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株式市場暴落時に忘れてはいけないオルタナティブ投資の落とし穴とは

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連日、株価が暴落しています。

このような環境下では、 リスクを低減するために資産を分散させた方が良いと考える投資家は存在するでしょう。

その際には、伝統的な資産 (株式、債券)だけではなく、出来るだけ株式市場に影響されないような資産へ投資したいというニーズもあるでしょう。

今回は、株式市場からの影響を受けにくいとされるオルタナティブ投資について簡単に見ていくことにしましょう。

 

オルタナティプ投資とは

まずは、オルタナティブ投資とはどのようなものでしょうか。以下定義を確認しましょう。

伝統的な投資対象である株式、債券と相関しないとされる一連の運川対象に投資すること。
具体的にはヘッジファンド・商品ファンド・不動産などがそれにあたり、従来にない資産に代替する(=オルタナティブ)という意味でこの名称が使われている。
(出所 野村證券証券用語集)

オルタナティブ投資とは、上記の通り、株式・債券と値動きがあまり関連しない資産への投資をいいます。
ヘッジファンド、デリバティブ、保険、原油、金(ゴールド)、不動産、仮想通貨(暗号資産)、美術品、クラシックカー、高級時計、ワイン等への投資はいずれもオルタナティブ投資と呼ばれます。

従来にない資産への代替投資という意味で、「代わりの」「代替の」という意味のオルタナティブ(alternative) という用語が使われています。

 

オルタナティブ投資のメリット

オルタナティブ投資のメリットは、伝統的な資産である株式や債券とは異なる値動きをするということです。 以下の記事が参考となるでしょう。 

資産運用の基本は、資金を複数の金融商品に分けて投資することでリスクを分散する「分散投資」です。よく用いられる例え話として、「卵を1つのかごに盛るな」というものがあります。
全ての卵を1つのかごに入れてしまうと、かごを落とした時に全部割れてしまうので、 複数のかごに分けて入れることで、1つかごが落ちても他のかごの卵が割れないようにしましょう、という話です。 同じように、資産も1つに集中せず、いくつかに分けて投資することでリスクを分散させることができます。
従来は、資産を株式と債券に分け、また投資地域を世界各地に分散することで、この「分散投資」を実現するのが一般的でした。しかし、グローバル化が進み世界の各地域の証券市場が同じ動きを見せるようになったため、この手法では以前ほど分散効果を得られなくなりました。
そこで、市場の動きにあまり反応しない資産に注目が集まり、これらの資産に投資することで高い分散効果が得られることが知られるようになったのです。

(出所 クラウドクレジット Web サイト/いまさら聞けない!株・債券に代わる「オルタナティブ投資」とは?個人投資家の新しい投資オプションとして注目)

まさに、グローバル化が進み、 世界各国の証券市場が似たような動きを見せるようになったからこそ、オルタナティブ投資は注目されるようになりました。

この運用手法は様々な投資家が取り入れており、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も同様に取り組んでいます。
GPIFは、基本ボポートフォリオ上、オルタナティブ資産の上限を資産全体の5%とした上で運用しており、2019年3月末時点の時価総額は4,327億円(積立金全体に占める割合は0.26%)となっています。

GPIFの具体的な投資対象は、2019年3月時点で、不動産へ1,249億円、インフラ(風力発電等)へ1,488億円等の投資を行っています。

 

オルタナティブ投資の注意点

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(出所 ビクテ投信投資顧問Webサイト/実践的基礎知識 オルタナティブ編(6))

この図表を見れば分かるように、オルタナティブ投資といっても証券市場の影響を受けるということには留意が必要でしょう。
伝統的な資産と動きが異なっているのは金(ゴールド)と日本国債ぐらいです。

例えば不動産投資である日本のREITであったとしても、日本株式との相関は 0.57(1に近いほど同じ動きをする)となっており、相応に影響を受けます。

グローバル化が進展してきたということは、 各国の投資家が、母国の証券市場のみならず、世界中の証券市場へ投資が可能ということです。そして、投資対象も金融商品化が進んでいるのです。(例えば、不動産もREITという器が出来たことで、証券市場の影響をさらに受けやすくなりました)

 

原油について

OPECと非OPEC産油国の会合、通称OPECプラスにおいて、産油国が協調減産の拡大で合意できなかったことを発端にして、原油価格が足元で急落しています。

この原油は一見すると株式等とは関係がないように思えますが、以下の通り株式とは同じような動きをします。

2007年以前の時期を振り返ると、原油先物価格と株式、債券、通貨との間には、相関はほとんど観察されませでした。一方、2008年から2010年にかけては原油先物価格と株式との間に正の相関が、 債券価格との間には規則的ではないものの、 負の相関(逆相関)が観察されています。また、米ドルとの間にも、2007年後半以降、現在に至る期間の大半を通じて、逆相関が見られます。

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(出所 ビクテ投信投資顧問Webサイト/原油価格を知る~変動要因(6) : 金融市場)

株式相場が暴落しているからといっても、オルタナティブ投資として原油を選ぶと、想定とは異なり証券市場に大きく影響される可能性はあるのです。
(現在はOPECプラスで合意が出来なかったこと、サウジアラビアの増産意向を理由に急落しているものと思われますが)

 

金融市場の混乱時

リーマンショックのような金融市場の混乱時には、通常であれば分散効果があるはずの資産への投資であったとしても一時的に各資産間の相関が高まることが示されています。

現在の「コロナショック」はこの可能性があることも留意しておくべきでしょう。

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(出所 ビクテ投信投資顧同Webサイト/各資産間の相関の変遷)

 

所見

長く続く金融機和により世の中にはお金があふれています。
このあふれる余剰資金は様々な経路を辿り、様々な資産へ投資されています。中央銀行バブルと呼ぶ方もいらっしゃると思いますが、この緩和環境によって、各国の国債利回りは低下しています。そして株式市場も上昇してきました。

この環境下では、カネ余りのため、オルタナティブ資産へも多くの投資資金が流れています。

投資資金がここまであふれていると、オルタナティブ投資は期待されていたよりも分散効果が薄れている可能性があります。本来であれば伝統的な資産である株式・債券とは異なる値動きを期待されていたはずなのに、行先がない余剰マネーがオルタナティブ資産にも流れ込んでいるのです。

オルタナティブ投資については、本当に伝統的な資産と相関性が薄いのか(ヘッジが効くのか)、収益性はどうか、今一度、自分の目で確認してみることが必要かもしれません。

また、前述のように金融市場の混乱時には一時的に各資産が同じ方向へ動く傾向が過去には見られました。
この点については注意しておく必要があるでしょう。思わぬ落とし穴になってしまうかもしれません。

「同じかごに卵を入れていなかったはず」だったのに、実は全てのかごが、ヒモで結ばれてつながっていた、なんてことがあるかもしれません。