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スルガ銀行の2021年4~6月決算で鮮明になった2つの問題

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シェアハウス融資で大きな影響を受けているスルガ銀行が2021年4~6月期の決算を発表しました。

シェアハウス融資では、借入人であるオーナーとの間の和解が成立し、実質的な借金の棒引きを行っているスルガ銀行の業績はどのような状況にあるのでしょうか。また、コロナ禍における影響はないのでしょうか。

今回はスルガ銀行の直近の決算状況について確認していきたいと思います。

 

損益概要

スルガ銀行がの2021年4~6月期連結決算は、貸出金利息の減少に伴う資金運用収益の減少等で、一般企業の連結売上高に近い概念の経常収益が前年同期比6.2%減の234億円となりました。一方、貸倒引当金繰入額の減少等により、経常利益は約3.5倍の34億円、純利益は約5倍の25億円となり、2年ぶりに増益に転じています。

そして、単体決算では、一般企業の売上高に相当する単体の業務粗利益は9.6%減の166億円、本業の収益力を示す業務純益は6.3%増の134億円でした。

減収要因は主に貸出残高の減少に伴うものですが、業務純益の増益要因は、前年同期がコロナ影響による予想損失率を保守的に見積もっていた一方で、今期はやや落ち着きを取り戻したことから貸倒引当金繰入額を含めた経常費用(=コスト)を16.9%減の199億円に圧縮したことが主要因と説明されています。

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(出所 スルガ銀行「2022年3月期第1四半期 決算概況」)

 

貸出動向

貸出金残高(期中平均)は7.3%減の2兆2,943億円となりました。

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(出所 スルガ銀行「2022年3月期第1四半期 決算概況」)

シェアハウス融資問題が発生してから、1兆円近くの貸出残高が減少し、結果として貸出残高は3分の1減少しています。

それでも貸出金利回りが高止まりしているのは、無理をして貸し出しを行っていないからだと想定されます。

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(出所 スルガ銀行「2022年3月期第1四半期 決算概況」)

個人ローンの新規実行額は前年同期からほぼ倍増したものの、72億円増にとどまっています。

全体では、2022年3月期通期の新規実行計画1,200億円に対し、期初計画水準の194億円の新規ローンを実行したと説明されていますが、194÷1,200=16%となり、3ヵ月間の水準としては物足りない(通常だと年間の4分の1=25%となっていてもおかしくない)レベルでしょう。

 

貸出債権の内容

次にコロナ禍において貸出債権の内容はどのようになっているのでしょうか。延滞が増えていたりしないものでしょうか。

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(出所 スルガ銀行「2022年3月期第1四半期 決算概況」)

個人ローンを見ると延滞率が上昇していることが分かります。

この個人ローン延滞率の上昇(前期末比+0.48%)は、シェアハウス関連融資先の債権一括譲渡希望に伴う返済停止債権の増加が主因とされています。シェアハウスローンを延滞中の借入人が、他のローンも延滞していることが個人ローン全体の延滞率を押し上げている一因ということになります。

シェアハウス関連融資先を除く、個人ローン全体の延滞率は2.1%で前期末比微減となっています。

スルガ銀行は、中小企業向け貸出をほとんど行っておらず、主に個人向け不動産融資に経営資源を集中させてきたため、コロナ禍の影響を良い意味でも悪い意味でもほとんど受けていないことが分かります。

金融再生法ベースの不良債権額(単体)は3,200億円となり、前年同期末比で442億円減少しています。不良債権比率も0.76ポイント低下しています。

 

所見

スルガ銀行の2021年4~6月期(2022年3月期1Q)決算は、貸出残高の減少に伴い減収となったものの、不良債権処理費用が前年同期に比べて少なかったことから増益となっています。シェアハウスローン問題があったとしても、スルガ銀行は黒字決算なのです。

ただし、2021年4~6月期決算では、2つの問題が鮮明になりました。

まず一つは、貸出残高をどのように反転させていくかです。このまま貸出残高が減少し続けると企業として存続が難しくなります。スルガ銀行は個人特化の銀行です。個人に対して不動産担保ローンを融資していくしかないでしょう。これをどのように行うか(商品性、対象等)については、もう少し試行錯誤が続くのかもしれません。

もう一つの問題は、シェアハウスローン以外の収益不動産を対象した融資(一棟収益ローン等)です。

スルガ銀行から不正融資を受けたとするアパート・マンション購入者の救済を目指す被害弁護団は2021年8月末までに総額約740億円の損害賠償をスルガ銀行に請求する意向を示したと報道されています。

この請求が行われる過程では、シェアハウスローン以外の融資も延滞率が上昇していくことが想定されます。シェアハウスローンでは貸し手責任を認めたスルガ銀行がどのように弁護団と対峙していくのかが、今後のスルガ銀行に決定的な影響を与えることになりそうです。

まだまだスルガ銀行の決算には注目が集まり続けるでしょう。