銀行員のための教科書

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日本学生支援機構の奨学金事業の不良債権はスルガ銀行並み

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日本学生支援機構の貸与型奨学金で借入額に応じた保証料の徴収が検討されています。

この背景にあるものは何でしょうか。学生が社会人になっても奨学金を返すことが出来ない理由はどのようなものでしょうか。親族による保証を廃止するということはどのような意味を持つのでしょう。非正規雇用の増加や賃金低下によるものなのでしょうか。

今回は日本学生支援機構が運営する奨学金事業について確認していきましょう。

 

報道内容

まずは報道されている内容を確認しましょう。概要が掴めるでしょう。

奨学金、学生から保証料 財務・文科省 月2000円想定
2019/01/09 日経新聞
 財務省と文部科学省は2020年春にも日本学生支援機構の貸与型奨学金の仕組みを見直す。長期の延滞が増えて制度を圧迫しているため、奨学金を借りるすべての学生から、借入額に応じて一定額を保証料として徴収する方向で検討に入った。保証人を求める制度はなくす。保証料で延滞を補えば制度は安定するが、学生の負担は増えることになる。
 支援機構によると、16年度には大学と短大に通う学生のうち38%が機構の奨学金を借りている。父母による連帯保証人と親族による保証人が必要な人的保証と、日本国際教育支援協会(東京・目黒)による機関保証のいずれかを選ぶ。
 人的保証は55%を占めるが、17年度は2万件以上の督促対象のうち強制執行で回収できたのは175件だけだ。少子化で兄弟の少ない両親も多く、保証人探しも難しい。
 このため親族による保証は廃止する方向で検討する。延滞時に保証機関が代位弁済する仕組みに一本化すれば、支援機構は確実に資金を回収できる。新規に申し込む学生を対象に、支給額から保証料を天引きする方式を想定する。今は月額5万4千円の標準的な支給額での保証料が2千円程度で、これが目安になる。
 財務省は給付型奨学金を拡充し低所得世帯向けに高等教育の無償化を実施する20年春に合わせ、保証の仕組みを変えることをめざす。ただ親族がかかわらない制度では延滞が増えるとの懸念もある。保証料率の引き上げが必要になれば、学生の負担が一段と膨らむ。
 支援機構は16年度の実績で131万人に約1兆円を貸し出した。国内の奨学金の9割をカバーし、大学の学部生1人あたり、有利子の場合で平均約343万円を貸している。卒業後の返済が滞っている延滞金は17年度に有利子分で約500億円と、07年度の2.7倍になった。このうち64%は5年以上の長期延滞となっている。

以上が報道内容です。

では、奨学金事業の状況につきもう少し詳しく見ていきましょう。

 

日本学生支援機構による奨学金事業の状況

日本学生支援機構のIR資料によると、日本の高等教育機関で学ぶ学生348万人のうち、129万人(37.2%)が当機構の奨学金を利用しています。学生の「2.7人に1人」が当機構の奨学金を利用していることになります。

この要因としては、親の平均給与が年々減少する一方で、「授業料」及び「入学料」は国立大学、私立大学とも高止まりしており、家庭から学生への「給付」が年々減少していることが挙げられます。そのため、学生の収入に占める「奨学金」の割合が増加しているのが実情です。

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奨学金事業の貸与残高は、少子化の中でも増加してきました。

進学率の上昇と親の給与水準の低下により希望者が増加したことが要因です。

さらに、基準を満たす希望者全員に対して奨学金を貸与することを目的として、1999年4月に第二種奨学金制度(有利子)の抜本的拡充が行われ、従来の第二種奨学金の採用基準よりも緩和された結果、1999年度以降の貸与人員は飛躍的に増加しています。

現在は、学生の負担軽減の観点から、「有利子から無利子へ」との方針のもと、無利子奨学金の充実に努めてきています。(政治的な流れです)

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貸与金残高は年々増加しており、2015年度は89,232億円、2016年度は91,793億円、2017年度は93,743億円となっています。

日本学生支援機構が発足した2004年度実績では、貸与人員(貸与を受けた人数)93万人、貸与金額6,599億円でした。 2018年度の計画では、貸与人員130万、貸与金額10,373億円ですので、規模が拡大されてきたことが分かります。

2017年度末の貸与金額(貸付債権)の残高は、第一種奨学金(無利子)および第二種奨学金(有利子)合算で93,743億円(第一種奨学金27,521億円、第二種奨学金6兆6,221億円)となっています。このうち、要返還債権額(貸付債権の総額から現在貸与中の奨学生及び返還免除予定者に係る債権を除いたもの)は70,498億円(第一種奨学金19,298億円、第二種奨学金51,201億円)です。
この要返還債権額をベースとすると、2017年度末における延滞3ヶ月以上の延滞債権額は、2,398億円(要返還債権額に対して3.4%)となっており、このうち6ヶ月以上の延滞債権額は、1,811億円(同2.6%)となっています。

民間金融機関の基準に準じたリスク管理債権額は、5,940億円(第一種奨学金1,513億円、第二種奨学金4,427億円)です。この債権額は要返還債権額に対して8.4%となります。

2018年9月末時点のスルガ銀行のリスク管理債権の比率(総与信残高に占める割合)は8.9%です。投資用不動産融資で問題になり、大幅な不良債権処理を行っているスルガ銀行とあまり変わらない水準なのです。

過去の回収率から比べると足元は改善が見られますが、特に延滞分の回収は課題となっています。

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なお、93,743億円(2017年度)の貸与金額残高に対して、破産再生更正債権等(いわゆる回収の見込みがない債権)は996億円となっています。

 

所見

日本学生支援機構の奨学金事業は、日本国憲法(第26条)、教育基本法(第4条第3項)に基づき、政府が責任をもって積極的かつ確実に取り組むべき重要な教育施策であり、経済的理由により修学に困難がある優れた学生等に対し、教育の機会均等及び人材の育成の観点から実施されている重要なものです。
一方で、奨学金事業は、①限られた財源の中で、奨学金を希望する学生を幅広く対象とする必要があることや、②返還を通じて学生の自立心や自己責任、さらには社会への貢献・還元の意識の涵養等の教育的効果も勘案し、制度創設以来、貸与制で実施されています(文部科学省)。

筆者は奨学金事業は非常に意義のあるものであり、貸与制であることも重要だと考えます。

人は権利の上では平等ですが、置かれている経済環境の違い等により、実際には機会平等とも言えません。

それを乗り越えるために貸与を受けるというのも選択肢としてあって良いと思うのです。

奨学金事業については、様々な意見がありますが、問題なのは奨学金事業よりも、奨学金を受けた学生が社会人になった時に返済が出来ない経済状況になってしまうということです。

高等教育を受けたのに、リターンが感じられないということが問題なのです。これは政府の経済・労働政策の範疇でしょう。

奨学金事業については、その制度の持続性を担保するためにも保証機関を使う方式に集約することは必要なのではないでしょうか。