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三菱UFJ信託銀行の豪州資産運用会社買収の難しさ

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三菱UFJ信託銀行がオーストラリアの資産運用会社を買収すると発表しました。国内金融機関による海外の資産運用会社の買収では過去最大規模となります。

今回は、この買収について簡単に考察します。

 

報道内容

本件買収については、三菱UFJ信託銀行のプレスリリースよりも日経新聞の記事の方が分かりやすいと思います。以下、日経新聞の記事を引用します。

豪運用会社 3000億円で買収
2018/10/31 日経新聞

 三菱UFJ信託銀行はオーストラリア最大手銀行、コモンウェルス銀行(CBA)傘下の資産運用会社を買収する。総額は約3000億円とみられ、国内金融機関による海外運用会社の買収では過去最大級だ。買収後の運用残高は国内で首位となる。国内では低金利が続く中、海外での資産運用を強化して成長分野での競争力を高める。
 CBAグループの「コロニアル・ファースト・ステート」から複数の主要子会社の全株を取得する。買収手続きは2019年度半ばにも完了する予定だ。
 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の資産運用は三菱UFJ信託銀行が中心に担っており、運用残高は約70兆円。今回の買収でコロニアルの約20兆円が加わり、90兆円規模に膨らむ見通しだ。国内では三井住友トラスト・ホールディングスなどを抜いて首位となる。
(以下略)

今回の買収により三菱UFJ信託銀行は資産運用会社として国内首位の座を固めることになります。

 

買収のメリット

資産運用会社もしくは運用会社とは、そもそも、どのような事業を行う会社でしょうか。

定義は以下の通りです。

運用会社とは、投資信託の運用の指図を行う会社のことで、投資信託会社、投信会社などとも呼ばれています。
運用会社では、投資信託を開発したり、運用の際の売買の指示、投資判断などを行い、投資信託の決算ごとに運用報告書を発行します。
投資信託は、運用の指図を行う運用会社の他、商品を販売する販売会社(証券会社など)、資産を預かり売買を実行する信託銀行が主体となって運営されています。

(出典 SMBC日興証券)

資産運用会社は、投資家から資産を預かり、投資家のために、投資家に代わって資産運用を行います。

報酬は基本的に運用資産額に対して固定料率(○%)となります。ヘッジファンドのような成功報酬を採用しているところは少ないと思われます。そのため、運用資産額という規模を拡大していくことが、収益の向上につながります。(もちろん、先端的な運用手法を採用し高い報酬率を享受可能な商品を組成することで収益向上を果たす方法もあります。)

現在の報酬体型では、資産運用会社は規模拡大によって効率化も果たし、収益を向上させる傾向にあるのです。

また、三菱UFJ信託銀行にとっては、運用商品のラインナップの充実という観点でも今回の買収は有効でしょう。

三菱UFJ信託銀行(他の信託銀行も同様)は、資産運用会社であり、販売会社でもあります。運用商品を年金基金であったり地域金融機関、一般事業法人等に販売しています。他社から運用商品を買って来ることもありますが、自分たちで商品を充実させることが出来れば(また人気商品ならば独占販売出来れば)、競合販売会社との差異化につながるでしょう。

これが、三菱UFJ信託銀行の買収の狙いです。三菱UFJ信託銀行の買収戦略自体は、方向性としては正しいと言えるでしょう。

 

本件買収の留意点

資産運用会社を買収する三菱UFJ信託銀行の方向性は正しいと筆者は認識しています。しかし成功は簡単ではないと考えています。

これは、何もM&Aで失敗が多いということを指摘したい訳ではありません。

資産運用会社というのは「特殊」なのです。

例えば、同じMUFG傘下の三菱UFJ国際投信のバランスシートを見てみましょう。

2018年3月期決算では、総資産1,008億円の内訳は、現預金541億円、投資有価証券263億円が主なものです。一方で純資産は833億円となっています。

(https://www.am.mufg.jp/corp/koukoku/zaimu.html)

資産運用会社は、基本的に営業のための資産は必要ありません。システム以外はバランスシートに乗らない「人」「運用ノウハウ」「ブランド」が資産なのです。

すなわち、資産運用会社を買収しても、その会社にあるものにはほとんど価値はありません。価値があるのは特に「ブランドと人」です。

もし、運用会社を買収しても、その運用会社を特徴付けていた運用チームが全員いなくなってしまえば、運用会社自体の価値は低下するのです。

運用会社を買収するということは、マネジメントが何よりも重要です。優秀なファンドマネージャー等は簡単に他社に移籍出来ます。

日本の雇用形態で育った銀行員が、異なる価値観を持つ資産運用会社のプロフェッショナル社員を惹きつけておけるでしょうか。長らく国内貸出を中心の柱として運営してきた信託銀行に海外の資産運用会社をマネジメント出来るのでしょうか。

ここに資産運用会社を買収する難しさがあると筆者は考えています。三菱UFJ信託銀行の挑戦に注目したいところてす。