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スルガ銀行の2019年3月期中間決算で予想されること

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スルガ銀行の2019年3月期中間決算が大幅な赤字となることが報じられています。

赤字の幅は大きいですが、現時点では十分な自己資本があるため、銀行の自己資本比率規制はクリアしています。

しかし、なぜスルガ銀行が不良債権(この用語の使用が適切かは悩ましいところです)処理で大幅な赤字を計上するのでしょうか。

今回は、スルガ銀行の2019年3月期中間決算における不良債権処理対応について簡単に考察してみましょう。

 

報道内容

まずは、スルガ銀行の中間赤字について、どのような報道がなされているかを確認しましょう。以下は日経新聞の記事を引用します。

スルガ銀、赤字900億円
2018/11/08 日経新聞

 スルガ銀行は2018年4~9月期の連結最終損益が900億円程度の赤字になる見通しになった。審査書類の改ざんなど不正融資が横行し、投資家とのトラブルに発展したシェアハウス向け融資で、貸倒引当金を大幅に積み増す。シェアハウスは返済を滞納する所有者が増えている。不良債権の処理に今期でめどを付け、銀行の再建に専念できる環境をつくる。
 延滞率が30%に上るシェアハウスとは対照的に、その他の投資用不動産向け融資では1%未満。運営に問題がない例も多く、他の不動産関連融資での追加損失はほぼ発生しない見通しだ。
 8月に公表した業績予想で、18年4~9月期の連結最終損益を前年同期比43%減の120億円の黒字と見込んでいた。6月末時点の自己資本は3200億円超。赤字を計上しても、国内で営業する銀行に規制上求められる自己資本比率の2倍以上にあたる8%超の水準を確保する。
(中略)
 女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の所有者らに土地・建物の購入資金を融資し、融資残高は3月末時点で2035億円にのぼる。
 かぼちゃの馬車の運営会社は4月に破綻。約束された賃料を得られずに返済に行き詰まる所有者が続出した。18年3月期にシェアハウス向けの420億円を含めて計587億円の貸倒引当金を計上していた。
 スルガ銀はその後、融資先ごとに賃料収入や返済状況、物件の担保価値を改めて査定。焦げ付きに備えた追加の引当金を大幅に積み増す必要があると判断した。シェアハウスは融資の担保となっている土地・建物で保全できる範囲を除いて大部分を貸倒引当金で手当てすることになる。
 3月時点で488億円あった創業家の関連企業向け融資でも貸倒引当金を積み増す見通しだ。スルガ銀は現在、不動産関連融資をめぐり、手続きに審査書類の改ざんや契約書の偽造などの不正がなかったか全件調査している。対象が数万件に及ぶため調査の時間はかかるが、財務面では今期でウミを出し切り、不良債権の悪影響が長期化しないようにする考えだ。

この記事のポイントは、以下です。

  • シェアハウス向け融資について貸倒引当金の積み増しを行うこと。
  • 延滞率が30%に上るシェアハウスとは対照的に、その他の投資用不動産向け融資では1%未満であること。運営に問題がない例も多く、他の不動産関連融資での追加損失はほぼ発生しない見通しであること。

 

中間決算の想定

近日中に発表されるであろうスルガ銀行の決算を見れば良いのですが、ここでスルガ銀行の中間決算でどのような処理がなされたかを、あえて想定してみましょう。

<考え方の流れ>

  • 報道が正しければ、スルガ銀行は900億円程度の赤字となります。
  • 当初の中間決算時点での黒字予想額は120億円でした。
  • すなわち、900億円+120億円の約1,000億円が中間決算における不良債権処理費用となります。
  • この1,000億円は実際の法的整理よりは貸倒引当金の計上と想定されます。(そのような報道も一部あります)
  • 2019年3月期1Q(4~6月)での不良債権処理費用(与信費用)は102億円です。
  • よって、約900億円の貸倒引当金を7~9月で計上したことになります。
  • 2018年3月から2018年6月までの間に不良債権額(金融再生法ベースの開示額)は634億円増加しました。
  • この増加額に対して102億円の処理費用が計上されているため、不良債権増加額の16%(=102÷634)が引当金計上されていると簡易に試算出来ます。
  • 今回、900億円の追加処理をしたということは、今までの引当率と変わらないならば、5,600億円程度の不良債権が増加したとも解釈出来ます。(5,600×16%≒900億円)
  • シェアハウス向け貸出残高は2,000億円程度、2018年6月時点の不良債権額は上述の通り1,356億円です。
  • シェアハウス向け貸出残高を全て処理しても5,600億円の不良債権額増加は説明出来ません。
  • 以上の数字が物語るのは、スルガ銀行が既存の不良債権における担保評価の見直し(引下げ)を大規模に行った可能性が高いということです。
  • 2018年6月時点における破綻更正債権等の担保・保証による保全率は62%、 危険債権は47%、要管理債権は41%と想定されます(公表されていないため筆者が試算)。
  • 簡単に言えば、不良債権のうち約40%は担保・保証で保全されている(=回収出来る)とスルガ銀行は見込んでいます。その担保・保証に加えて、不良債権額の25%分の貸倒引当金を積んでいます。(つまり不良債権の35%は保全がされていません。しかし、不良債権の全額が回収できないこともないので問題ないのです。)
  • この担保・保証の40%という数字が、まやかしの数字で成り立っていたらどうでしょうか。
  • 今までの報道や第三者委員会の報告にあった通り、担保物件であるシェアハウスの賃料が実際よりも高く設定されていたり、虚偽の数字だった事例が多数ある可能性があります。
  • つまり、担保価値を計算する前提となる数字が誤りだったということも十分にあり得るのです。
  • 今回の報道だけでは詳細は分かりませんが、例えば以下のような想定も出来るでしょう。

〈勝手想定〉

  • 不良債権額が1,356億円から2,500億円に増加(シェアハウスの貸出の大半+その他投資用不動産貸出の一部を想定)。担保価値を精査すると半分の価値に下落。
  • この担保評価額の下落分を貸倒引当金でカバーすると500億円(=2,500億円×40%×1/2)。
  • さらに、不良債権の分類を危険債権(引当率が高い)へ大幅に変更。それに伴い保全されていない部分の引当率をさらに向上。{不良債権の勝手想定増加額1,144億円-(1,144億円×20%:担保の保全分)}×想定保全率50%(※)=457億円。 ※2018年3月末時点の担保・保証の保全部分を除いた貸倒引当率は40%程度であるため、50%までの引き上げを想定。
  • 合計すると1,000億円程度の費用発生。

以上、スルガ銀行がこの中間期に実施したことを勝手に想定しました。

これは数字のお遊びでしかありませんが、筆者はスルガ銀行の中間決算には注目しています。スルガ銀行の貸倒引当金の引当率は、場合によっては他の地方銀行へも波及する可能性があるためです。

そして、スルガ銀行は、シェアハウスのオーナーと借入金額の減額交渉等を始めています(スルガ銀行から見た場合には債権放棄等)。この減額交渉は順次決着していくでしょうが、この中間期ではそこまで大きな決着にはならないのではないでしょうか。

いずれにしろ、今回のスルガ銀行の中間決算は注目したいと思います。