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ソフトバンクが目指す親子上場についての論点

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ソフトバンクグループが携帯電話子会社としてのソフトバンクを上場させようとしています。

一方で、親子上場が減ってきているというニュースをご覧になった方もいるかもしれません。

親子上場は様々な問題点を含んでいます。

今回は、ソフトバンクグループが行おうとしている親子上場の論点について考察します。

 

親子上場の状況

まず、日本において親子上場の事例はどの程度あるのでしょうか。また、近時の動向はどうでしょうか。

野村資本市場研究所のレポートから確認しておきましょう。

野村資本市場研究所が調査した 2017 年度(2018 年 3 月)末時点での日本の親子上場企業(親会社が上場会社である上場子会社)数は、前年度末に比べ 7 社純減して 263社となった。親子上場企業数は 2007 年度末以降 11 年連続で純減を続けており、ピークであった 2006 年度末の 417 社からは約 37%(154社)減少している。

(出典 野村野村資本市場クォータリー 2018 Summer)

このように親子上場は継続して減少してきています。

この要因はどのようなものでしょうか。

 

親子上場のメリット

まず、親子上場のメリットを確認しておきましょう。

親子上場の子会社側にとってのメリットは、上場することで知名度が高まり、優秀な人材の確保が可能になること、資金調達手段を多様化させられることです。加えて、引き続き親会社傘下に留まることで、短期利益を求める株主からの防衛も可能です。

子会社の経営陣からすると、親会社から独立性が増すため、経営の裁量が増えます。従業員の採用のみならずモチベーションの向上も期待できるでしょう。

上場企業としての知名度や資金調達と経営の安定性という良いところ取りを目指すのが親子上場であると言えます。

一方、親会社にとっては、子会社の上場時に持分の一定割合を放出することで、支配権を維持しながら子会社株式の売却益・資金を得られることがメリットと言えるでしょう。

また、子会社がスポットライトを浴びることにより、株式の価値向上も狙える可能性があります。

 

親子上場のデメリット

親会社側のデメリットは、子会社の経営権が薄まること、子会社の利益を全部取り込めなくなること、子会社も独立して情報開示を行うことでグループベースでの間接コストが増加すること等です。

しかし、親子上場の場合は、そもそも親会社が子会社を上場させたい訳ですから、親会社のデメリットを考えるのは、あまり意味がないでしょう。

親子上場のデメリットは、特に子会社側の株主にあります。

このデメリットについては、東京証券取引所の考えが参考となります。以下は資料からの抜粋になります。

 

【親子上場一般について】

  • 親子上場を認めていない取引所は、国際的にみても皆無。
  • 欧州・アジアでは盛んに行われており、米国・英国ではスピンオフの前段階として行われることが一般的。東証では、現在322件の親子上場が存在。(筆者註:2014時点)
  • 親子上場は、親会社にも子会社にも少数株主が存在することとなり、少数株主間での利益相反が避けられないため、上場時(上場審査時)には以下のとおり対応。
  • 〈子会社の少数株主保護〉子会社は、支配権を持つ親会社によって不当に利益を搾取されるおそれがあるため、子会社の親会社からの独立性を確認。
  • 〈親会社の少数株主保護〉親会社は、日常的な監視が行き届かない子会社の不祥事等により、不利益を被るおそれがあるため、企業集団としての内部管理体制が適切に機能していることを確認。
  • 上場後は、株主の監視による未然防止を目的として、開示や内部統制に関する制度を整備。

【中核的な子会社の上場について】

  • 上場している親会社が、グループ内の中核的な子会社を上場させる場合、その状況によっては、①証券市場にとって新しい投資物件といえず、②親会社が子会社を上場させて新規公開に伴う利得を二重に得るような結果となるおそれあり。
  • 「中核的な子会社」の上場については、各企業グループ、子会社の事業の特性、事業規模、過去の業績の状況、将来の収益見通し等を総合的に勘案しながら慎重に判断。
  • 典型的には、親会社の上場後に子会社を設立して、親会社の中核的な事業を移転し、子会社を新たな投資物件のように装うような、詐欺的なケースを想定。

(出典 東京証券取引所への上場について
平成26年4月24日)

 

このように東証は表明しています。

親子上場の子会社では親会社以外の少数株主が保護されない懸念が高く、株主の平等に反するという問題点を指摘しているのです。

親会社の利益を優先させ、子会社の少数株主の利益を損なうことがあるならば、誰でも株式を購入可能であり不特定多数の少数株主が存在するであろう上場企業としては問題でしょう。

ただし、東証としては、親子上場が日本独自のものではなく法制度上親子上場を禁止している国はないことから、親子上場を禁止・規制することは適切ではないとしています。

その代わり、親子上場には利益相反や少数株主保護といったコーポレートガバナンス上の問題が生じやすいという懸念があるため、上場審査の際には、親会社からの独立性や内部管理体制を確認するとしています。

 

ソフトバンクの親子上場への考察

ソフトバンクグループは、グローバルな規模でスタートアップ・ベンチャー投資を含めた投資戦略を進める戦略的持ち株会社のソフトバンクグループと、国内携帯電話事業のソフトバンクの役割と価値を明確に分けることを目指しています。ソフトバンク上場には、グループ内の役割分担を明確にするという狙いがあるのです。

これは、ある程度、投資家にとっては分かりやすい説明でしょう。

ソフトバンクグループは、ビジョン・ファンドの設立のように投資会社としての色が強く出てきています。米携帯電話会社のスプリントもグループから切り離すことになり、ますますソフトバンクグループは事業会社とは言えなくなってきているのです。

現在のソフトバンクグループは、孫社長のビジョンを実現するための企業です。もしかしたら一般的な投資会社とは呼べないのかもしれません。企業へ投資しながらも、将来の潮流自体を作り出そうとしているようにも感じられるからです。

よって、リスクが異なる事業会社であるソフトバンクが子会社としてある程度独立するのは、自然なことなのかもしれません。

一方で、忘れてはならないのは、このソフトバンクの上場は、効果・事象だけを見れば「親会社による単なる資金調達」でしかありません。これもまた事実です。

ソフトバンクの親子上場については、筆者は複雑な思いを持ちます。

株式市場の原理原則に従うならば、親子上場は都合の良過ぎるやり方です。子会社を上場させるならば、経営権は手放すべきです。株主は平等でなければなりません。上場しながら、一般株主からの圧力を感じなくて済むならば、本末転倒です。それならば上場してはいけないのです。

一方で、日本では珍しい経営者である孫社長を応援したい気持ちもあります。

しかしそれでも、筆者は、長いスパンで考えると親子上場は無くなっていくと考えています。それが、株式市場のあるべき姿であるからです。株主は平等であるべきなのです。

すぐには禁止されなくとも、親子上場は将来は無くなるのではないでしょうか。今回のソフトバンクの上場が、未来の学者やマーケット関係者からどのような評価を受けるのか、知りたいところです。