銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

外債の為替ヘッジを代行するサービスは良い目のつけどころでは

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先日、日経新聞に興味深いサービス開始の記事が掲載されていました。

筆者としては銀行が提供するサービスとしては久しぶりに納得感のあるものでしたので今回の記事で取り上げます。

日経新聞の記事

まず、日経新聞の記事についてご紹介します。

日経新聞 2017年12月7日
外債の為替ヘッジ提供
三菱UFJ信託 地銀・生損保向け

三菱UFJ信託銀行は、年内にも地銀や生損保向サービスの提供を始める。マイナス金利政策で運用が難しくなっていることから、外債などへの投資に伴う「為替ヘッジ」の需要が増えていることに対応する。
為替ヘッジは、米国債など外貨建て資産に投資する際に利用することが多い。だが期日の管理など人手が必要で作業が煩雑なため、地銀などではコスト負担が課題となっていた。
三菱UFJ信託が投資家の指示に基づき、日々変化する資産の時価残高に合わせて為替ヘッジ額を自動調整するほか、1カ月間や3カ月間など、為替ヘッジの期日も管理して更新する。
2015年から同サービスを始めたが、これまではアセットマネジメント会社向けだった。三菱UFJ信託は、21年3月期までに、ヘッジサービスの受託残高を1兆円規模まで増やしたい考えだ。

外国債券への投資には為替リスクがあるため、為替リスクを排除するニーズは多いのが現状です。

記事によると今までMUFG はアセットマネジメント会社向けに為替ヘッジサービスを提供したようですが、これは為替ヘッジ付の債券ファンド等向けだということでしょう。

為替ヘッジ付の債券ファンド等は一般的な投資商品であり、年金基金や生保等の機関投資家も普通に投資しています。個人向けにも為替ヘッジ付の投資信託が存在します。

この為替ヘッジを地銀や生保の「外債直接投資」にもサービスとして提供するということなのでしょう。

このビジネスは広がりが想定されます。

以下、もう少し詳しくみていきましょう。

為替ヘッジ付外国債券とは

そもそも為替ヘッジとは、為替予約取引を通じて、将来あらかじめ決められた為替レートで受け渡しができる契約を締結し、為替の変動リスクを低減させることをいいます。

日本はマイナス金利政策の導入もあり債券に投資してもリターンは非常に低いのが現状です。

一方で外国の債券は金融緩和で利回りが低下しているとはいえ、日本での投資よりは利回りを確保できます。

為替リスクがなければ(そして同じ信用リスク・流動性であれば)、利回りの高い資産に投資するのは当たり前です。

それを狙うのがヘッジ付外債投資といえます。

ただし、全くリスクやコストが変わらないことはありえません。

そうならば金利の高い資産や信用力の高い通貨の資産に投資が集中しているでしょう。

当然ながら為替ヘッジにもコストはかかるのです。

為替ヘッジにかかるコストは、理論的には「外貨の短期金利と日本円の短期金利の差」となります。それに各通貨の見通しや需給の状況によって外貨調達に上乗せ金利が発生し、為替ヘッジのコストが金利差と乖離します。

金利差のところについては、例を挙げましょう。

為替レートを1ドル=100円とします。

米ドルの金利が1%、日本円の金利が0.1%と仮定します。

1年後に今と同じ1ドル=100円で円を買い戻す契約をした場合には、ドルにも円にも利息がつきます。

1年後の価値は1.01ドル=100.1円となります。つまり、実施には1ドル=99.1円と今よりも0.9%高い(=円高)のレートで買い戻すことになります。

この0.9%が為替ヘッジコストになるのです。

この為替ヘッジコストを負担しても日本での債券投資より外国債券投資の方が利回りが高ければ投資を検討するに値するということです。
では、この為替ヘッジ付外債投資のニーズはどの程度あるのでしょうか。

為替ヘッジ付外債投資ニーズの広がり

日本銀行の金融システムレポート(2017年10月)によれば、地銀の外債投資はこの数年で急増しています。

2012年には6兆円程度であった地方銀行の外国証券投資は2017年には12兆円程度まで増加し、5年で2倍程度となっています。

日本銀行金融システムレポート23P
https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/index.htm/

この外国債券投資がすべて為替ヘッジをかけているわけではないでしょうが、為替ヘッジリスクは相応にあると考えられます。

マーケットは拡大しているということです。

外債投資に伴う為替ヘッジは通常1~3ヶ月の期間で実施されます。そして期日が到来する度に更新されていくのです。

このような拡大するマーケットでは、冒頭に紹介した記事にある通り為替ヘッジの管理が負担となってきていることが想定されます。

特に地銀は規模が小さいため、外債投資の管理に多くの人手を割くことはできないでしょう。ここに狙いを定めた銀行の戦略は非常に面白いと思います。

特に地銀は貸出金利の低下により貸出業務で収益を確保することが難しくなってきています。そのため、地銀は外国債券を含めた他の運用資産へ投資をせざるを得ないのです。

信託銀行のような業態は運用会社向けに様々なサービスを提供しています。

そのインフラの一部を地銀の外債直接投資にも提供するのですから、追加のコストはほとんどかからないでしょう。
手数料ビジネスの拡大の一貫として非常に納得感のあるサービスです。

このようにみていくと、貸出業務が儲からなくなっても他のサービスを提供できるメガバンクは地銀に比べると収益機会が残っています。
今回のサービスは、地銀の悩みを的確につかんだ、よく考えられたサービスだと筆者は評価しています。