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巨額赤字だろうとソフトバンクGは破綻しないという話

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ソフトバンクグループ (ソフトバンクG)が2020年3月期に過去最大の赤字となると発表しました。

ソフトバンクG は、2020年3月期決算が▲1兆3,500億円の赤字(その前の期は+2兆3,539億円の黒字)、最終損益が過去最大の▲7,500億円の赤字(前年同期が+1兆4,112億円の黒字)となる見通しとしています。

赤字の要因は、ビジョンファンドで約1兆8,000億円の投資損失となるほか、米ウィーワークや通信衛星ベンチャーのワンウェブなどファンド以外の投資先でも8,000億円の営業外損失を計上することによるものです。

ソフトバンクGは、過去最大の赤字となり、存続が危うくなっているのでしょうか。

今回はソフトバンクGの「赤字」について、考察してみましょう。

 

ソフトバンクGのプレスリリース

ソフトバンクGは2020年4月13日に以下のようなプレスリリースを発表しました。

以下抜粋して引用します。

営業利益の差異は、主に、市場環境の悪化を受け、ソフトバンクビジョンファンドにおいて投資の公正価値の減少に伴い当期において約1.8兆円の投資損失を計上する見込みであることによるものです。
税引前利益の差異は、主に、上記に加え、当期第1四半期にアリババ株式の先渡売買契約
にかかる決済益及び当第3四半期にアリババに係る持分変動利益を計上し、さらにアリババに係る当期の持分法投資利益が前期から増加する見込みである一方、 The We Company
(WeWork) 及びWorldVuSatellites Limited (OneWeb) など、ソフトバンク・ビジョン・ファンド以外の投資について、当期合計約 8,000 億円の営業外損失(FVTPLの金融商品から生じる損益、デリバティブ関連損益、貸倒引当金繰入額及び持分法投資の減損損失の合計額)を計上する見込みであることによるものです。

(出所 ソフトバンクGプレスリリース)

すなわち、ソフトバンク G の赤字要因は「投資損失」が主であり、それ以外にデリパティブの損失、貸倒引当金の繰入、持分法投資の減損損失です。

 

赤字の意味

では、ソフトバンクGの赤字は企業存続に関わる大問題なのでしょうか。

通常の企業では、赤字になるということは、キャッシュベースでも赤字となることが多々あります。

例えば、1,000円で仕入れた商品が売れ残ってしまい、在庫一掃のために800円で売却したならば、▲200円の赤字となります。商品仕入は、通常は仕入れを行った時点ではなく、1~3か月後に代金を支払います (買掛金等)。そのため、販売がうまくいかないと、想定していた回収代金が入ってこず、 仕入れの代金支払日が到来することになります。手元には資金が無く、支払に窮するのです。

これが赤字企業の資金繰りが厳しくなる簡単な流れです。

ところが、ソフトバンクGは今や投資会社です。
ソフトバンク Gのビジネスモデルと会計方法は、簡単に言えば「最初にキャッシュで投資をする」「投資した企業の株価が上昇すれば利益を計上する」「投資した企業の株価が下落すれば損失を計上する」「投資先の株式を売却して初めてキャッシュが手に入る」というものです。商品の仕入という商行為はなく、買掛のように後から支払う代金もありません。

ソフトバンクGの場合は、先にキャッシュが出ていますが、キャッシュの回収は株式の売却までの長期を予定しています。そのため、資金調達も長期的な目線で実施されています。

投資先の株価が下落した場合には、今回のようにソフトバンクGは損失を計上します。損失の額によっては赤字となります。しかし、その段階でキャッシュが減ることはありません。

キャッシュをどの程度回収できるかは、株式を売却するまで確定しないのです。

以上の理由で、ソフトバンク Gのような投資会社は、赤字となっても資金繰りにはすぐに影響は出ないのです。

どんなに赤字になったとしても、資金調達(社債や銀行借入)が長期でなされているのであれば、償還・返済期限は迫っていませんので、資金繰りの問題はありません。そして、当然ながら、機関投資家や個人、銀行がソフトバンクGにお金を貸し続けるならば、ソフトバンクGは資金繰りが破綻することはありません。

ソフトバンクGが資金繰り破綻するのは、ソフトバンクGの投資が上手くいかず、将来、株式売却で資金を回収できないと債権者(社債投資家としての機関投資家・個人、貸付人としての銀行等)が懸念を持ち、新たな資金支援を行わなくなった時です。

あえて言うならば、投資会社としてのソフトバンクGの赤字は、キャッシュを伴わない単なる数字でしかありません。株価が上がれば会計上の見かけの利益が計上され、株価が下がれば見かけの損失が計上されるだけです。同じ株式を持ち続けているだけなのに、株価によって利益が出たり、損失が出たりするのです。実際には全くキャッシュは動いていないとしてもです。

ソフトバンク G の損益は見かけだけのものであり、赤字にはあまり意味はないとも言えます。

 

所見

ソフトバンクGの巨額赤字は、ニュースにはなるでしょう。

しかし、巨額赤字だったとしても、ソフトバンクGが「終わり」となるようなものではありません。

企業が潰れる時は、あくまで資金繰りが破綻した時です。

ソフトバンクGは、借入金を総資産価値(保有している株式の価値)の25%未満に抑える方針です。また、手元の現金は少なくとも2年間の社債の償置資金をカバーしています。そして、ソフトバンクGには、なんといってもアリババの株式があります。

このアリババの株式の時価だけで有利子負債を全て返済できるだけの価値があります。単純に言えば、ソフトバンクGはアリババ株式を売れば資金繰り破綻からは免れるのです。

ニュースでは面白おかしく書かれるかもしれませんが、ソフトバンクGは巨額の赤字を出しても破綻はしないのです。