銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行保有情報の第三者への提供は新たなビジネスの芽になり得る

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金融庁の金融審議会「金融制度スタディ・グループ」が金融機関による情報の利活用に係る制度整備についての報告を公表しました。

この報告書では、銀行本体で情報を活用したビジネスを営むことを可能とすべきとの方向性が述べられています。

今回はこの報告書の内容について確認しましょう。

 

報道記事

「金融制度スタディ・グループ」が発表した金融機関による情報の利活用に係る制度整備についての報告については、日経新聞が解説記事を掲載しています。

保険会社のIT全額出資認める 金融庁
2019/01/10 日経新聞

 金融庁は保険会社の業務範囲規制を見直す。これまでの出資ルールを改め、IT(情報技術)企業などへの全額出資を新たに認める方針だ。銀行については法律を改正済みで、保険会社も規制の目線をそろえる。金融とITが融合するフィンテックの普及をにらみ、金融機関が持つ膨大な取引データを生かした新しい金融サービスの創出を促す。
 10日、有識者を交えた「金融制度スタディ・グループ」を開き、金融機関の情報活用に関する報告書案をまとめた。ITが進展し金融と非金融の境界が曖昧になるなか、銀行や保険会社といった既存の金融機関でもデータの活用が急務になっている。提言を踏まえて1月召集の通常国会で保険業法や銀行法、金融商品取引法の改正案を提出する方向だ。
(中略)
 念頭に置くのは2016年の銀行法改正だ。それまで銀行は事業会社に対して5%(銀行持ち株会社は15%)までしか株式を持つことができなかったが、法改正でIT企業に対して全額出資して子会社にすることが可能になった。今回の制度見直しで、銀行と保険会社の規制が平等になる。

(中略)

 保険以外にも金融庁は銀行本体でもデータを活用しやすくする方針だ。個人情報保護法を踏まえた上で、銀行が持つ決済や取引といったデータを他のサービス会社などに提供することを認める案が出ている。現在は銀行が出資したIT子会社などに業務範囲がとどまっている。

(以下略)

以上がワーキンググループの報告書の概要です。

では、もう少し詳しく見ていきましょう。

 

報告書の内容

以下はワーキンググループの報告書を抜粋したものです。

業務範囲に関して厳格な制限が存在する伝統的な金融機関のうち、銀行については、平成 28 年の銀行法等の改正により、銀行業高度化等会社を子会社・兄弟会社とすることが可能となった。この銀行業高度化等会社は、いわゆる EC モール(電子商取引市場)の運営を含めた多様な業務を営むことが想定されており、当然にして、情報の利活用に関する業務を幅広く営むことも可能である。すなわち、銀行の子会社・兄弟会社は、現行制度の下でも情報の利活用に関する業務を幅広く営むことが可能である。
他方で、利用者から情報の提供を受けて、それを保管・分析し、自らの業務に活用する、さらには(必要に応じ当該利用者の同意を得た上で)第三者に提供する、といったことが今日の経済社会において広く一般的に行われるようになっていることを踏まえれば、伝統的な金融機関についても、情報の利活用に関する一連の業務を、本体で営むことを可能とすることが適当である。
ただし、例えば銀行の業務範囲規制の検討は、本スタディ・グループにおいてこれまでも議論があったように、①利益相反取引の防止、②優越的地位の濫用の防止、③他業リスクの排除、といった規制の趣旨を踏まえつつ、監督の実効性等にも配意しながら進めていく必要がある。このため、銀行業高度化等会社が営むことができる情報の利活用に関する業務全てを、銀行本体が営むことを直ちに認めることは、適当ではないと考えられる。
こうした点も踏まえ、銀行本体が情報の利活用に関する一連の業務を営むことを可能とする観点から、銀行本体が営むことを新たに認める業務は、さしあたりは、保有する情報を第三者に提供する業務であって銀行業に何らかの形で関連するもの、とすることが適当である。

(出典 金融審議会 「金融制度スタディ・グループ」 金融機関による情報の利活用に係る 制度整備についての報告 平成 31 年1月 16 日)

 

所見

本件報告にある銀行が保有する「情報の利活用」すなわち情報の第三者への提供を銀行本体で行うことが出来るようになることは、銀行の新たなビジネスになる可能性はあります。

特に、本体で業務を行えるのであれば、地方銀行でも比較的コストをかけずに参入出来るでしょう。また、子会社方式ではないため、撤退も比較的容易です。

第三者が銀行情報を活用できる事例としては以下のようなものがあるでしょう。

  • ドコモと新生銀行の提携(ドコモレンディングプラットフォーム)のような銀行情報を活用した事業法人の与信サービス、
  • 銀行情報に基づく、事業法人の顧客に対する与信判断(携帯電話契約の申し込みを受ける、売掛で許容する残高を決める等)
  • 銀行情報による本人確認
  • 個人・企業の不正検知、アンチマネーロンダリング(口座異動推移を判断材料に)
  • 企業の需要予測や生産計画、在庫管理への銀行情報(決済件数、決済額、預金流出入等)活用
  • 企業の給与・賞与データによる小売への影響分析(個人の購買力調査)
  • チャネルシステムの利用状況(営業店、ATM、コールセンター、Webなどをいつ、どのくらいの頻度で、どこで使用しているか)による交通等への影響分析
  • 口座異動情報等による「いつ、どこで、何を、どのように消費し、何に興味を持ち、どこに投資、蓄積しているのか」という個人動向分析
  • 不動産価格動向予測への銀行情報活用(住宅ローン、アパートローン申込動向、銀行の謝絶動向)

このように現時点で想定できるような活用方法のみならず、銀行が保有するビッグデータの活用が、従来の「産業」や「商慣習」などが形成していた心理的な「壁」を超える、先入観などに囚われない新しい創造や付加価値の芽の発見に繋がっていく可能性もあるのです。

銀行の保有情報の第三者への提供可能化は、非常に注目すべき動きといえます。