銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の経営トップはなぜ「頭取」と呼ばれるのか

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銀行という組織は特殊だと思う方は存在するでしょう。

例えば、「銀行員」という用語が存在します。銀行も会社ですから、普通に「会社員」「サラリーマン」等と言えば良いのに、なぜか銀行員です。

このような銀行の特殊性の一つが、組織のトップの名称です。

「頭取」という特殊な名称で呼ばれています。

今回は、この「頭取」という名称の由来等について簡単に見ていきましょう。

 

頭取の由来

銀行という組織のトップはなぜ頭取と呼ばれているのでしょうか。

以下の記事が参考となるでしょう。

銀行のトップなぜ頭取? 「音頭取り」…法令で定着

2011年11月18日 東京新聞Web Q&A

 Q 銀行のトップを頭取と呼ぶのはなぜ。
 A 頭取の語源は「音頭取り」とされる。雅楽で最初に演奏する人を指し、転じて集団の長を指すようになった。筆頭取締役がルーツとの説もある。
 銀行では一八七三年に第一国立銀行が初めて採用。当時は法令で銀行は「頭取」を選ぶ決まりだった。後に法的しばりはなくなるが、業界に定着。信託銀行は起源が銀行でなく信託会社なので、社長を使う。
 他にも第二地方銀行などにトップを社長と呼ぶ銀行がある。都市銀行では旧三井銀行が一九九〇年の旧太陽神戸銀行との合併まで社長を使用。旧三井銀は一八七六年設立の初の私立銀行で「国立銀への対抗心の現れだった」との指摘もある。
 りそなホールディングスは細谷英二会長が主導して二〇〇三年、傘下のりそな銀行などで頭取を廃止して社長にした。銀行もサービス業だという社員の意識改革が目的だったという。

 

明治時代に銀行の前身となる「為替会社」が設立された際に、出資者の代表を頭取と呼んだことから、銀行の代表者として業務執行にあたる者を頭取と呼ぶようになったともされています。それが国立銀行条例の公布で固定的な習慣となりました。

 

組織によっての使用事例 

以上、頭取の名称の由来について確認しましたが、そもそも銀行と認識されているような組織でも、頭取ではない名称を使用していることもあります。

事例としては以下となります。

  • りそな銀行・埼玉りそな銀行=社長
  • スルガ銀行=社長
  • 信託銀行=社長
  • ゆうちょ銀行=社長
  • 新生銀行・あおぞら銀行(旧長信銀)=社長
  • 信用金庫及び信用組合=理事長
  • 農協(JAバンク)=組合長
  • 商工中金=社長
  • 日本銀行、日本政策金融公庫、国際協力銀行=総裁

りそなグループは経営トップの考えによって役職名を変更しました。

また、信託銀行各社は、大手信託銀行が「信託会社」すなわち銀行からスタートしていないことから社長という名称を使い続けています(その後に出来た新しい信託銀行もその慣習を踏襲しているのでしょう)。

旧長信銀の新生銀行・あおぞら銀行は破綻後に頭取から社長に役職名を変更しています。

日本銀行等は法律によって組織トップの名称が決まっています。

そもそも、「頭取」や「社長」という役職は、日本の法律上の用語ではありません。株式会社のトップは代表取締役(委員会設置会社のトップは代表執行役)です。頭取、社長という用語は、慣習的に各企業が使用しているのです。

 

所見

以上見てきたように、銀行の組織トップを「頭取」と呼ぶのは、慣習的なものです。いつでも変更できますし、現に変更してきた銀行も存在します。

筆者は、多様性を維持する観点から、銀行に頭取という役職が残っていって欲しいとは思います。

一方で、頭取という役職を無くした銀行は、何らかの変革を迫られてトップの肩書を変えたという経緯が多いのも事実です。

頭取という役職名が残っているということは、その銀行は経営陣・ガバナンス・組織等を抜本的に変える必要に迫られなかった、もしくは積極的に変えてこなかった、ということが言えるでしょう。

銀行業というビジネスモデルの抜本的な再構築を迫られかねない現在において、頭取の名称がどのようになっていくのか、注目して見ていくのも面白いかもしれません。