日経新聞が地方銀行(地銀)の会計「装飾」について記事としています。
今回はこの問題について確認します。
報道内容
日経新聞は『会計「装飾」のからくり 地銀波乱(3)2019年1月16日』とあう記事を掲載しました。
ポイントは以下です。
- リパッケージローンが地銀でひそかに広がっている
- 複雑な金融商品が会計上は融資となり、決算の見栄えが良くなる
- 私募投信も解約時に出る利益が本業のもうけを示す「業務純益」(資金運用収益)となる
- 一方で、一般的な株式は臨時の株式関係損益と本業の外になり、含み損益を決算に反映させる必要もない
- 地銀が持つ投信残高はこの4年で3倍に膨れ、大手銀行を大きく上回る
以上が概要です。
私募投信の問題
リパッケージローンはまだ取り組み事例が少ないと思われますが、地銀の私募投信への傾斜は非常に大きな問題となる可能性があります。
以下は筆者の過去記事です。私募投信の問題、会計処理等についてご参照下さい。
所見
(この所見は過去記事を修正したものです)
筆者は銀行、特に地銀が私募投信に投資することをあまり良いとは考えていません。
上述の記事の通り、決算対策に使われる可能性があるからであり、純粋な銀行の収益力を評価出来なくなるからです。
一方で、地銀が貸出先がなく、集まってきた預金の運用に困っているのも事実です。地銀含めた銀行に私募投信への投資を禁止するのは営利企業である以上、論外でしょう。
この場合、どのようにすべきなのでしょうか。
筆者が考える解決策は単純です。
債券および投資信託(特に私募投信)への投資についての会計ルールを変えれば良いのです。
上述の過去記事の通り、日本では銀行会計において私募投信(プロ向けの投資信託)は「その他有価証券」に分類されます。
この「その他有価証券」は、評価(含み)損益を損益計算書には反映しなくて良いものです。
私募投信は売買益(解約益)等を本業の利益である「業務純益」に計上できます。株式の場合は、売買で儲かったとしても臨時損益(株式関係損益)となり、業務純益に通常は計上できません。
そのため、銀行にとってみれば株式を直接保有するよりは、私募投信の形にして同じ株式に投資した方が本業の収益が良いようにみえるのです。
すなわち、私募投信を常に時価評価を行い、それを銀行の損益計算書に反映することになれば、含み損の先送り等は許されなくなります。
もちろん、これは暴論です。今の実務・現状を無視している、銀行の損益状況を分かっていないと批判を受けるかもしれません。
しかし、もしかしたら、銀行は損益計算書(P/L)を中心とした期間損益による経営評価・思考回路から、貸借対照表(B/S)を中心に置いた時価評価を前提とした評価・経営に移行していかなければならない時期にあるのかもしれません。
私募投信に含み損が発生しても顕在化しない会計処理(損失の先送り)は、本質的には無意味であることは間違いありません。
そして、本質的に意味がないことは、大きな流れ・時間の中では解消されてきたのが常ではないでしょうか。
筆者は、事業法人についてはCFの流れを分析・評価上は重視します。金融機関についてはB/Sを重視しています。いずれにしろP/Lは参考にするだけです。
銀行は長らく「貸出金が基本的に簿価評価(≠時価評価)されること」を前提に業務を行ってきました。債務者区分等の査定により、貸出債権を疑似的に時価評価するようになったのは、銀行の長い歴史の中では最近といえます。
貸出金が簿価評価であり、債券投資でも基本的には簿価評価を前提としたような会計ルールであれば、当然にP/Lを重視とした評価・経営を行うことになります。
しかし、IFRS(国債会計基準)の概念等、世の中の流れはB/S重視、時価評価重視になってきました。
暴論ですが、日本の銀行に適用される会計ルールについても、考え方を整理する時期が来ているのかもしれません。
地銀は何とか私募投信への傾斜を減らした方が良いのではないでしょうか。本質的には無意味であり、商品を組成した金融機関を儲けさせるだけです。
そして、地銀は(大手行も同じですが)、銀行の本業とは何か、目指すべきビジネスモデルとは何か、強みは何か、について考えるしかありません。
私募投信への投資集中は、マーケット等のリスクを地銀が抱え込むことになります。これは、目指すべき地銀の姿とは言えないのではないでしょうか。