銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

元本確保型投資信託の人気はプロ不在の証し

f:id:naoto0211:20181112095609j:image

投資信託の販売が苦戦しているとされています。

この要因は様々ではあるでしょうが、金融庁の一連の指摘(毎月分配型の非効率性、運用実績に比した手数料の高さ、銀行の期末押し込み販売への懸念、回転売買への懸念等)から、銀行自体も販売を自粛している可能性が出てきています。

このような環境下、元本確保の投資信託が人気となっているとの報道がなされています。

今回は、この元本確保型の投資信託人気の背景について考察していきましょう。

 

報道内容

まずは、日経新聞の記事を確認しておきましょう。以下引用します。

逆風下の投信販売、「元本確保」がキーワードに
2018/11/09 日経速報ニュース

 投資信託販売の苦戦が続いている。2019年3月期に入ってから上場投資信託(ETF)を除いた公募株式投信の月間の販売額は2兆円の大台に一度も届いていない。そんな中、「元本確保」をうたう投信に人気が集まっている。相場の不透明感が高まっていることから、元本確保を打ち出すことで、個人投資家の安心感を誘う効果があるようだ。

■米ゴールドマンが元本を保証
 元本確保型の投信の代表例は大和証券やみずほ銀行が販売した「ゴールドマン・サックス社債/国際分散投資戦略ファンド」(アセットマネジメントOne)のシリーズだ。同投信は米ゴールドマン・サックスが発行した10年物の社債で運用し、10年後の償還まで保有すれば同社が投資家に円建てで元本を保証する仕組みになっている。こうした商品性が支持され、シリーズ3本合計の販売額は1300億円近くになった。

 販売金額の内訳を見ると約7割が新規資金での買い付けだった。また、販売額の6割を法人が占めており、「狙い通りの比率」(大和証券ファンドビジネス部)という。法人の内訳は地方銀行や信用金庫など地方金融機関がおよそ半分を占める。国債に投資してもほとんど収益を生まない相場環境で、国債の代替として同投信を買い求めたようだ。

 みずほ銀行でも同投信の第2弾が7~9月の販売額ランキングで2位に入った。同行は新規顧客の獲得を目指してこのファンドを採用した。金額ベースでおよそ半分が新規資金だったので、一定の効果があったといえる。法人の資金も販売額の2割程度を占めた。「主に事業法人の資金だが、学校法人や宗教法人の資金も一部入った」(同行個人コンサルティング推進部)。同投信の販売では、支店の法人担当者も加わり、法人部門と個人部門が連携して手掛けたという。

■手数料込みで元本確保の投信も
 SMBC信託銀行が9月に販売した外国籍投資信託の「レッド・アーク・グローバル・インベストメンツ(ケイマン)トラスト-償還時目標設定型ファンド1809」(シティグループ・ファースト・インベストメント・マネジメント・リミテッド)は、償還時まで保有すれば販売手数料の2.16%も含めて元本を確保する仕組みだ。

 同投信は信託期間が約4年9カ月で、米ドル建てと豪ドル建ての2コースある。同投信は安定運用部分と積極運用部分に分けて資産を運用し、安定運用部分で組み入れるゼロクーポン債(割引債)の償還額が投資元本の102.16%となっているのが特徴だ。

 手数料も含めて元本確保を目指す商品性は「商品を提案する若い担当者の販売を後押しする効果があった」(同行の橋詰貴志・商品企画部副部長)。同行は元本確保を打ち出した投信をこれまで3本扱ってきた。今回は積極運用部分で運用リスクを高め、期待リターンを高める商品性とした。こうした点は「ベテランの販売員の評判が高かった」(同)という。(R&I ファンド情報編集部)

これが直近の報道内容でした。

 

元本確保型投資信託とは

元本確保とはどのような意味でしょうか。

投資信託における元本確保とは、「元本を下回らない仕組みの運用をすること」です。そもそも投資信託には「元本保証」はありません。

元本確保型と同じような用語で「元本保証」の金融商品というものもあります。一般的には以下の商品を指すことが多いでしょう。

・定期預金
・貯蓄型保険

上記のような元本保証商品は、元本を返還すべき法人が返還できない場合に、国や地方自治体など信用の高い機関が代わって返還する義務を負っている商品です(ある程度ですが)。

その代わり、金融商品として利回りは非常に低く抑えられます。また、解約に対するペナルティ等流動性も制限されるのです。

リスクと利回りは表裏の関係と言えます。二律背反なのです。

元本確保も同じようなことが言えます。

元本確保型投資信託は、安定運用部分と積極運用部分に分けて資産を運用し、安定運用部分で組み入れる金融商品で元本確保を目指します。

商品イメージとしては、以下となります。

  • 10年間で合計20%の利息が得られる債券があるとします。投資信託全体の90%をこの債券に投資すると10年後には当初元本(投資信託全体)の118%になります。
  • 当初元本の残りである10%部分はある程度積極的なリスクのある運用に回して運用します。
  • 債券投資で得られる見込みの+18%部分を損失で割り込みそうになったら、積極運用部分をリスクのない運用に切り替えます。
  • そうすれば、全体として元本確保は可能です。

元本確保型の投資信託は一般的には上記のような仕組みとなっています。

これは分解すると、安定的な運用(通常は債券)と積極的な運用(株式等)を組み合わせただけです。

複雑な商品としたことにより、運用会社や販売会社に高い手数料を取られることになるのです。さらに、通常は解約に制限が課されます。

ある程度の資金があり、金融知識があるのならば、別々に商品を買えば良いのです。その方が、手数料も低く、流動性も得られるでしょう。

 

所見

このような元本確保型の商品は、投資家にとって「お得」なのでしょうか。

確かに日本の金利水準を考えると貴重な商品のように見えます。しかし、元本確保型の商品が販売されるということは、投資家以外の誰かにニーズがあるからこそ商品が作られるのです。

上述の記事にあるゴールドマン・サックスの社債について言えば、ゴールドマン・サックスは元本確保を約束する代わりに、安い調達コストで資金を調達することになります。例えば、普通の社債ならば年1%(この金利は仮定です)の利息を払わなければならないところを年0.3%程度の利払いですむように設計されているのです。そしてゴールドマン・サックスは安く調達した資金を使って、リスクを限定した投資によって収益確保を狙うことになります。

本来、投資に「元本確保」はあり得ません。元本確保があるならば、誰かが見えないところで「得をしている」のです。

これが、金融における冷徹なまでの事実です。

記事にあるように、元本確保型の商品は銀行員にとっても売りやすいのでしょう。元本確保と言えばお客様も安心します。

しかし、投資家も販売担当(銀行員)も、元本確保型の投資信託には、余計なコストやリスクがあることを認識すべきです。

日本で元本確保型の投資信託が流行するということは、金融知識が乏しいこと、金融のプロが少ないことを意味すると、筆者は認識しています。