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Amazon.comの2018年3Q決算は「期待外れ」なのか

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Amazon.com(以下Amazon)の株価急落がニュースとなっています。

2018年10月26日には株価が約8%下げ、時価総額が米マイクロソフトに逆転され米国3位になりました。

この株価はAmazonが発表した2018年12月期第3Qの決算の影響とされています。

今回はAmazonの決算内容を確認し、株価急落の要因について考察してみましょう。

 

報道内容

まずは、Amazonの株価・決算についてどのような報道がなされているのか、確認しておきましょう。以下、日経新聞から引用します。 

アマゾン株8%安、マイクロソフトが時価総額で再逆転
2018/10/27 日経新聞

26日の米株式市場で、アマゾン・ドット・コム株は8%近く下落した。前日夕に発表した7~9月期決算で売上高が市場予想に届かず、投資家の失望売りが広がった。アマゾン株の急落を受け、マイクロソフトが時価総額で米第2位の座に返り咲いた。アマゾンの時価総額は9月に節目の1兆ドル(約112兆円)を突破した後は、下落基調が強まっている。
アマゾンが前日示した10~12月期の売上高見通しも市場予想を下回り、成長鈍化への懸念が急速に強まった。同社は26日の取引だけで、700億ドル近い時価総額を失った。アマゾン株の約16%を保有するジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)の資産も、一日で110億ドル程度目減りしたことになる。
アマゾンとマイクロソフトの時価総額は今年前半に逆転し、アマゾンはアップルに次ぐ米企業の時価総額2位に躍り出ていた。アマゾンとは対照的に、マイクロソフトが24日発表した7~9月期決算は売上高と純利益がともに市場予想を上回った。アマゾン株が週間で7%下げた一方、マイクロソフト株の下げは1%台にとどまり、時価総額の再逆転につながった。

Amazonの7~9月期決算は、売上高が市場予想に届かず、投資家の失望売りが広がったとされています。また、10~12月期の売上高見通しも市場予想を下回り、成長鈍化への懸念が急速に強まったとも報道されています。

ではAmazonの決算はどのようなものだったのでしょうか。

以下で確認してみましょう。

 

Amazonの2018年3Q決算

Amazonの業績はそんなに悪いのでしょうか。

まずは売上高の推移を見てみましょう。

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このグラフを見ても分かるようにAmazonの売り上げは規模が大きくなった現在でも驚異的なスピードで伸びています。前年同期比(四半期比較)で29%の増収です。ドル円を110円で計算すると、Amazonの2018年7~9月(=3ヵ月)売上高は6.2兆円です。すなわち年間換算(当該四半期売上高を単純に4倍)すると25兆円弱となります。

トヨタ自動車の2018年3月期(通期)の売上高は29兆円強です。前期比+6.5%の増収でした。ただし、この決算期では連結販売台数は▲0.1%となっています。すなわち、増収分は売上台数増ではなく為替等の要因によってなされたものとも言えます。

トヨタ自動車と比べるとAmazonの驚異的な成長スピードが分かるのではないでしょうか。

以下の図表も見てください。 

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TTMとは、直近四半期までの1年分の業績のことです。したがって、Q3 2018と記載のあるグラフはQ4 2017、Q1 2018、Q2 2018、Q3 2018の業績の合計となります。

このグラフを見る限り、Amazonの順調な規模拡大が分かるのではないでしょうか。

そして特筆すべきはAmazonの売上の61%が北米であるということです。すなわち、まだ米国外は伸びしろがあるとも言えます。

また、Amazonの特徴としては、利益を追求せず、まずは規模を拡大しているとお聞きになったことがある方もいるでしょう。

次に利益を確認しておきましょう。

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Operating income、いわゆる日本における営業利益ですが、こちらも近時は増加しています。特にAmazonはAWS(いわゆるクラウドサービス)が伸びています。

セグメント毎の売上高と利益についても確認しておきましょう。

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北米の売上高は前年同期比35%の増収となり、大幅な増益となりました。AWSも好調です。一方で、海外(北米以外)は増収幅が13%と北米に比べると少ない状況にあります。

アナリスト等は、この海外の売上成長をより期待していたと思われます。加えて、11月には人手確保のために米英の従業員の賃上げに踏み切るほか、配送費も日本を含め世界中で上昇していることから、主力のネット通販事業では今後、コスト増による利益率の低下が避けられないとの見方が大勢を占める(日経新聞)とされています。

このように海外事業の減速および今後のコスト増を懸念し、Amazonの株価が急落したのでしょう(後付けの解釈となりますが)。

 

まとめ

しかし、Amazonの業績はそこまで「ダメ」なのでしょうか。

以下のグラフを見てください。

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Amazonのフリーキャッシュフローは着実に、そして大幅に増加しています。

事業で重要なのは究極的には売上でも利益でもなく、キャッシュフローです。現金が獲得できる事業が強く、生き残ります。

Amazonのキャッシュフロー創出能力はすさまじいスピードで成長しています。現時点でAmazonに懸念点はありません。むしろマーケットが「Amazonへ過剰な期待をした」、もしくは「株に資金が流れ込み、後付けで成長期待を膨らませた」ということなのではないでしょうか。

Amazonの成長は驚くばかりです。筆者は先行きを読む能力はありませんが、少なくとも足元の実績は驚異的です。もし、Amazonの株価急落がAmazonの業績によるもの、すなわちAmazonに「陰り」が見えたという認識を報道を見てお持ちの方がいるのであれば、事実とは若干異なるのかもしれません。