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MUFGの2019年3月期3Qは市場部門の苦戦が目立つ決算

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メガバンク3行の2019年3月期第3四半期決算(2018年4~12月)が出そろいました。

今回は、メガバンク最大手MUFGの第3四半期決算について概要を確認していきましょう。

 

決算の概要

まずは、全体の概要をつかむために新聞記事を引用します。日経新聞が5大銀行(MUFG、SMFG、みずほ、りそな、三井住友トラスト)の決算概要をまとめています。

5大銀の4~12月期 最終利益4%減、運用低調が重荷に
2019/02/04 日経新聞  
 大手銀行5グループの2018年4~12月期決算が4日、出そろった。本業のもうけを示す傘下行の実質業務純益は合計1兆4622億円となり、前年同期比で8%減った。10~12月期の世界的な株安や債券相場の乱高下で市場部門が振るわなかった。一部の銀行では海外向け貸出残高を増やして下支えしたが、先行きはなお見通しにくい。
 5行合算の連結最終利益は5%減の2兆1955億円だった。4日発表した三菱UFJフィナンシャル・グループは、持ち分法適用会社の米モルガン・スタンレーの利益貢献や米減税効果で1%の増益を確保した。三井住友トラスト・ホールディングスは外貨の余資運用が好調で業績を押し上げた。
 一方、市場関連の落ち込みの影響を補えず、三井住友フィナンシャルグループやみずほフィナンシャルグループ、りそなホールディングスは減益だった。
 18年10月は米ハイテク株主導で世界的に株安となり、12月にも米利上げを起点に株安が連鎖した。米債券市場では期間の長い金利が短い金利を下回る「逆イールド」が一部で起きるなど、運用環境は悪化した。三菱UFJの市場部門の営業純益は4~12月期に前年同期比36%減。みずほFGは傘下銀行で市場部門の粗利益が35%減った。
 一方、日系企業の海外進出やM&A(合併・買収)の増加を受け、海外向け融資は堅調だ。海外向け貸出残高は三井住友で前年同期比4%増、アジア向けを伸ばしたみずほは19%増だった。
 ただ海外向け融資は将来の与信費用が膨らむリスクもはらむ。三菱UFJは取引先が海外ビジネスで損失を抱えて新たな費用が発生した。三井住友やみずほも海外向けの与信費用を新規で積んだようだ。
(以下略) 
 19年3月期通期の連結純利益予想は5社とも据え置いた。三菱UFJは4~12月期時点で予想に対する進捗率が92%、三井住友FGは91%に達した。それでも「構造改革費用がかさみ、地政学リスクもある」(三菱UFJ)、「上期までと様変わりで厳しい環境だ」(三井住友FG幹部)と、慎重姿勢を維持する。
 上期までは与信費用の戻り益などで「環境は厳しいのに数字が出る決算だった」(大手銀幹部)。国内の利ざや縮小や市場部門の苦戦、金融商品販売の頭打ち――。4~12月期決算は銀行業界を取り巻く本来の厳しさを映し出したといえる。

メガバンクについて言えることは、海外貸出は好調の一方で、市場部門(債券市場等で運用する部門)の収益が厳しかったということです。 

それでは、MUFGの決算を見ていくことにしましょう。

 

MUFG決算のポイント(P/L)

まずは損益計算書(P/L)を見ていきましょう。

MUFGの連結決算のポイントを以下挙げます。

  • 業務粗利益(一般企業の売上高に相当) 28,292億円(前年同期比▲991億円)
  • うち、資金利益 14,500億円(同+163億円)
  • うち、信託報酬+役務取引等利益 10,589億円(同+23億円)
  • うち、特定取引利益+その他業務利益 3,203億円(同▲1,131億円)
  • その他業務利益のうち、国債等債券関係損益 102億円(同▲432億円)
  • 営業費(▲) 19,881億円(同+168億円、※コスト増)
  • 業務純益(一般企業の営業利益に相当) 8,410億円(同▲1,160億円) 

上記の通り、減収減益となっています。

資金利益(=貸出利息等)が増加しましたが、国債等の債券関係損益を中心に市場関連収益が減少しています。

また、営業費も増加(これは海外での業容拡大および規制対応費用とされています)しており、結果として、本業の収益である業務純益が減益となりました。

MUFG内部管理上の営業純益(≒業務純益)では、市場部門が▲1,163億円となっていますのでMUFGの決算における減益は大雑把にいえば市場部門の苦戦によるものと言えます。

なお、顧客部門の営業純益に占める海外対顧収益比率は39%(前年同期比+3ポイント)となっており、収益のかなりの部分を海外で稼いでいることが分かります。

次にバランスシートを確認しましょう。

 

MUFG決算のポイント(B/S)

上記P/Lの項目で分かるように貸出収益は比較的好調です。それを資産面から確認しましょう。

<貸出>

  • 貸出金(銀行勘定) 1,084,027億円(2018年3月末比+3,117億円)
  • うち住宅ローン 151,433億円(同▲3,105億円)
  • うち国内法人貸出 443,524億円(同▲1,055億円)
  • うち海外貸出 439,235億円(同+9,742億円)

以上のように、貸出金は全体で増加しています。

しかし、内訳を見ると、国内の住宅ローンも法人貸出も減少していることが分かります。MUFGは海外貸出の増加によって貸出金全体の金額を増加させているのです。

すでに国内法人貸出と海外貸出はほとんど同じ規模となっています。このままの動向が続けば、来年度中には海外貸出が国内法人貸出を逆転することになります。

MUFGの収益の源泉は海外に移行していると考えて良いでしょう。

ただし、同期間にみずほFGは外貨貸出を3.1兆円増加させています(19.4兆円→22.5兆円)。SMFGも2.3兆円の増加です(20.7兆円→23.0兆円)。

他メガと比べるとMUFGは外貨貸出の伸びが低調と言えるでしょう。

なお、海外店+海外子会社の預金残高は37.4兆円となっており2018年3月末比で▲0.9兆円と減少しています。

海外貸出は43.9兆円ありますので、単純に言えば、外貨預金では外貨貸出をカバーできていないことになります(カバー率85%)。これはみずほFGのカバー率75%を上回りますが、みずほは外貨預金残高を大幅に増加させています(残高ではSMFGは横ばい)。

MUFGは安定した外貨預金の調達(=安定性)や当局対応に力点を置き、外貨貸出の伸びを抑制している可能性があるものと思います。(※もちろん筆者の考えすぎの可能性もありますが)

 

<その他有価証券>

次に有価証券について確認しましょう。

  • 合計残高 543,821億円(2018年3月末比▲10,152億円)、評価損益 +25,998億円(2018年3月末比▲9,175億円)
  • うち、国内株式残高 47,923億円(同▲7,487億円)、評価損益+25,396億円(同▲6,805億円)
  • うち、国内債券残高 254,180億円(同▲15,625億円)、評価損益 +3,018(同▲36億円)
  • ※国内債券残高のうち「国債」 201,349億円(同▲23,156億円)、評価損益 +2,373億円(同▲217億円)
  • うち、その他残高 241,717億円(同+12,961億円)、評価損益▲2,415億円(同▲2,332億円)
  • ※その他のうち「外国株式」 1,439億円(同▲1,906億円)、評価損益▲58億円(同▲418億円)
  • ※その他のうち「外国債券」 178,341億円(同+3,857億円)、評価損益▲1,592億円(同▲201億円)
  • その他のうち「その他」 61,937億円(同+11,009億円)、評価損益▲764億円(同▲1,712億円)

今回のMUFGの決算における特徴が、有価証券の残高と評価損益に表れています。

MUFGは国内株式と国内債券を減少させています。これ自体は特段問題もなく、かつ国内債券は3,000億円超の含み益を確保しておりMUFGの余裕が表れているとも言えるでしょう(国内債券では、みずほFGが▲8億円の含み損、三井住友FGは+428億円の含み益と規模が異なる)。

一方で、MUFGはゼロ金利政策によって利益が確保できない国内債券から、その他有価証券の「その他」(=外国株式、外国債券、投信等)に資金をシフトさせています。ところが、この「その他」で大幅に評価損益が悪化しています。「その他」で評価損益が2018年3月末時点から▲2,332億円も悪化しているのです。外国株式は処理したようですが、特にその他(投信等)で▲1,712億円の悪化となりました。

 

所見

以上、MUFGの2018年4~12月の決算を見てきました。

メガバンクは地方銀行と異なり海外事業の拡大という道が存在します。今回のMUFG決算もそれを如実に表していると言えます(これはSMFGもみずほも同様)。

一方で、国内外のマーケット環境により市場部門は苦戦が続いています。金利低下局面で銀行の利益を支えてきた(国債の含み益を実現してきた)市場部門が利益を安定的に計上できるのは暫く先になりそうです。

そして、MUFGにはめずらしく(?)、有価証券の運用でかなり苦戦をしているようです。筆者はMUFGがマーケットリスクを取る一方で、比較的、運用を上手くやっているイメージを持っていましたが、今回の決算では運用戦略が裏目に出ているようです。 今後、MUFGがマーケットでの運用の比重をどのようにしていくのかは注目点と言えるでしょう。

加えて、今回の決算ではMUFGがSMFGやみずほFGと比べて、外貨貸出の伸びが小さいことがはっきりとしてきています。これには何らかのMUFGとしての考えがある可能性が高いでしょう(単純に案件獲得が出来ていないと考えるのは難しいと思います)。

市場部門と外貨貸出の動向が、今後もMUFGの決算における注目ポイントとなっていくでしょう。