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私募投信残高100兆円突破は地域金融機関の運用力の無さの象徴

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私募投信の残高が初めて100兆円を突破しました。

この事象は金融緩和の環境下においてどのような意味を持つのでしょうか。

そもそも私募投信を購入しているのは「誰」でしょうか。

今回は私募投信の残高を通じて、地銀の経営について少し考えてみましょう。

 

報道内容

私募投信の残高が増加している事象について日経新聞が記事を発信しています。まずは全体像をつかむ上でも当該記事を引用します。

私募投信100兆円 運用難の地銀マネー、限られる受け皿
2020/08/14 日経新聞

 私募型の投資信託の残高が増えている。機関投資家という「プロ」を対象に資金を集める私募投信は、個人向けが中心の公募型と異なり手続きが簡素で手数料も割安。地方銀行や信用金庫といった地域金融機関にとっては、運用の中核だった日本国債の利回りが低下するなかで資金の限られた受け皿となっている。残高は7月末に初めて100兆円を超えた。

■残高は10年間で3倍に

 投資信託協会が14日発表した7月の投資信託概況によれば、私募投信(株式投信と公社債投信の合計)の残高は7月末に100兆6412億円となった。「適格機関投資家」というプロ向け中心なので法的な書類作成などの事務手続きが簡略になり手数料が割安な私募投信は、伸び悩む公募投信と対照的に残高が10年前と比べて3倍強に膨らんでいる。私募投信が公募投信(ETF除く)を初めて上回ったのは16年10月で、その後差は開いている。

 拡大の背景には地域金融機関の運用難がある。長らく資金運用の中心だった日本国債は、利回り低下で十分な利益を稼げなくなっている。過去に発行された高利率の国債が続々と償還され、戻ってきたマネーは行き場を失いかけている。その受け皿として有力視されるのが私募投信というわけだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大でも「流れは変わっていない」(国内運用会社の営業担当者)という。残高は金融・資本市場が混乱した3月にいったん減ったが、そこから順調に回復。4月以降は累計で約2兆6000億円の資金が流入した。

■人気の背景に会計上のメリット、運用は多様化

 私募投信は、顧客である金融機関の求めに応じて商品を設計できる。人気が高いのが外国為替相場の変動リスクをヘッジ(回避)した外国債券で運用した投信だ。地銀などが自らヘッジ付き外債で運用しようとすると、投資先が増えれば増えるほどヘッジに伴うデリバティブ(金融派生商品)取引に絡んだ会計処理などが煩雑になる。私募投信の運用でパッケージ化してしまえば管理するのは基準価格の変動などに限定され、会計処理の手続きが簡単になるメリットがある。

 メリットはヘッジ付き外債に限らない。分配金収入や売却益を本業のもうけを示すコア業務純益に計上できる点もある。融資をはじめとする本業が伸び悩むなかで、投信の売却益を内訳として開示しなければならなくなった後も人気は衰えていない。

(中略)

 私募投信を巡っては「地銀向けを中心に拡大が続く」(国内証券系シンクタンクのアナリスト)との見方が多い。アセットマネジメントOne機関投資家営業本部の実吉隆之・金融ソリューショングループ長は、政府による特別給付金などで預金が増加しているのを踏まえ「新型コロナへの懸念が後退すれば、今年度上期に投資しきれなかった分も含めて私募投信に資金を振り向ける動きが加速する」とみていた。

私募投信は手数料が割安で、地銀自らが投資するよりは管理が楽であり、更に本業の収益(貸出金の利息を含む資金利益)に計上可能であるという点で人気があるということになります。

 

投資信託の全体像と私募投信の残高推移

以下は投資信託の全体像です。 

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(出所 投資信託協会)

日本全体では233兆円の投資信託の残高があります。

そのうち、公募投信が130兆円ありますが、この公募投信のうち43兆円がETFです。

一方で、私募投信は103兆円あり、株式投信が96兆円とほとんどを占めます。 

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(出所 投資信託協会統計データより筆者作成)

上図のように私募投信は急激に残高を伸ばしてきています。

低金利そしてマイナス金利政策導入に伴い、地銀等の運用手段が無くなり、私募投信が好まれるようになったものと思われます。

 

所見

私募投信が地銀に好まれるのは上述の通り、私募投信の運用で獲得した収益は、本業の収益として計上できるからという側面があります。

以前、株価が上昇した場合に利益が出る私募投信と株価が下落した場合に利益が出る私募投信を両方とも地銀が保有し、期末近くに一方だけを売ることで、利益だけを計上する手法が当局に問題視されたことがあります。

私募投信は、「決算を作る」ために利用されている側面があるのです。

確かに私募投信は地銀のみならず信金等の運用セクションに人を割けない金融機関からすると魅力的な商品でしょう。手間をかけずに、プロの運用手法を取り入れることができるからです。

しかしながら、金融機関というものは、自身で運用する能力があるからこそ、預金を集めるのではないでしょうか。

他者(他社)に運用を完全に任せてしまうのは、本業をアウトソーシングしているようなものです。

そして、私募投信は主に株式で運用されています。株式での運用が本業の収益となるのも金融機関のビジネスモデルとして良いのでしょうか。

私募投信の隆盛は、主に地銀等の地域金融機関の資産運用能力の無さの証左だと筆者には思えます。(事はそう単純ではないことも分かっておりますが・・・)

但し、他に運用する先がないということも、また事実なのでしょう。地銀等の地域金融機関のビジネスモデルは、本当に変革すべき時に来ているのではないでしょうか。