フローがボトムとなる1月、2月の時期に向けて10 月~12 月の第4四半期にキャッシュを積み上げるべきところ、2019 年9月単月については同年 10 月の消費税増税前の駆け込み需要により営業収支は黒字であったものの、消費増税と大規模台風による 10 月以降の受注の減により、10 月及び 11 月の営業キャッシュ・フローが計画を大幅に下回っており、2019 年2月 15日において 2019 年3月から 2020 年2月までの期間における営業キャッシュ・フローが△1,900 百万円程度と見込んでおりましたが、現時点では、2019 年3月から 10 月までの実績値が△1,905 百万円となっており、2020年2月末までには△3,396 百万円と 2019 年2月 15 日における見込みを 1,496 百万円下回る見込みとなっております。また、2019 年 12 月に見込まれる支出(営業支出と法人税等)2,720 百万円及び 2020 年1月に見込まれる支出(営業支出と法人税等)2,802 百万円並びに営業キャッシュ・フローの状況を考えると、2020 年2月末では現金及び預金は 649 百万円を有している計画ですが、天候や経済情勢等の外部要因が大きな影響を売上高に与えた場合の保守的な計画値では 2020 年2月には 148 百万円となり、当社の財務状況では銀行借入等の負債性の資金調達が困難であることを前提とすれば、その翌月には資金が不足する可能性があります。

(出所 大塚家具/ヤマダ電機との資本提携契約の締結、第三者割当による新株式及び新株予約権の発行並びに主要株主、主要株主である筆頭株主及び親会社の異動に関するお知らせ/2019年12月12日)  

すなわち、大塚家具の足元の販売力は改善しておらず、資金繰りも苦しいままであることが分かります。

今回のヤマダ電機による増資は資金繰り対策以外に理由はありません。

しかし、2019年9月時点の大塚家具は毎月▲4.5億円の現金流出が続く企業です。第三者割当増資で大塚家具が手にする約43億円(第三者割当増資分)は10ヵ月程度で無くなる可能性があります。大塚家具はわずか半年前の2019年6月にも第三者割当増資(26億円)をしていたのも忘れてはならないでしょう。

大塚家具の既存店売上高は2019年10月が76.5%、11月が74.5%となっています。前年は9月末から11月末に在庫一掃セールを開催していたためある程度の売上減少は致し方ないとは思いますが、数字だけ見ると大塚家具の販売力は改善していないと現段階では評価せざる得ません。

現在の大塚家具は単にキャッシュを流出させるだけの企業でしかないと言えます。

大塚家具自体がプレスリリース自体で認めているように、ヤマダ電機との業務提携での効果は現時点で小さいようです。今後はヤマダ電機との販売提携で効果を求めていくことになりますが、この効果は未知数です。大塚家具が「自社のブランドイメージをどのようにしたいのか」がポイントとなるでしょう。昔の高級路線に回帰するのであれば、ヤマダ電機の店舗「家電住まいる館」で家具を販売することはイメージ回復の足を引っ張る可能性があるでしょう。しかし、リーズナブルな価格を目指す戦略を大塚家具が狙っても、ニトリやイケアという競合が存在し、大塚家具は中途半端な立ち位置となってしまいます。ヤマダ電機がいかに家電量販店の雄であろうとも、クロスセル、ワンストップサービスといった商売が上手くいかないことは他業態含めた過去の歴史が証明していると筆者は考えています。消費者はバカではないのです。

尚、大塚家具は、ヤマダ電機から調達した資金を基に広告でのマーケティングを増加させることを企図しているようです。この動き自体は筆者としては良い方向性だと思いますが、実際には赤字による資金流出が続き、広告を打つ余裕があまりないのではないかと想定しています。また、広告マーケティングは効果があるのですが、まずは自社の立ち位置、ブランディングをしっかりと練り直さないと効果が減殺されてしまいます。

大塚家具の株価は2019年12月12日および13日にストップ高をつけました。13日に終値は212円で、ヤマダ電機への第三者割当実施額145.8円(一株当たり)を大幅に超過しています。ヤマダ電機としては当初から含み益を抱えた形になりました。

資金繰り破綻に瀕していた大塚家具の株式を保有していたその他の投資家にとってもリスクが報われたということなのでしょう。

確かに今回の大塚家具とヤマダ電機との資本提携は、大塚家具側にメリットがあるように思われます。目先の資金繰り破綻の懸念が遠のいたのですから当然です。

しかし、冷静に考えると大塚家具の状況は変わっていません。筆者は株価の動きについては分かりませんが、大塚家具の販売力等抜本的には何ら変化が無いことは指摘しておけると思います。

 

ヤマダ電機の狙い

筆者にはヤマダ電機が大塚家具に出資する意図がいまいち分かりません。

株価が急騰した大塚家具と異なり、ヤマダ電機の株価は2019年12月12~13日で下落しています(▲3.6%程度)。株式市場は大塚家具という「お荷物」をヤマダ電機が抱え込んだと評価している可能性があるでしょう。

ヤマダ電機は「家電住まいる館」によって不動産販売のみならず家具販売を行い、ワンストップショッピング、クロスセルを実現させる戦略でしょうが、ワンストップショッピングというのはなかなか上手くいきません。

ヤマダ電機の大塚家具子会社化の狙いを強いて挙げるとすると、家具仕入ルートの確保のみならず、家具人員の確保があるのかもしれません。

ヤマダ電機は、2019年12月時点で大塚家具の従業員22名を受入れています。「家電住まいる館」は現時点で102店となっていますから、更なる人員の確保も必要です。元々は販売力で定評のあった大塚家具の営業人員を受け入れることは有用と考えているかもしれません。

但し、大塚家具の店舗人員は633名(2019年6月末時点)です。ここから100名程度をヤマダ電機に出向させることは現実的ではないでしょう。大塚家具は2018年12月末に854名いた店舗人員を上記633名まで半年で1/4削減しました。これも販売力減の要因となっているのです。

なお、大塚家具は間接部門の人員が減少していません。会社全体の人員から店舗の人員を除いた人員は、2018年12月末=410名、2019年6月末445名となっています。大塚家具は売上が減少しているのですから、この間接部門の人員を削減してコスト削減するのがヤマダ電機の投資に関する条件となっている可能性もあります。間接業務をヤマダ電機に委託することも考えられるでしょう。

ヤマダ電機が「3年で(今回出資する)40億円を回収できるくらいの営業利益が出せる」(日経新聞記事)と発言しているのは相乗効果よりもコスト削減を睨んでのものかもしれません。

 

所見

ヤマダ電機による子会社化により大塚家具は短期的には存続が許されました。しかし、販売力の回復は見えておらず、今回の増資で獲得した資金も焼け石に水となる可能性があります。

また、大塚社長が続投することになっていますが、これは経営立て直しの猶予が与えられただけと見るべきでしょう(もちろん経営を立て直せたならば、そのまま留任していくでしょう)。大塚社長が続投している間に、ヤマダ電機から人員が派遣され、大塚社長が退任しても困らない体制を構築していくはずです。ヤマダ電機は「請われて援助」した立場なのですから、大塚社長続投の方がやりやすいのです。

筆者は、大塚家具の内部が見えませんので、公表資料を分析するしかありませんが、現時点では大塚家具の業績回復の兆しはほとんど見えていません。このヤマダ電機による大塚家具の子会社化が、大塚家具の単なる資金繰り破綻までの時間稼ぎにならないことを祈っています。