銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

これでもメガバンクから投資信託を買いますか?

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日本の投資家が購入している投資信託が、運用歴の長い商品にシフトしてきていると報道されています。

金融業界の販売姿勢が変わってきたことが主因と思われますが、金融業界自らが変わったというよりは、金融庁の指摘・圧力によって変わりつつあるという方が正しいと言えるでしょう。

今回は、日本の金融機関の中でもメガバンクの運用商品販売の現状について確認してみましょう。

 

報道内容

日本の投資信託の主役が長期的に実績のある投資信託となってきたと報道されています。以下、日経新聞の記事を引用します。

日本の投信、長期にシフト 人生100年時代の支え
2019/07/27 日経新聞

 日本の投資信託の主役が運用歴の長い商品に移ってきた。2018年度は運用期間10年以上の投信が、16年ぶりに資金流入に転じた。流入額は過去最大となった。金融業界が、新しい投信への頻繁な乗り換えを勧めてきた従来の姿勢を改め、長期で運用成績の安定した投信の販売に力を入れるようになってきたためだ。米国のように投信の長期シフトが続けば、個人の資産形成の底上げを通じて、「人生100年時代」を下支えする効果がありそうだ。
 「証券会社から薦められた投信をうのみにするのではなく、着実に好成績を残してきた投信を個人が購入するという米国型の投資手法にようやく近づいてきた」。長年日本の投信マーケットを研究してきた日興リサーチセンター資産運用研究所の藤原崇幸主任研究員は感慨深げだ。年金不安を受けて長期目線で「積み立て投資」をする個人投資家も増えている。
 運用が始まってから期間が10年以上たった運用歴の長い投信は、18年度に4358億円の資金が流入(解約を差し引いたネットの値)した。資金流入は02年度以来となる。規模はデータがある1997年度以降で最大だ。新興国やインターネットなど旬の話題で設定した投信を顧客に短期間で買い替えさせる「乗り換え売買」の慣行が薄れた。
 国内・先進国の株式・債券を組み入れるタイプについて、投信評価会社の三菱アセット・ブレインズ(東京・港)のデータで調べた。運用期間が10年以上の投信は、17兆9300億円と投信全体の約16%、国内と先進国株式・債券タイプの約半分を占める。
 投信業界では販売手数料を優先し、乗り換え売買が横行してきた。顧客にとっては購入手数料がかさむ。「運用で得た収益が新たな収益を生む」複利効果も出にくくなり、運用の成績は悪化してしまう。日本の投信が長期商品にシフトしているのは、業界の販売慣行が変わったためだ。
 金融庁が13年以降、批判を強め、証券会社や銀行は、長期で安定した運用成績を出してきた投信を販売の主軸に据え始めた。
(以下略) 

日本の金融機関では、投資信託等の販売手数料獲得を優先してきました。そのため、利益が出ている投資信託があれば、顧客に解約を勧め新たな投資信託に乗り換えてもらうことで、新たな販売手数料獲得を狙ってきたのです。いわゆる回転売買の推奨です。

一方で、日本の金融機関が販売する投資信託は販売手数料が高く、回転売買のような投資方法は、金融機関の顧客=投信購入者の利益よりも金融機関の利益になっているとの問題意識が金融庁にはありました。

そのため、金融庁が金融機関へ販売手法の変更を改めるように指導してきたのが今までの流れと言えます。

 

各メガバンクの指標比較

現在、各銀行はお客様本位の業務運営を掲げ、お客さまにふさわしいとされる商品・サービスの提供等を方針としています。

先日は、銀行から購入した投資信託の半分は元本割れ(含み損)となっているとの報道が話題を集めました。まずは、運用損益がプラスの顧客の比率について各メガバンクの状況を確認してみましょう。

 

<運用損益がプラスの顧客の比率>

  • 三菱UFJ銀行 68%
  • 三菱UFJ信託銀行 60%
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 51%
  • 三井住友銀行 60%
  • SMBC日興証券 64%
  • みずほ銀行 70%
  • みずほ信託銀行 70%
  • みずほ証券 66%

以上の通り、現状(2019年3月末時点)では、含み損となっている顧客割合は50%を下回っていることが分かります。

次に、銀行は今までの姿勢を改め「お客様本位で商品・サービスを提供する」としているため、投資信託のコスト・リスク・リターンについても各メガバンクの比較をしてみることは有用です。

 

<投資信託の預り残高上位20銘柄のコスト・リスク・リターン>

  • 三菱UFJ銀行 コスト1.79%、リスク11.89%、リターン4.83%
  • 三菱UFJ信託銀行 コスト1.82%、リスク9.88%、3.65%
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 コスト2.27%、リスク14.75%、リターン6.79%
  • 三井住友銀行 コスト2.01%、リスク12.27%、リターン5.32%
  • SMBC日興証券 コスト2.20%、リスク12.07%、リターン6.71%
  • みずほ銀行 コスト1.99%、リスク12.53% 、リターン6.97%
  • みずほ信託銀行 コスト1.92%、リスク10.45%、リターン4.07%
  • みずほ証券 コスト2.22%、リスク14.58%、リターン9.12%

※コスト:販売手数料/5+信託報酬、リスク:過去5年間の月次リターンの標準偏差(年率換算)、リターン:過去5年のトータルリターン(年率換算)

上記を見ると、コスト(販売手数料+信託報酬)は2%程度となっています。

それに対して、リスクとリターンの関係は各銀行・証券会社によって異なります。

そこで、以下ではリスクとリターンの関係を横比較できるように「リターンをリスクで割って比較」してみます。

投資信託を比較する際の指標にシャープレシオというものがあります。

シャープレシオとは、リスク1単位あたりのリターンを示した指標です。ファンドを比べるときに、同じリスクレベルではどの程度の超過リターンの違いがあるかをみることができるものです。同じ運用実績であっても、標準偏差であらわされるリスクが異なれば、そのファンドに対する評価も異なるということです。

シャープレシオの計算式は、「シャープレシオ=超過リターン(※ファンドのリターン―無リスク資産のリターン)÷ファンドの年率リスク」となります。

今回は、ゼロ金利政策下であることもあり、無リスク資産のリターンを勘案せず、簡易にリターンをリスクで割って比較します。

 

<投資信託の預り残高上位20銘柄のリターン/リスク比較>
  • 三菱UFJ銀行 0.41
  • 三菱UFJ信託銀行 0.37
  • 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 0.46
  • 三井住友銀行 0.43
  • SMBC日興証券 0.56
  • みずほ銀行 0.56
  • みずほ信託銀行 0.39
  • みずほ証券 0.63
※上記の算式はリターン÷リスクです。
上記を見ると、証券会社が販売している商品の方が比較的「運用効率が良い」、すなわち「小さいリスクで大きなリターンを獲得する」傾向があるということが分かります。
但し、上記指標(≒シャープレシオ)では、0.63が最大値でしたが、個々の投資信託では5年の期間でシャープレシオで「1を超える」ものも存在します。

(参考)モーニングスターのファンドランキング/シャープレシオのページhttp://www.morningstar.co.jp/FundData/FundRankingSharpRatio.do

メガバンクグループが販売している上位の投資信託が本当に運用効率が良いのかについては、運用を考えている個々人がしっかりと考えねばならないことかもしれません。

なお、 投資信託のコストは各社とも2%前後となっています。このコストはそのまま運用成績の低下に直結します。

 

所見

筆者は、メガバンクグループで投資信託を購入することは基本的におすすめしません。(正確に言えば、リアルの店舗網を抱える銀行から投資信託を購入することをおすすめしません。)

販売手数料を取られるということは、運用成績がマイナスからスタートすることと同義です。

メガバンクグループの立派な店舗の窓口で、もしくはエリートの外訪担当者から購入したからといって、その投資信託自体が優れている訳ではありません。

資産運用は、運用資産の価値を増やすことが究極的には目的のはずです。コストが安く、運用効率の良い運用商品を購入するならば、インターネットで探せます。

そして、メガバンクグループで取り扱っている投資信託が「希少」であることもほとんどありません。そこでしか手に入らない、貴重で、かつリスクに比してリターンが高い商品があるならばメガバンクグループからその商品を購入すべきでしょう。しかし、筆者の知る限りでは、そのような商品はありません。

日本の金融機関は、運用商品の販売において、今までよりは顧客本位に変わりつつあります。これは間違いありません。

しかし、変わってきたとはいえ、日本の金融機関から投資信託を購入すること自体が購入者にとって良いことかについては、冷静に考える必要があるのではないでしょうか。