銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行はコロナ禍の中で取引先をきちんと支援しているのか?

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日本銀行(日銀)が発表した2020年7月の貸出・預金動向を見ると全国の銀行の貸出平均残高は急増しています。

今回は銀行の貸出残高の動向を確認することによって、コロナ禍の中で銀行が果たしている役割について確認してみましょう。

 

日銀貸出・預金動向

日銀が発表した2020年7月の貸出・預金動向(速報)によると、全国の銀行(都市銀行、地方銀行、第二地方銀行)の貸出平均残高は前年同月比6.4%増の499兆円(兆円未満は四捨五入、以下同じ)でした。

業態別では(第一)地銀が前年同月比4.9%増、第二地銀が同6.3%増となり、地銀・第二地銀合計で同5.1%増の264兆円と、1991年7月以来の高い伸び率(日経新聞)とされています。信金も同6.2%増と貸出を大幅に伸ばしました。

尚、都市銀行は同7.8%増の235兆円となっており、以下の図表の通り2020年6月からは伸び率が縮小しています。

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(出所 日本銀行「貸出・預金動向 速報(2020年7月)」)

では、この貸出動向についてもう少し詳しく見ていきましょう。

 

銀行貸出残高変動要因

では、銀行の貸出残高の変動についてもう少し詳しく見ていきましょう。

以下はニッセイ基礎研究所のWebサイトからの引用です。

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(出所 ニッセイ基礎研究所Webサイト https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=65149?site=nli

8月11日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、7月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比6.37%と前月(同6.49%)からやや縮小した(図表1)。貸出残高の前年差も29.9兆円増と、6月の30.3兆円増から若干縮小している。ただし、伸び率はデータが開示されている1992年7月以降2番目の高水準を維持しており、リーマンショック後と比べてもかなり高い水準で推移している(図表2)。

これまで、新型コロナウイルス拡大に伴う経済活動の縮小に伴って企業の資金繰りが逼迫し、資金を確保する動きが急速に広がったうえ、5月からは政府の経済対策の一環として、民間金融機関での無利子・無担保融資制度が開始し、日銀も同制度のバックファイナンスなど新たな資金供給制度(新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペ)を設けて貸出を後押ししてきたことが貸出の伸び率を押し上げてきた。

一方で大企業では、前倒しの資金調達によって当面の資金繰りにメドが着いた企業も増えてきたため、伸び率の上昇が一服したと推察される。

現に、業態別に見ると、大企業向け融資に強みを持つ都銀の貸出伸び率が前年比7.79%(前月は8.58%)と明確に縮小する一方で、地銀(第2地銀を含む)では同5.15%(前月は4.68%)と引き続き伸び率が拡大している(図表3)。

中小企業向けの割合が高い地銀では経済対策の一環で実施している無利子・無担保融資の利用拡大が伸び率拡大に寄与しているとみられる。実際、同融資のバックファイナンスなどに充てられる日銀の新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペの残高は7月の間に6.3兆円増加している。

(出所 ニッセイ基礎研究所Webサイト)

以上の通り、都市銀行が主に取引を行う大企業の資金需要は一服してきたものと推測されます。

そして、現在は中小企業向けの貸出の対応を地銀や信金等が実施しているのです。

リーマンショック後の貸出残高の増加傾向と比べてもコロナ禍の中の貸出残高の伸びは高く、銀行は(政府・日銀の支援策があるからですが)しっかりと資金繰り支援をしていることが分かります。

 

所見

以上、簡単に銀行の貸出動向を見てきましたが、銀行はコロナ禍の中で取引先を可能な限り支援していると筆者は考えます。

しかし一方で、特に中小企業向けの貸出は経済対策の一環で実施されている無利子・無担保融資の利用拡大によるものと推測でき、地銀が積極的にリスクを取っているとまでは言えないものと思います。

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(出所 日本銀行「貸出・預金動向 速報(2020年7月)」)

尚、上図表の通り、2020年7月の譲渡性預金を含む預金平均残高は、3業態合計(都銀、地銀、第二地銀)で前年同月比8.3%増の786兆円あり、伸び率は統計開始以来最高(日経新聞)とされています。

中小企業向け貸し出しの割合が大きい地銀や第二地銀で法人預金が伸びたほか、政府による1人10万円の特別定額給付金の支給で個人預金も増えたことが要因とされています。

この預金動向だけを見ると、日本全体としては銀行貸出が増加している一方で、その貸出や政府からの支援金等はほとんど預金に回っていることが想定されます。

すなわち、現状ではコロナ禍による資金繰り防衛策としての銀行借入調達が主であると考えられるのです(もちろん個々の企業や個人では実際に資金が必要な企業が多々存在することも事実でしょうが)。

8月以降もコロナの影響は収まらず、飲食、小売を中心に厳しい企業業績が続く可能性は高いものと思われます。今後が本当の意味で企業の資金繰りを支える銀行の出番と言えるのかもしれません。