私立大学が少子化への対応もあり資産運用を積極化しています。
今回はこの私立大学の資産運用について簡単に考察します。
報道内容
まずは足元の動きをつかみましょう。以下、日経新聞の記事を引用します。
大学 リスク投資に軸足
2018/10/30 日経新聞国内の大学が積極的な資産運用に動いている。玉川大学は10月からヘッジファンドなどへの投資に踏み切った。早稲田大学や国際基督教大学(ICU)も株式などリスク資産の運用を増やしている。超低金利が続き、現預金や債券運用には手詰まり感がある。少子化で学費収入の増加も見込めないなか、運用益を奨学金や研究開発費に充て、大学の競争力を高める。
玉川大は大学の資産運用を支援する「大学資産共同運用機構」を通じ、10億円をリスク資産に振り向ける。数百億円の運用資産の大半は日本国債などの安全資産だが、ヘッジファンド、不動産投資信託(REIT)など株や債券とは値動きの異なる代替資産(オルタナティブ)に投資先を広げた。ICUも現在3割強の株式運用の比率を、今後5割まで引き上げる。
早稲田大は今年から教職員の退職金などのためにリスク投資に回しにくい約900億円とは別に、寄付金や過去の運用益を原資にした約110億円の枠を設けた。同枠は株式中心に投資して年率5%の利回りを目指す。鈴木嘉久資金運用担当部長は「海外留学生に魅力的な大学だと感じてもらうには、(運用で)多額の研究開発費を確保する必要がある」と話す。
昨年4月からは、国立大学もこれまでより自由な資産運用が法律で認められた。原資が寄付金の場合に限り、リスク資産への投資も可能となる。東京大学などではリスク運用に向けた体制の整備が進んでいるようだ。
大学の運用難は深刻だ。日本私立学校振興・共済事業団によると、私立大学を中心に657法人の2016年度の運用資産は合計で8兆2547億円。同年度の運用利回り(加重平均)は1.04%。現預金と債券で全体の9割超を占める。一方、株式投資に動く年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は同年度の利回りが5.86%だった。
大学の運用が安全資産に偏るのは、08年のリーマン危機時の苦い経験があるためだ。駒沢大学はデリバティブ(金融派生商品)取引で08年に154億円の損失が発生。慶応義塾大学も積極運用が裏目に出て、08年度決算は支出超過(赤字)になった。慶応大は今年3月末時点で株式比率が1%未満にとどまる。
もっとも危機後の低金利で現預金や債券では以前のような利回りを得られない。私立大学の収入構成は7割超が学生からの納付金とされる。少子化で学費収入が減り、国の助成金も減少している。財政悪化に直面する大学側は自由度の高い寄付金などを「従来の公社債中心から投信などで運用を多様化させようとしている」(野村証券の金融公共公益法人部)。
(以下略)
以上が報道内容です。
以下で大学の資産運用状況についてもう少し詳細に確認していきましょう。
調査結果
- 平均値 12,963百万円
- 中央値 4,525百万円
- 債券 3,533,180百万円 42.8%
- 株式 173,626百万円 2.1%
- 投資信託 407,214百万円 4.9%
- その他 212,775百万円 2.6%
- 現⾦預⾦ 3,927,931百万円 47.6%
- 合計 8,254,726百万円 100.0%
②資産運用規模500億円以上(36法人)
- 債券 1,826,030百万円 55.2%
- 株式 71,373百万円 2.2%
- 投資信託 184,309百万円 5.6%
- その他 124,677百万円 3.8%
- 現金預金 1,103,825百万円 33.2%
- 全体 3,310,214百万円 100.0%
以上で分かるように、私学全体では8.2兆円の運用が行われており、大半は現預金と債券で運用されています。全体と比べると、資産運用規模が500億円以上の法人の方が、現預金ではなく債券、投資信託、株式等で運用しています。
【資産運用利回り】
- 全体 1.04%
- 10億円未満 0.56%
- 10億円以上 〜50億円未満 ▲0.09%
- 50億円以上 〜100億円 未満 0.59%
- 100億円以上 〜500億円 未満 0.68%
- 500億円 以上 1.71%
平成28年度の資産運用利回りは全体では 1.04%となっています。
規模別では、資産規模500億円以上の区分が1.71%となっており、資産規模が⼤規模の区分が⾼い利回りとなる傾向があります。
以上が私学の資産運用状況です。
(出典 平成29年度 学校法人の資産運用状況(集計結果))
https://www.shigaku.go.jp/files/sisanunyouanke-to-h29.pdf
所見
以上が私学の資産運用状況でした。
ここで分かるのは大規模法人ほどリスクを取った運用を行い、結果として資産運用利回りも良いという結果です。
しかし、それではリスクを取れば良いかというとそんなに簡単なものではありません。
ヘッジファンド、REIT等、債券・株式とは異なる資産に投資すれば運用が改善するという単純なものでもないのです。
例えば、地方銀行は有価証券での運用を活発化させてきました。2017年度の運用利回りは1.27%(全国地方銀行協会発表資料)です。当然、上記の記事にあるGPIFのように積極的なリスクを取っているわけではありませんが、比較的プロに近い運用をしている地方銀行(上記の場合は第一地銀)でも利回り確保には苦戦しているのです。
GPIFの資産構成割合は以下の図の通りです。私学の資産運用とは随分と異なることが分かるでしょう。
(出典 年金積立金管理運用独立行政法人ホームページ)
期待利回りはリスクと表裏です。リスクが高ければ、リターンも高いのです。特効薬も魔法の杖もありません。
米国の大学等と異なり、資産運用のプロが携わっている日本の私学は少ないと思われます。日本の銀行や証券会社の言いなりになっていては、リスクを抱える一方で、金融機関に販売手数料等を取られ、結果として利回りがあまり獲得できない(リスクとリターンが見合っていない)こともあり得ます。(筆者にとってはこの点が一番の問題ではないかと考えます)
また資産運用はリスク管理が必須です。
私学で本格的に運用を行っていくのであれば、プロを学内に囲い込むことも一考でしょう。