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第二地銀の業績を冷静に見る

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第二地方銀行協会(第二地銀協)の会員である第二地方銀行(39行、第二地銀)の決算の概要が、第二地銀協から発表されています。

地方銀行の経営環境が厳しいことは金融当局の見解やマスコミ報道で話題となっていますが、実際の数字面ではどのような状況にあるのでしょうか。

今回は、第二地銀の2019年3月期決算について確認していきましょう。

 

第二地方銀行とは

第二地方銀行(以下第二地銀)とは、第二地方銀行協会の会員であり、金融庁の「免許・登録業者一覧」において「地域銀行 / 第2地方銀行」とされた銀行です。

第二地銀協の定款には以下のように会員を定義しています。

この協会の会員は、平成元年2月1日以降、金融機関の合併及び転換に関する法律(昭和43年法律第86号)第6条第5項の規定に基づいて銀行法により免許を受けたとみなされた銀行及び会員から営業を譲り受けることを目的として新たに免許を受けた銀行であって、主たる営業基盤が地方的なもののうち、次条の承認を得たものとする。

出典 一般社団法人 第二地方銀行協会定款第5条

第二地銀は規模の大きい第一地方銀行(第一地銀)とは異なり、相互銀行が前身です。相互銀行は庶民金融機関であった無尽会社から転換したものであり、いわゆる中小の金融機関でした。

相互銀行から普通銀行に転換した際に、全国相互銀行協会も第二地方銀行協会に改称し、今に至ります。

 

第二地銀の業績

では、第二地銀の業績はどのようになっているのでしょうか。

以下では第二地銀の2019年3月期決算のポイントを見ていくことにしましょう。

<2019年3月期業績>

  • コア業務純益 1,842億円、前年同期比△ 149億円、同△ 7.5%
  • 資金利益 7,681億円、同△ 172億円、同△ 2.2%
  • うち貸出金利息 6,348億円、同△ 117億円、同 △ 1.8%
  • うち有価証券利息配当金 1,636億円、同 △ 106億円、同 △ 6.1%
  • 役務取引等利益 720億円、同△ 4億円、同△ 0.6%
  • 国債等債券関係損益 △ 84億円、同+38億円、同ー%
  • 経費(△) 6,621億円、同 △ 99億円、同△ 1.5%
  • 一般貸倒引当金繰入額(△) 28億円、同+50億円、同ー%
  • 個別貸倒引当金繰入額(△) 261億円、同+44億円、同+20.3%
  • 貸倒引当金戻入益 24億円、同△ 31億円、同△ 56.4%
  • 預金 655,115億円、同+7,979億円、同+1.2%
  • 貸出金 521,614億円、同+13,823億円、同+2.7%

(出所 第二地銀銀行協会「会員行の2018年度決算の概要について」)

 

以上の数字を見てわかることは、第二地銀全体では減益となっていること、要因は貸出金利息の収入低下以上に有価証券での利息配当金が減少していること、経費の削減はあまり進んでいないこと、不良債権処理費用が上昇していることです。

 

第一地銀との比較

次に規模の大きい第一地銀の数字も確認しておきましょう。

以下は第一地銀の2019年3月期決算です。

  • コア業務純益:1兆299億円、前年同期比▲588億円、同▲5.4%
  • 貸出金(平残):204兆2,066億円、同+9兆3,949億円、同+4.8%
  • 有価証券(平残):65兆7,030億円、同▲4兆593億円、同▲5.8%
  • 預金(平残):263兆1,069億円、同+7兆3,941億円、同+2.9%
  • 貸出金利息が前年度比+264億円、+1.2%
  • 有価証券利息配当金が前年度比▲559億円、▲6.3%
  • 個別の不良債権処理額は▲2,784億円と前期比▲1,783億円、▲178.3%(=不良債権処理は増加)

第一地銀は、第二地銀と比べて貸出残高の増加率が大きく、貸出金利息収入も減少していません。

不良債権処理費用は急増していますが、この内の半分(915億円)はスルガ銀行の増加分です。そして、第一地銀は第二地銀と比べて体力があるため、前倒しで不良債権処理を行ったと考えられます。

収益力から見ると、第一地銀全体では第二地銀全体の約5~6倍となっており、資産規模で見ると約4倍となっています。なお、数でいけば、第一地銀は64行、第二地銀は39行となっています。

第一地銀は規模の利益が働いており、第二地銀よりも少ない資産で収益を上げられていることが分かります。

尚、メガバンクでは収益が厳しいみずほ銀行(単体)でもコア業務純益は3,000億円を超えていますので、合計のコア業務純益が1,842億円となっている第二地銀は39行合わせてもみずほ銀行一行に収益では負けています。

 

まとめ

メガバンク、第一地銀、第二地銀の決算を見る限りは、銀行には規模の利益が働いていると言えそうです。

すなわち、特に第二地銀では経営統合、合併が生き残りのためには有効と考えられます。

しかし、上述の通り第二地銀の業績が厳しいとはいえ年間の減益率は▲7.5%です。急に倒産するようなことは考えにくいのも事実です。

銀行はストック商売のビジネスモデルです。貸出の収益は徐々に低下していくのです。

第二地銀はこのままでは将来の存続は簡単ではないでしょう。しかし、徐々に収益力が削がれていく可能性が高いため、急激に統合が進むということも難しいでしょう。

第二地銀は変わっていくでしょうが、金融当局や識者、マスコミが考えるほどには急激な変化は無いのではないかと筆者は考えています。