大手銀行で業務効率化で生まれた支店等の空きスペースを活用する動きが始まっていると報道されています。
この報道がピックアップされているニュースサイトの書き込みには、銀行の空きスペースは、同系列の財閥企業へ貸し出す、もしくはコワーキングスペースやフリースペースとして顧客や他企業に貸し出すべきではないかとの意見がありました。
今回は、銀行の空きスペースの活用を妨げている規制について考察しましょう。
報道内容
まずは報道内容を確認しましょう。以下はNHKニュース(ネット)の引用です。
大手銀行 空きスペースで別店舗の業務 働き方改革につながるか
2019年1月5日 NHKニュース大手銀行の間で、業務の効率化で生まれた支店などの空きスペースを、サテライトオフィスとして別の店舗の社員が活用する取り組みが始まっていて、仕事と育児の両立など、働き方改革にどこまでつながるか注目されそうです。
りそなグループは、自宅に近い店舗など、本来の勤務先ではない支店の空きスペースで働ける制度を今年度から試験的に始めています。このうち、都内にあるりそな銀行吉祥寺支店では、別の支店の女性社員が週に1回程度、近くの保育園に子どもを預けたあと出勤し、書類の作成などにあたっています。
この社員は「離れた場所でもできる仕事はあるので、自宅近くで働けるのはありがたいです」と話していました。
銀行では、今後、対象とする支店や業務の範囲を検討し、ことし夏ごろをめどに本格的に導入する計画です。
りそな銀行営業サポート統括部の村木淳さんは「育児中の女性社員の声から検討を進めてきたもので、空きスペースの活用もでき一石二鳥の施策だ」と話していました。
大手銀行では、三井住友銀行も、すでに東京と神奈川の3つの支店の空きスペースで本店の社員が働ける仕組みを試験導入しています。
厳しい情報管理が求められる銀行は、これまで別の店舗での業務を認めることに慎重でしたが、書類の電子化が進んだことも導入を後押ししていて、働き方改革にどこまでつながるか注目されそうです。
このようなサテライト型のオフィス使用は、大手行のみならず様々な銀行で増えていくことは容易に想像できます。
例えば、行員の営業時間を効率的に捻出するために、出張先(例えば東京→大阪)のオフィスで東京で勤務しているのと同じPC環境で業務を行うことが考えられます。このような端末に依存しない(=クラウド型)の社内システムの構築は情報管理の観点からも、様々な銀行で既に進んでいるところもあるでしょう。
今回の記事のような事例はこれから増加していくこと自体は間違いありません。支店業務をサテライトオフィスで対応していくポイントは伝票、書類の電子化となるでしょう。お客様から提出頂く書類が電子データとなるのであれば、ハードルが格段に低くなります。
しかし、このようなサテライト型のオフィス使用は、空きスペースの有効活用にはなりますが、根本的な解決にはなりません。空きスペースを活用すれば、他の支店等のスペースが余ります。このスペースをどうにかしなければなりません。
そこで、誰もが思いつくのが、「空いたスペースを外部に賃貸できれば銀行は更なる収益を得ることができる」という指摘です。
この点について、以下で確認していきましょう。
不動産賃貸への規制
銀行の店舗等にかかる空きスペースの外部賃貸については、全国地方銀行協会(地銀協)が内閣府に提出した規制改革要望に問題点が述べられています。以下、地銀協の要望の該当部分を抜粋します。
2018年度の規制改革要望
2018年9月12日
一般社団法人全国地方銀行協会
【要望項目】
4.銀行の保有不動産の賃貸の柔軟化【要望内容 ・要望理由】
銀行の保有不動産を、地域の事業者等に自由に賃貸できるよう、監督指針を見直す。○銀行がIT技術等を活用しながら業務効率化を進めているため、保有不動産の余剰スペースが増加しており、今後さらに増加する方向にある。こうした中、銀行は、賃貸による余剰スペースの有効活用を検討している。
○例えば、次のようなケースである。
店舗の統廃合等により、事業に使用しなくなった土地・建物を賃貸する。
店舗の移設・新設、改築等に際し、事業に必要とされるものより広い建物を作り、事業に使用しないスペースを賃貸する。
店舗の駐車場等を賃貸する。
ホール、社宅等の福利厚生施設を賃貸する。○銀行の保有不動産は、駅前や繁華街等の好立地に所在し、建物も頑健で駐車場を併設していることが多いなど、立地・ハードの両面で優れた特性を有している。このため、地域の事業者等から、銀行の保有不動産を賃借したいとのニーズが寄せられている。また、建設業者や設計会社等から、銀行店舗等の建替えに際して、高層化のうえ外部に賃貸することにより、地域活性化の観点から土地の有効活用を図るべきであるとの提案を受けることも多い。
○しかし、銀行が保有不動産を賃貸する場合、金融庁の監督指針上の要件(やむを得ず賃貸等を行うこと、経費支出が必要最低限にとどまること、賃貸規模が過大でないこと等)を満たしていることを自ら挙証しなければならない。このため、殆どの銀行が賃貸を躊躇しており、上記のようなニーズや提案に応えられないのが実情である。
○監督指針の見直しにより、医療、福祉、教育、商業など、地域の生活インフラに係る事業者等に対し、銀行が保有不動産を自由に賃貸することが可能となれば、地域活性化の促進、にぎわいの創出に大いに貢献できると考えられる。
○また、人口減少や超低金利環境の長期化等によって地方銀行の収益環境が厳しい中、保有不動産の減損の可能性を検討しなければならない状況が生じている。自由に賃貸することが可能となれば、保有不動産の経済価値が上がり、減損を回避できる可能性が高まるほか、銀行の収益性改善の一助となると考えられる。
【現行規制の根拠】
銀行法第 10 条第2項、第 12 条
中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針Ⅲ-4-2(4)(注1)~(注3)
これが地銀協の要望事項でした。
銀行は銀行法12条により他業が禁止されています。
この法律の趣旨は、資金力がある銀行が強力な金融力を背景として一般事業に進出した場合、公正な競争が阻害されるおそれがあること、すなわち銀行に産業界を支配させないようにすること等です(今は、銀行を異なる業種のリスクから切り離し健全性を維持することに主眼がおかれているようですが)。
この条項が今の時代に則しているかはともかく、銀行法の他業禁止により銀行は行うことができる業務の範囲が限定されているのです。
そして銀行の業務範囲については金融庁の監督指針で決められているところもあります。銀行の不動産賃貸についてはこの監督指針において制限がなされています。
以下では主要行等向けの監督指針から該当部分を抜粋します。
<主要行等向けの総合的な監督指針 平成29年6月>
V -3-2 「その他の付随業務」等の取扱い
(4)上記(1)から(3)までに定められている業務以外の業務(余剰能力の有効活用を目的として行う業務を含む。)が、「その他の付随業務」の範疇にあるかどうかの判断に当たっては、法第12条において他業が禁止されていることに十分留意し、以下のような観点を総合的に考慮した取扱いとなっているか。
当該業務が法第10条第1項各号及び第2項各号に掲げる業務に準ずるか。
当該業務の規模が、その業務が付随する固有業務の規模に比して過大なものとなっていないか。
当該業務について、銀行業務との機能的な親近性やリスクの同質性が認められるか。
銀行が固有業務を遂行する中で正当に生じた余剰能力の活用に資するか。(注1)銀行グループの効率的かつ合理的な業務運営を目的として、事業用不動産の賃貸等をグループ会社に対して行う場合(当該グループ会社自身が使用する場合に限る。)は、「その他の付随業務」の範疇にあると考えられる。
なお、上記目的に照らし、銀行グループの範囲は、V-1(2)に規定する範囲に限定され、銀行持株会社又は銀行の企業会計上の連結基準と整合的な取扱いとなっている必要があることに留意すること。(注2) 上記規定を総合的に考慮するに当たり、例えば、グループ会社以外の者に対し事業用不動産の賃貸等を行わざるを得なくなった場合においては、以下のような要件が満たされていることについて、銀行自らが十分挙証できるよう態勢整備を図る必要があることに留意すること。なお、国や地方自治体のほか、地域のニーズや実情等を踏まえ公共的な役割を有していると考えられる主体からの要請に伴い賃貸等を行う場合は、地方創生や中心市街地活性化の観点から、二.については要請内容等を踏まえて判断しても差し支えない。
イ.行内的に業務としての積極的な推進態勢がとられていないこと。
ロ.全行的な規模での実施や特定の管理業者との間における組織的な実施が行われていないこと。
ハ.当該不動産に対する経費支出が必要最低限の改装や修繕程度にとどまること。ただし、公的な再開発事業や地方自治体等からの要請に伴う建替え及び新設等の場合においては、必要最低限の経費支出にとどまっていること
二.賃貸等の規模が、当該不動産を利用して行われる固有業務の規模に比較して過大なものとなっていないこと。
※ 賃貸等の規模については、賃料収入、経費支出及び賃貸面積等を総合的に勘案して判断する(一の項目の状況のみをもって機械的に判断する必要はないものとする。)。(注3) リストラにより、事業用不動産であったものが業務の用に供されなくなったことに伴い、短期の売却等処分が困難なことから、将来の売却等を想定して一時的に賃貸等を行わざるを得なくなった場合においては、上記(注2)を準用すること(ただし、ハ.のただし書及び二.を除く。)。
なお、国や地方自治体のほか、地域のニーズや実情等を踏まえ公共的な役割を有していると考えられる主体からの要請に伴い賃貸等を行う場合は、地方創生や中心市街地活性化の観点から、賃貸等の期間については、要請内容等を踏まえて判断しても差し支えない。
この指針を見れば分かるように、銀行は積極的に外部へ店舗の空きスペースを賃貸できないのです。修繕も必要最低限としなければならず、その店舗で行われている銀行業務に比して過大ではない賃貸の規模とされています。これでは、閉鎖した店舗を改装して第三者に賃貸することは無理でしょう。
これが銀行の置かれている状況なのです。
所見
銀行の店舗は、来店客の減少、RPAや紙書類のデジタル化等により、スペースに余剰が出てくることは間違いありません。
また、銀行の収益が低下していることから、銀行は店舗不動産の減損リスクにさらされてもいます。
特に地方経済という観点では、好立地にある銀行の店舗が、異なる用途(例えば一階に商業店舗)に使われることになれば、駅前、商店街等の活性化に繋がることも期待出来ます。午後3時に一斉に閉まってしまう銀行の店舗は商店街の流れを途切れさせてしまいます。
また、銀行自体も来店客を減らす方向へ動いてきています。空中店舗(2階以上に店舗ること)を推進し、銀行の目印だった看板も減らしてきています。本当に用事がある顧客以外は窓口に来てほしくないのです。
従って、銀行の店舗は閉鎖されるところもあるでしょうし、空きスペースができるところもあります。そして、銀行自身も店舗の1階を回避したいと考えるようになっており、地域活性化の観点からは銀行が1階に店舗を構えていることは活力を削ぐのです。
以上より、筆者は銀行が自社が保有する不動産を第三者に賃貸するのは、銀行のみならず商店街や行政にとっても有効であると考えており、ぜひ規制緩和すべきと考えています。
この規制緩和がせめて地方で実現することを期待しています。