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三菱UFJ銀行の一部店舗での昼休み導入はキャッシュレス化の加速を引き起こす可能性あり

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三菱UFJ銀行が一部の店舗で昼休みを導入しました。

店舗の昼休み導入がニュースとなるのは違和感があるかもしれませんが、銀行の営業時間に疑問を感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

なぜ、銀行は一般に9時から15時までしか空いていないのでしょうか。

今回は、銀行の営業時間について確認していきましょう。

 

報道内容

以下、三菱UFJ銀行の愛知県内の一部店舗に関する記事を引用します。

三菱UFJ、「昼休み」

を導入 設楽の田口特別出張所 2019年1月21日 中日新聞Web (共同通信)

 三菱UFJ銀行は21日から愛知県内の1店舗で「昼休み」を導入した。来店客の少ない平日正午から午後1時まで窓口を閉じて行員が一斉に休憩する。交代の人員を手当てしなくて済み、店舗運営の効率化につながる。法律で営業時間が規定された店舗での昼休みはメガバンクで初めて。他の店舗への拡大も検討する。

 愛知県設楽町の田口特別出張所で昼休みを始めた。これまでは行員5人で平日午前9時から午後3時まで業務に当たり、昼食時は近隣の支店から行員1人が40~50分かけて応援に駆け付けていた。店舗は山間部にあり、昼食時は来店客も少なく、休んでも影響は小さいと判断した。

如何でしょうか?

三菱UFJ銀行は店舗を開けておくために近隣の店舗から応援人員を派遣までしていました。これが銀行の店舗運営の実態なのです。

 

銀行の営業時間

銀行の営業時間について不満を持っている方も多いでしょう。

一般の銀行は、平日の9~15時しか店舗を開けていません。

これでは会社員のように時間を拘束されている仕事に従事していると、なんとかして仕事の合間に抜け出して銀行に行くしかありません。

本来であれば、平日の会社帰り、もしくは休日の買い物のついでに立ち寄り、用事を済ませたいところでしょうが、銀行の店舗は閉まっているのです。

また、銀行で行う手続きは面倒で時間がかかるものが多く、そもそも窓口が混んでいて待たされるという問題もあります。

この銀行の営業時間は法令上で決まっているのでしょうか。なぜ銀行は平日9~15時の営業時間を拡大しないのでしょうか。

実は、銀行の営業時間は法令上で決まっています。銀行法や銀行法施行規則に銀行の営業時間が定められているのです。

 

<銀行法>
(休日及び営業時間)
第一五条 
(第1項は略)
2 銀行の営業時間は、金融取引の状況等を勘案して内閣府令で定める。

<銀行法施行規則>
第十六条 銀行の営業時間は、午前九時から午後三時までとする。
2 前項の営業時間は、営業の都合により延長することができる。
3 銀行は、その営業所が次のいずれにも該当する場合(前項に該当する場合を除く。)は、当該営業所について営業時間の変更をすることができる。
一 当該営業所の所在地又は設置場所の特殊事情その他の事情により第一項に規定する営業時間とは異なる営業時間とする必要がある場合
二 当該営業所の顧客の利便を著しく損なわない場合
4 銀行は、前項の規定による営業時間の変更をするときは、次に掲げる事項を当該営業所の店頭に掲示しなければならない。
一 変更後の営業時間
二 前号の営業時間の実施期間(実施期間を設定する場合に限る。)
三 当該営業所の最寄りの営業所の名称、所在地及び電話番号その他の連絡先

 

この施行規則16条1項にあるように銀行の営業時間は(平日)9~15時です。

しかし、同じ施行規則16条2項には、銀行は「営業の都合により営業時間を延長することができ」るとされています。

すなわち、銀行は営業時間を深夜まで延長しても法令上は何ら問題はありません。

この法令は、営業時間の上限を定めているのではなく、営業時間の最低を定めているという方が正確でしょう。

ただし、2016年9月23日に銀行法施行規則が改正され、営業時間は短縮することも可能になりました。それが上記施行規則16条3項に記載されています。

銀行は「顧客の来店ニーズを踏まえ午前中を休業し、顧客ニーズの高い夕方までを営業時間とすること」や「曜日によって異なる営業時間とすること」等ができるようになりました。

これは一般顧客の利便性を考慮して法令改正が行われたものではありますが、裏を返せば銀行の営業時間を短縮することもできる法令改正でした。

いずれにしろ、銀行の営業時間が一般的には9時から15時なのは、銀行側の都合ということです。

 

今後の動向

銀行としてはメガバンクが先鞭をつけ、店舗閉鎖、人員削減等を開始しています。

銀行の店舗はインターネットバンキングの普及拡大、キャッシュレス化が進展すれば更なる閉店に追い込まれていくことが想定されます。

「法令で決まっている日しか休めない」「営業時間の基準が決まっている」店舗は銀行にとって重荷になってきています。

そして、そもそもキャッシュレス化の流れの中では支店の業務のかなりの部分が不要となる可能性があります。キャッシュレスは現金の取り扱いや伝票(払出請求書や振込依頼書等)を減らします。ペーパーレスが進めば、かなりの事務が「人からシステム」へ移行出来ます。もちろんOCR(光学読取)の性能が上がり実務で使えるようになれば、ペーパーが存在していたとしても、「人の業務」を減らせるでしょう。

また、投資信託の申し込みは店頭で頼むぐらいならネット証券で注文した方が個人にとっては簡単に行うことができます。

そうなってくると、本当に銀行の店舗は必要かという疑問が出てきます。

銀行の店舗が平日も休めるようになったり営業時間が短縮されたりすると銀行の利便性は低下し、さらなるキャッシュレス化を招くでしょう。

そして、キャッシュレス化は銀行の強み(ATM等)を失わせます。特徴のない銀行はさらに厳しい状況に追い込まれていくかもしれません。

今回の銀行店舗の昼休み導入は、もしかしたら、日本のキャッシュレス化を加速した出来事と、将来的には認識されるのかもしれません。