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レオパレス21の会社存続のカギは「法人契約」と「不良施工物件がどの程度存在するか」

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レオパレス21の業績が赤字に転落しています。

赤字は施工不良問題が要因ですが、テレビ東京「ガイアの夜明け」における告発番組もあり、レオパレス21の企業としての存続に注目が集まっているのではないでしょうか。

今回はレオパレス21が企業として存続できるのかについて、簡単に考察してみましょう。

 

2018年4~12月決算概要

まずは、レオパレス21の足下の決算状況を確認しましょう。日経新聞から以下記事を引用します。 

レオパレス、最終赤字439億円 4~12月
2019/02/08 日経新聞

 施工不良の問題が響いてレオパレス21の業績が悪化している。8日発表した2018年4~12月期連結決算は、最終損益が439億円の赤字(前年同期は128億円の黒字)だった。同社がこの期間に計上する赤字額としては過去最大。補修工事の費用負担などを見込んで損失引当金を大幅に積み増した。トラブルの影響で入居率の低下が続いており、本業の「稼ぐ力」も落ち込んでいる。
 最終赤字は7年ぶり。過去に手掛けたアパートで施工不良が発覚し、補修工事の費用や今後の引っ越し代の負担を見込んだ引当金など434億円を特別損失として計上した。アパートの売却損なども発生して特別損失は合計510億円にのぼり、自己資本は18年12月末時点で1069億円と1年前から32%減少した。
 売上高は前年同期比2%減の3763億円、営業利益は65%減の65億円だった。主力の賃貸事業が落ち込んだ。レオパレスは主に地主から賃貸アパートの建築を受注し、完成後に物件を一括で借り上げて入居者に転貸する「サブリース」の大手事業者。賃貸管理戸数は57万戸で、物件のオーナーに支払わなければならない賃料が月約250億円にのぼる。
 アパートの入居率は18年12月末時点で85%と、1年前から4ポイント低下。期中平均では89%で1ポイント弱の低下だった。同社は18年春、アパートの一部で界壁と呼ぶ屋根裏の部材が未設置であることが発覚し、過去に施工した全3万9085棟を調査している。1月28日時点の調査結果によると、これまでに不備の有無を判定した1万2364棟のうち、86%で何らかの不備が見つかった。
 不備のある物件は補修工事完了まで入居者の募集を停止している。このため調査が進むにつれて、アパートの空き部屋が増えている。工事完了後、行政機関との調整で募集再開に時間がかかっている例もあるという。
(中略)
 入居者が減っている影響もあって、本業に伴う現金の出入りを示す「営業キャッシュフロー」は73億円のマイナス(前年同期は74億円のプラス)となり、現預金は18年12月末で892億円と1年前から7%減った。資金が不足する場合は自社で保有する物件を売却して対応する方針だ。
 19年3月期通期では380億~400億円の最終赤字を見込む。最終赤字は8年ぶり。予想数値に幅があるのは期中に入居募集を再開できる戸数が不明なためだ。
 レオパレス株は8日、朝方から売り注文が殺到し、取引が成立しない状態が続いた。大引けでは制限値幅の下限(ストップ安水準)となる前日比100円(19%)安の415円で一部は売買が成立した。

これがレオパレス21の直近の決算状況です。

過去に建築したアパートで施工不良が発覚し、補修工事の費用や今後の入居者の引っ越し代の負担を見込んだ引当金等434億円を特別損失として計上したことを主因として赤字となっています。

しかし、忘れてならないのは、売上高は前年同期比▲2%の3,763億円、営業利益は▲65%の65億円であるということです。すなわち、本業は黒字なのです。

では、以上を前提にレオパレス21の業績、存続可能性について考えてみましょう。

 

業績状況詳細

レオパレス21の2019年3月期第3四半期(2018年4~12月)決算におけるポイントは以下の通りです。

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(出所 レオパレス21/2019年3月期 第3四半期決算概要) 

上記図表にある通り、レオパレス21は不動産賃貸事業が事業の柱です。民泊・高齢者施設・海外等、新規事業について決算発表では説明していますが、あくまで賃貸事業が主力なのです。また、開発事業(アパートの建築受注)は賃貸事業に比べると規模が小さく利益も少ない状況にあります。

すなわち、レオパレス21が存続するか否かは、賃貸事業で利益を計上出来るか否かにかかっていると言って良いでしょう。もちろん開発事業も将来の飯のタネとしては重要です(アパートは古くなりますので、レオパレス21が管理・賃貸する物件を維持・拡大していくためには開発事業も重要)が、短期的に見れば不動産賃貸事業がどうなるのかが大事ということです。 

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(出所 レオパレス21/2019年3月期 第3四半期決算概要)

上記図表で分かる通り、レオパレス21は以前は開発事業も主力でした。しかし、リーマンショック以降はアパートオーナーへの賃料保証が厳しくなったこともあり、既存物件の維持・管理(サブリース)に注力しています。(なお、レオパレス21は、土地持ちのオーナーからアパート建物の建築を受注し、建築した建物をレオパレス21が賃借し、最終的な入居者に賃貸するビジネスモデルです。)

単純に言えば、開発事業を縮小し、自社のコストも削減し、オーナー宛の支払賃料を削減して利益が出る体質に転換してきました。毎年、少しでも開発を請け負い管理物件を増やしていけるのであれば(そしてテナント=入居者がきちんとカバーできていれば)売り上げは増加し、利益も増加することになります。

以上を数字面で見ると以下の通りとなります。 

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(出所 レオパレス21/2019年3月期 第3四半期決算概要)

では、そもそもレオパレス21の入居者はどのような属性なのでしょうか。

近時はTV番組でのレオパレス21への報道等がありました。そして、実際にレオパレス21のアパートにおける施工の問題のみならず、遮音性についても問題が様々に報道されています。

TVCM等では有名芸能人を起用し良いイメージを作ろうとしていますが、実際のところイメージは低下しているのではないでしょうか。

すなわち、「誰がレオパレス21の物件に入居する」のでしょうか。

以下の図表をご覧ください。 

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(出所 レオパレス21/2019年3月期 第3四半期決算概要)

 

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 (出所 レオパレス21/2019年3月期 第3四半期決算概要) 

この2つの図表こそがレオパレス21が生き残っている主要な要因と言えるかもしれません。

すなわち、レオパレス21の入居者は「学生や独身者」のイメージがあるかもしれませんが、実際には5割以上が法人契約となっています。企業の社宅・独身寮代わりに使われていることが多いのです。対象業種は建設業、飲食業、サービス業、派遣・業務請負、製造業、小売業と多岐に渡っています。2018年12月時点では44,698社が契約しています。一連の報道で法人での契約は減少していますが、まだ太宗を占めているのです。

以上をまとめると、以下のことが言えるでしょう。

  • レオパレス21は、開発事業ではなく賃貸事業で売上・利益の大半を占める。今回の一連の問題事象が発覚し、新しいアパート投資家がレオパレス21を敬遠することになってもレオパレス21への大きな打撃は無い。
  • レオパレス21の物件に入居している大半は法人契約。従って、どんなにレオパレス21のイメージが悪化したとしても、法人から契約を切られなければ本業での業績(不良施工の損失除く)は比較的安定したままである。法人は個人と比べると感情・イメージを重視する訳ではなく、様々な要素で契約をしている(全国展開しており転勤者が発生した時の対応がやりやすい等)。

 

今後の動向

レオパレス21は、TV報道等を発端に、2018年春ごろに施工物件の一部で界壁の不備が発見・発表され、2019年2月には追加で壁や天井などの施工不良が判明し、天井に問題がある棟の入居者には速やかに引っ越しまで要請する事態となっています。

レオパレス21のアパートに積極的に住みたいと考える人は少なくなっていくでしょうし、レオパレス21のイメージが低下している中、レオパレス21にアパート建築・管理を任せたいと考える土地オーナーも減少しているでしょう。

それでは、レオパレス21は企業としての存続は難しいのでしょうか。

筆者は、レオパレス21は簡単には潰れないと考えています。

まず、レオパレス21の財務内容では、2018年12月時点の現預金892億円に対して、借入金・社債=有利子負債は361億円となっており、いわゆる借金に対して現預金が上回っており、実質的には無借金企業と言えます。そして、レオパレス21のビジネスモデルはストック型ですので、アパート入居者が短期間に劇的に退去しない限りは、短期的に資金繰りで破綻する可能性は小さいでしょう。

ただし、レオパレス21が何らかの重大な法令違反を起こしていたことが発覚し、コンプライアンスの観点から、寮・社宅代わりに契約している様々な法人から契約を打ち切られた場合には、話が変わってきます。

法人から契約を打ち切られた場合には、賃貸収入が急減し建物オーナーへの賃借料支払が出来なくなります。報道では毎月のオーナー宛賃借料支払が毎月250億円(年間3,000億円)年度とされています。この賃借料を支払えないほどに法人契約が急減した場合には、レオパレス21の経営破綻は現実のものとなるでしょう。ただし、現実には全国展開しており、比較的安い賃料で寮・社宅代わりの住居を提供してくれる企業は限られているでしょうから、簡単には法人契約の打ち切りは無いとは想定しています。しかしながら、現在報道されているレオパレス21の増資にかかる法的問題も含めて動向には注目すべきでしょう。

更に、不良施工物件が最終的にどの程度存在し、その改修費用がどの程度発生するのかはレオパレス21の存続に大きな影響を及ぼします。

現時点では自己資本も十分にあり、実質無借金ですので問題はないと思われますが、修繕等工事にかかる費用が見通しを大幅に上回ると、債務超過に陥る可能性も捨てきれません。そうなると上場している株式も更に暴落するでしょうし、支援企業が見つからなければ、レオパレス21と取引をしてきた企業等(テナントとしての法人のみならず、レオパレス21に資材・機器等を納入する企業等)が取引を停止しかねません。その場合には経営破綻という可能性も出てくるのです。

以上をまとめると、レオパレス21という企業は簡単には経営破綻はしないでしょう。しかし、法令違反等の重大な問題が更に発覚した場合等では、契約先(法人)の取引離れを招き一気に問題が発生しかねません。また、不良施工物件が最終的にどの程度存在するのかも需要な問題です。これらの動向を追っていくことがレオパレス21の企業存続を判断していくポイントとなるのです。