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信用金庫の2017年度決算まとめ~地銀より厳しいのは信金~

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日本銀行から「金融システムレポート別冊シリーズ2017年度の銀行・信用金庫決算」が発表されました。

今回は、この金融システムレポートから、地方銀行(地銀)、信用金庫(信金)の決算内容を抜粋し、確認していきたいと思います。

信金の業績にかかる全体像を確認できるレポートは少ないため、信金について地銀との比較で確認いただければ幸いです。

 

決算の全体像

日銀がまとめた当該レポートでは、銀行·信金の決算の特徴は以下の通りとなっています。

2017年度の銀行·信用金庫決算の特徴は、次の3点である。

第一に、当期純利益は、大手行では増益となり、地域銀行と信用金庫では減益幅が縮小した。いずれの業態でも、国内貸出利鞘の縮小や、米国債の売却損益の悪化等が利益を押し下げた一方、低水準の信用コストが下支えするもとで、株式売却益の増加等が利益を押し上げた。

第二に、基礎的収益力を示すコア業務純益は、地域銀行ではほぼ前年並みとなったものの、大手行と信用金庫では引き続き減益となった。いずれの業態でも、国内貸出利鞘の縮小に伴い資金利益が減少した。資金利益への依存度が高い地域銀行や信用金庫では、金融機関間の基礎的収益力のばらつきが拡大してきている。

第三に、金融機関の財務の健全性は全体として維持されている。自己資本は、内部留保の蓄積から、大手行を中心に引き続き増加した。

今回は地銀と信金にポイントを絞って決算概要を確認していくことにしましょう。

 

決算のポイント(損益)

当該レポートにおける地域銀行は地方銀行(第一地銀) 64行、第二地方銀行(第二地銀)41行、信用金庫は日本銀行の取引先である253庫となっています。

この地銀、信金の決算状況は以下の通りです。

<2017年度地銀(単体)決算>

  • 資金利益37,359億円(前年比▲0.2%)
  • 非資金利益5,362億円(前年比▲1.5%)
  • 経費▲29,792億円(前年比▲1.2%)
  • コア業務純益(一般企業の営業利益相当) 12,929億円(前年比+1.6%)
  • 債券関係損益▲1,186億円(前年比▲820億円の悪化)
  • 株式関係損益2,601億円(前年比+24.1%)
  • 当期純利益 9,423億円(前年比▲2.4%)

 

<2017年度信金(単体)決算>

  • 資金利益15,444億円(前年比▲0.9%)
  • 非資金利益645億円(前年比▲12.8%)
  • 経費▲13,180億円(前年比▲1.3%)
  • コア業務純益(一般企業の営業利益相当) 2,909億円(前年比▲1.7%)
  • 債券関係損益422億円(前年比▲47.3%、▲378億円)
  • 株式関係損益539億円(前年比+59.4%)
  • 当期純利益2,640億円(前年比▲4.6%)

 

<日銀コメント>

  • 地域銀行の当期純利益(約0.9兆円)は、年▲2.4%の減益となった。国内貸出利鞘の縮小に伴う資金利益の減少傾向が続くなか、米国債の売却損に伴う債券関係損益の悪化が減益の主因となった。一方、経費の削減や、株式関係損益の益超幅の拡大が収益の下支え要因として作用した。
  • 信用金庫の当期純利益(約0.3兆円)は、貸出利鞘の縮小に伴い資金利益が減少したほか、債券関係損益の益超幅が縮小したこともあり、前年比▲4.6%の減益となった。

 

<筆者コメント>
信金の決算を地銀と比較すると、1行(庫)あたりの規模が小さいことが見て取れますが、それ以上にポイントとなるのは、信金は非資金利益の額・割合が圧倒的に低いことです。

これでは貸出利鞘が縮小していくと、貸出ボリュームを増やさない限り、収益の確保は難しくなります。

 

決算のポイント(バランスシート)

次に地銀および信金のバランスシートについても確認しておきましょう。

 

<2017年度地銀(単体)バランスシート>

  • 貸出金253.4兆円(前年比+5.5兆円)
  • 有価証券85.6兆円(前年比▲4.1兆円)
  • うち国債24.9兆円(前年比▲2.6兆円)
  • 預金340.6兆 (前年比+4.8兆円)

 

<2017年度信金(単体)バランスシート>

  • 貸出金70.7兆円(前年比+1.8兆円)
  • 有価証券42.4兆円(前年比▲0.0兆円)
  • うち国債7.7兆円(前年比▲0.9兆円)
  • 預金140.4兆円(前年比+3.1%)

 

<筆者コメント>
バランスシートにおけるポイントは、信金の預金が貸出に回っている割合です。

信金は、地銀と比べても預金が有価証券に投資されている割合が高いのです。

また、信金は、有価証券に占める国債の割合が地銀比で小さいことも特徴です。

おそらく、信金の有価証券には、様々な運用商品が含まれているものと想定されます。(残念ながら、当該レポートては信金の有価証券の内訳までは判明しません)

これが信金の決算におけるポイントといえます。

 

信金決算における日銀コメント

以下が信金の決算における日銀のコメント抜粋です。
このコメントから信金の決算状況のイメージがつかめるかもしれません。

(1)資金利益
資金利益は、貸出利鞘縮小の影響が貸出残高の増加効果を上回るもとで、減少が
続いた。

(2)貸出利鞘等
①貸出利鞘
貸出利鞘は、貸出利回りの低下から引き続き縮小した。個別信用金庫毎の貸出利鞘の分布も、全体として、縮小方向へのシフトが続いた。
②貸出利率別の貸出残
貸出利率別の貸出残高の推移をみると、低金利ゾーンでの貸出残高の増加が続いた。

(3)有価証券利鞘等
有価証券利鞘は、利回りの相対的に高い投信や外国証券の残高増加が拡大方向に
寄与したものの、ポートフォリオに占めるウエイトが高い国内債の利回り低下が縮小方向に寄与したことから、全体として横ばい圏内で推移した。

(4)非資金利益
非資金利益は、投信や保険の販売が低調であったことから、減少した。


所見

地銀と信金の業績・バランスシートを比較するのは業態の存続可能性を考えていく上で有用です。

現時点では、信金は、地銀に比べて有価証券の割合が高くなっています。これは、低金利かつ金利が上昇していく局面では、地銀以上に厳しい資産内容である可能性が高いと言えます。債権は金利が上昇すると下落するためです。

また、信金は非資金利益の割合も小さくなっています。これは、貸出の利鞘が縮小していく局面においては、更にマイナスの影響を受けます。手数料収入は基本的に低金利の影響を受けにくいからです。

新聞等では地銀の持続可能性が厳しいとの報道が目立ちます。

これは、信金に比べると情報開示が良いから報道しやすいのです。

実際には信金の方が、概要を見ただけでも、決算上は厳しいことが見て取れます。

信金についても統合等が相次ぐ可能性は十分にあるのではないでしょうか。