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ソフトバンクグループは、まだ大丈夫

ソフトバンクグループが、2023年3月期第1四半期の決算にて、過去最大となる3.2兆円の赤字となったことを発表しました。決算発表において孫会長は「この6か月で計5兆円の赤字を出したことになります」と力なく報告したとも報道されています。

ソフトバンクグループはこのような巨額の赤字を出しても問題ないのでしょうか。

今回は2022年度1Q(2023年3月期第1四半期)のソフトバンクグループの決算について簡単に見ていきたいと思います。

 

決算概要

ソフトバンクグループの四半期毎の純利益を並べたグラフが以下です。

(出所 ソフトバンクグループ「2023年3月期第1四半期決算説明会」)

まさに過去最大の赤字であり、半年合計では5兆円を超える赤字です。日本企業の4~6月期の赤字額としては過去最大となりました。

この要因は何でしょうか。以下のスライドを見ると非常に分かりやすいでしょう。

(出所 ソフトバンクグループ「2023年3月期第1四半期決算説明会」)

ソフトバンクグループが行っている投資事業であるビジョン・ファンドでの赤字が2兆3千億円超、外貨建の負債が円安で増加し為替差損が8千億円超出たということになります。

非常に巨額な赤字です。

ソフトバンクグループは企業存続の観点から大丈夫かと心配する方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

ビジョン・ファンドの推移

上記の為替差損はソフトバンクの存続という観点では、基本的に無視しても良いでしょう。理由は、外貨で借り入れを行っていても、その借り入れを外国株式へ投資しているためです。すなわち、外貨での借入が円安で増加しても、その見合いの外国株式も円安で増加しているのです。

それよりもソフトバンクグループが本業としてきた投資事業がどうなっているのかの方がソフトバンクグループの存続という観点で重要です。

ビジョン・ファンドの過去の投資実績は以下の通りとなっています。

(出所 ソフトバンクグループ「2023年3月期第1四半期決算説明会」)

わずか1年前には7兆円以上の利益を累計で計上したのに、たった一年でその累計の利益をほぼ無くしました。これがビジョン・ファンドの運用状況です。

ビジョン・ファンドは世界のAI(人工知能)関連の新興企業に投資しています。今回の運用悪化は、米金利上昇をきっかけに世界的にハイテク株が下落した影響を受け、投資先の価値が大きく下がったことが要因です。

 

ソフトバンクグループは大丈夫か

ここまでソフトバンクグループの2023年3月期1Q決算の重要ポイントを簡単に見てきました。1Qとして日本企業で過去最大の赤字を計上し、半年累計では5兆円を超える赤字を出したソフトバンクグループは大丈夫なのでしょうか。

以下のグラフをご覧ください。

(出所 ソフトバンクグループ「2023年3月期第1四半期決算説明会」)

これは、ソフトバンクグループの保有株式(資金調達目的等で金融取引に使っている株式を除く)と、純負債(保有株式を使ったアセットバック・ファイナンス等を除く)を示したものです。

ソフトバンクグループがこのグラフで説明したいのは、しっかりと返済しなければならない負債と比べて保有株式の価値は大幅に高く、保有株式を相応に売却すれば無借金になる、すなわちソフトバンクの財務体質は全く問題ない、ということでしょう。

そして、この説明のストーリー自体には何ら問題がありません。保有している株式に価値ががあれば、ソフトバンクグループの財務内容は極めて良好と言っても良いかもしれません。

しかし、ソフトバンクグループの保有株式(資金調達目的等で金融取引に使っている株式を除く)は49%が上場株式、51%が非上場(未公開)株式です。非上場株式については換価性が低いため、上場株式だけで上記の純負債をカバー出来ているならば、ソフトバンクグループの安全性は固いと言えるでしょう。

(出所 ソフトバンクグループ「2023年3月期 第1四半期決算 投資家向け説明会」)

上記の図を見ると、アリババ、ソフトバンク(携帯電話会社)、Tモバイル、ドイツテレコムが上場株式の主要銘柄です。これを合計すると8.1兆円となります。

すなわち、ソフトバンクグループは上場株式を売るだけで純負債を完済出来ることが分かります。もちろん、ソフトバンクグループほどの大口株主が上場株式を売却しようとすると株式市場に大きな影響を及ぼし、売却対象銘柄は大きく値を下げる可能性があります。しかし、それでも上場株式だけで純負債の2倍以上あるのですから、ソフトバンクグループの現時点での財務体質には問題が無いと考えておいて間違いないでしょう。

 

まとめ

ソフトバンクグループは、2000年に実施したアリババ(中国、EC大手)への投資によって、莫大な含み益を手にし、それを活用して投資事業を行ってきました。まさに虎の子の資産でしたが、ついにアリババ株式を一部減らすと発表しました(細かい手法はここでは触れません)。これによってソフトバンクグループが保有するアリババ株式の比率は2022年6月末時点の23.7%から14.6%に低下するとされています。一方で、一連の取引によってキャッシュが入って来る訳ではないものの会計上4兆6千億円の利益が出ると発表しています。やはりソフトバンクグループはアリババへの投資に救われています。

しかし、アリババは米株式市場で上場廃止のリスクがある銘柄に指定されています。米証券取引委員会(SEC)は2022年7月に、外国企業説明責任法(HFCAA)に基づき上場廃止リスクがある企業のリストにアリババを追加指定したと発表しています。外国企業説明責任法では外国企業が3年連続で米国の監査基準を満たさない場合、米国の取引所から上場廃止にすることを目的としています。アリババは、指定は基準不適合の1年目と見なされたという意味だとした上で、上場維持に努めると表明していますが、米中対立の中、先行きは不透明です。もしアリババ株式が米株式市場にて上場廃止になった場合には、(香港株式市場があるとはいえ)ソフトバンクグループに大きな影響を及ぼす可能性があります。

筆者は、ソフトバンクグループの信用力という観点では、ほぼアリババ株式を見ておけば良いと思っている時期があったぐらいです。ソフトバンクグループは、現時点では企業存続の観点で問題はありません。しかし、更に世界的に株価下落が続いた場合にはソフトバンクグループは投資先の株価に支えられている企業であるため、追いつめられる可能性はゼロではありません。まさにソフトバンクグループは株価次第(そしてかなりの部分がアリババ次第)なのです。