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SMBC信託の「高級車信託」に対する考察

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三井住友FG傘下のSMBC信託が面白い商品をリリースすると報道されています。

スパーカーやクラシックカーなどの希少・高級な自動車を対象とする「高級車」信託です。

今回はこの高級車信託について考察しましょう。

 

報道内容

まず、報道されている内容を確認しましょう。 

SMBC信託銀が「高級車信託」
2019.1.11 産経新聞
 三井住友フィナンシャルグループ傘下のSMBC信託銀行が、スーパーカーやクラシックカーなど数千万~数億円の希少車や高級車を対象とする「高級車信託」を始めることが11日、分かった。高級車を預かり、保管やメンテナンスから次世代への承継まで手がける。相談は随時受け付け、手数料は個別に設定される。高級車を信託財産とするサービスは国内の金融機関で初めてとみられる。超富裕層との取引拡大が狙いだ。

 想定する顧客は高級車を複数台所有するような超富裕層。車を管理しきれなくなった人や、家族に残したい人、家族に知識や興味がなく価値を知る第三者に譲渡したい人を取り込む。高級車オークションの企画・運営などを手がけるBHJ(東京)が車を管理し、当局から許可を取り次第、オークションなどでの売却も行う。

 高級車オーナーは金銭や株式よりも車へのこだわりが強い人も多く、SMBC信託は、愛車を通じてオーナーとの関係を強め、別の取引につなげるきっかけ作りとしたい考え。承継を通して家族ごと囲い込む。愛好家間の口コミの広がりにも期待する。

 高級車コレクター向けのオークションは欧米を中心に年に数十回、2千台以上が出品されており、1千億円規模のマーケットだ。日本でもコレクターは多数いることから、承継ニーズは今後も拡大していくとみられる。

 SMBC信託はこのほか、美術品を信託財産として預かるサービスを開発し平成29年12月に最初の取引をした。

これが報道されている高級車信託の概要です。

ここで留意しなければならないのは、この信託の対象となる高級車はメルセデスベンツやBMWのような高級車を示しているのではなく、より生産台数の少ない希少な自動車が対象となる可能性が高いということでしょう。消費財ではない自動車が対象なのです。

 

信託という商品性

SMBC信託が取り扱う、高級車信託や以前にリリースした美術品信託は企業オーナーや富裕層との取引拡大には非常に有用となる可能性があります。

SMBC信託はシティバンクの個人金融部門を引き継いだこともあり、富裕層顧客が多いと想定されます。

高級車や美術品を受け継ぐ企業や相続人からすると、収集者(企業オーナー・被相続人等)の高級車や美術品への思い入れが強かったと記憶していること、高級車・美術品の売買に習熟している人物が周囲にいないこと等もあり、単純に高級車・美術品を外部の第三者に売却するのは難しいと感じるでしょう。

また高級車や美術品は、預金や債券・株式のように運用して収益を生むようなモノではありません。一方で、保管・メンテナンスに手間がかかること等から他者に管理を委ねたいとの考え方も出てくるでしょう。そのため、高級車等を信託銀行に預けるというニーズは相応にありそうです。強いて言えば、高級車信託は、受託対象資産は貴金属を受け入れる信託(例:純金上場信託)に近く、管理機能のみならず処分機能を相応に持つオーダーメードに近い商品性と言えるでしょう。

一般の金融機関とは差別化が図られることからSMBCグループとしては企業、富裕層との取引の面白い切口になるものと想定されます。

 

高級車マーケットの現状

今回の高級車信託の対象となっている高級車は、一般に道路を走っているメルセデスベンツ、BMW、レクサス等の「量産」高級車とは異なります。

最も分かりやすいのはフェラーリでしょう。

以下はフェラーリの価格推移の一例です。

<フェラーリ250GTO SeriesⅠ価格推移>

《HAGERTY情報》 2018年6月時点

※出典 Heritage Collections

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フェラーリ250GTOは、2014年を頂点に取引価格がうなぎ登りで上昇しました。その後は緩やかに価格は落ち着きを見せていますが、それでも歴代最高価格を持つモデルとして天文学的な価格を保っています。

このように高級車・クラシックカーマーケットに資金が流入し、価格高騰が続いてきたというのが現状です。

直近のオークションでは以下のような車種が取引されています。参考となるでしょう。

オークション最高額はフェラーリ F40、1億2100万円…東京オートサロン2019

2019年1月13日 レスポンス

 東京オートサロン2019の初日の11日、BHJは「第2回東京オートサロン・オークション with BH Auction」を開催した。最高落札額は1990 年式フェラーリ『F40』で、1億2100万円で落札された。最終落札価格には手数料として、会場落札表示価格の10%が含まれる。
「東京オートサロン・オークション with BH Auction」は2回目の開催で、前回の出品車両台数16台を大きく上回る、50台が出品された。日産『スカイラインGT-R』の誕生50周年を記念して第1世代、 第2世代のスカイラインGT-Rが計10台出品されるほか、国産・輸入ヒストリックカー、レースカー、チューニングカーなどが出品された。
落札成立車両は計17台、落札不成立車両のうち11台は商談中だ。また1台に不備が確認されたため、出品が中止された。最終落札価格の合計は3億0338万円となった。

高額落札価格車は下記の通り。
1:1990年式フェラーリF40 1億2100万円
2:2002年式日産スカイラインGT-R(BNR34)V-SPEC II Nur 2420万円
3:1987年式フェラーリ・テスタロッサKOENIG SPECIALS 3135万円
4:1987式フェラーリ328GTB 2090万円
5:1972年式日産スカイライン2000GT-R(KPGC10) 1760万円

例えば、今回最高価格で落札されているフェラーリF40は、フェラーリ社の40周年モデルということで、現在も世界中で非常に人気のあるコレクタブルカーです。このモデルが発表された約1年後の1988年8月14日にフェラーリ社の創設者エンツォ・フェラーリが死去した為、フェラーリF40はエンツォ・フェラーリ自らが発案し、生産に関わった最後のモデルとしてフェラリスタの中で特別な存在となっています。フェラーリF40は1987年から1992年にかけて1,315台が生産されています。世界に存在する台数が少なく・かつ限定されていることが希少性につながっているのです。

 

所見

高級車・クラシックカーのマーケットは上記日経新聞記事でも1,000億円程度されているように、資産運用の規模では非常に小さいマーケットでしかありません。

そのため、資産運用商品として大々的に売り出せるような信託商品ではなく、単体の商品としては全く収益が上がらない商品かもしれません。

しかし、企業・富裕層には間違いなく高級車を管理・保存したいニーズはあるのです。そして他の金融機関が扱っていない以上、顧客への接点拡大となり、他取引の獲得が狙えるでしょう。このようなニッチな商品は非常に面白いと思いますし、商品・サービスでの差異化があまり図られていない日本の金融機関の中では、営業の良い武器にもなります。

美術品信託に続くSMBCグループの取り組みは非常に面白いと思います。 

本来、メガバンクが信託銀行を傘下に収めていく中で、このようなオーダー型の商品がもっとリリースされると考えていたのですが、コストに見合わないということでマス商品ばかりが作られてきた印象を筆者は持っています。

金融機関は差異化をしなければ生き残りづらい時代です。このようなニッチとは言えども顧客ニーズに立脚するサービスが様々にリリースされていくことが、既存の金融機関を延命させる一つの手ではないでしょうか。