銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

もうそろそろ銀行の働き方を見直した方が良い理由

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日本銀行が開催した金融高度化セミナー「金融機関の働き方」の講演要旨が公表されました。

この講演では、人事制度や働き方について、銀行員のみならず企業で働くビジネスパーソンにとって有用な示唆がなされています。

今回はこの講演の一部を取り上げ、働き方について考察しましょう。

 

セミナー概要

このセミナーは、日本銀行 金融機構局 金融高度化センターによるもので2018年7月25日に開催されました。

セミナーでは、働き方の変革に取り組んできた金融機関の実務家による講演およびパネル・ディスカッションを行い、労働生産性を向上させるための働き方、働きがいや働きやすさ、顧客視点をもった働き方、人事慣行の課題について討議を行っています。

今回はこのセミナーの中で、日本銀行 金融機構局 金融高度化センター 企画役が語った内容に焦点をあてます。

筆者としては非常に納得感のある論旨であり、是非とも銀行員のみならず企業で働く全ての方に読んで頂きたい内容でした。

以下で、講演要旨を抜粋して引用していきます。

 

講演要旨

以下は上述の金融高度化セミナー「金融機関の働き方」において日本銀行 金融機構局 金融高度化センター 企画役の講演部分を抜粋したものです。

 

金融機関の「働き方」を取り巻く環境認識

(共働き世帯の増加を前提とした働き方の再設計)

金融機関の「働き方」を取り巻く環境のうち、過去から大きく変化した点は、これは日本企業の多くが直面している問題でもあるが、日本の、戦後定着してきた、「昭和的な」働き方が、制度疲労を起こしていることである。日本の戦後の働き方は、「メンバーシップ型雇用」、すなわち、定年までの雇用を保障する代わりに、職務内容、転勤、長時間労働は無限定という働き方だった。
この制度の前提には、専業主婦の存在、家庭を守ってくれる女性の存在があった。しかし、専業主婦世帯と共働き世帯の推移をみると、いまや共働き世帯が圧倒している。金融機関は、他の日本企業同様、共働き世帯が働きやすいように、働き方のあり方を再設計しなければならない。

(労働市場における競争激化)
次に、金融機関が、現在直面している環境は、労働市場が、企業にとっては非常に厳しい、人手不足になっているということである。今年になって、金融機関から「新卒者のエントリー数が減った」という話をよく聞いた。メディアが、金融機関の大胆なリストラクチャリングや人口減少による収益性の低下の話題をすることで、新卒者からの金融機関の人気が失われているとのことである。また、金融機関の離職率も高まっている模様である。よく「3年で3割が離職する」という話があるが、今の若い人たちは3年も我慢すれ
ばいい方で、1年未満で見切りをつける人も多いと言われている。こうしたなかで、優秀な人材を採用して、繋留していくためには、金融機関は自らの働き方を魅力的にしていかなければならない。

(デジタル化の進展)
そして、実際にデジタル化は進行している。定型業務は、RPA(デジタルレイ バ ー : Robotic Process Automation ) や AI( 人 工 知 能 : Artificial Intelligence)により代替されていく可能性が高い。金融機関は、業務の手順
がルール化されているため、RPA と親和性が高い。また AI 技術に関しても、金融機関は、AI 活用の基礎となるデータが豊富にあるため、「AI を適用できる範囲が広いのではないか」という見方もある。金融機関がデジタル化に真剣に対応すれば、定型業務は職員が行う必要がなくなり、それにより捻出された人員をどう活用するのかが、金融機関が取り組むべき課題となるだろう。

(金融機関の基礎的収益力の低下)
金融機関の基礎的収益力の趨勢的な低下も、金融機関の働き方を変革させる大きなポイントになっている。なぜなら、それは、これまでの働き方を続けていては、十分な収益が得られないことを表しているからである。従来、金融機関は、預金と貸出の利鞘で収益が確保できていた。したがって、数値目標により貸出・預金を積み上げていくことが、収益を確保するための最大の手法であった。しかし、現在の収益環境のもとでは、他の産業と同様、「どうしたサービスを提供すれば、顧客は対価を支払ってくれるのか」を考えて、
顧客のニーズを汲み取らなければならなくなっている。金融機関は、顧客のニーズを汲み取り、イノベーションや創意工夫が生まれやすい働き方に移行することで、自ら提供するサービスを、今の時代の顧客にあったものに変化させていく必要がある。

金融機関の「働き方」についての課題提示

(「働き方」デザインのために)

以上の環境認識を踏まえ、金融機関の働き方の課題を4つ提示したい。金融機関の「働き方」をデザインするために、是非考えてほしいことである。

①「労働生産性向上」を意識した働き方
生産年齢人口の減少や労働市場の競争激化など、潤沢に人手を確保できないことを前提にすると、RPA や AI 技術を導入し、また不要な作業は極力廃止するなど、定型業務の圧縮が必要となる。しかし、ここで終わると、単なる業務効率化、残業削減運動に止まってしまい、職員のモチベーションは下がり、収益力も一段と低下する可能性がある。職員のモチベーションをあげるべく、新規事業に投資することや、職員に研修などで新しい知識を学ぶ機会を与えることにより、付加価値の向上に取り組まなければならない。

②「働きやすさ」向上を意識した働き方
共働きの世帯があたり前になっているなかで、家事を分担して行なっている夫婦が働きやすい環境を構築するために、また、時間制約のある育児中の女性や介護負担のある中堅職員が参画しやすい環境を構築するために、長時間労働があたり前の環境を見直さなければならない。また、長時間労働をしている職員を高く評価する人事評価のあり方をやめなければならない。長時間労働をリスペクトしない環境を構築する、そしてテレワークを行える環境をつくる、こうしたことが働きやすい環境整備の第一歩と考えられる。

③「働きがい」や「エンゲージメント」の向上を意識した働き方、人事慣行の見直し
「働きやすさ」の提供だけでは、働くことの阻害要因(衛生要因)、マイナス要因を除去するのみであって、企業の付加価値の上昇、プラス要因をもたらすためには、職員の「働きがい」を高める必要がある。また、「エンゲージメント(企業と従業員の相互理解)」の向上が収益力向上につながるとの研究結果もある。収益力向上のためには、過度な年次管理、過度な減点評価主義、「総合職と一般職」という職種の区分など、職員の働きがいやエンゲージメントの向上を阻害している可能性がある人事慣行を見直す必要がある。

④「顧客視点」をもった働き方
金融機関は、他の産業と同じく、顧客との接点を増やし、顧客のニーズを汲み取り、そのニーズをデザインして商品やソリューションを提供する、そのようなあたり前のことが求められる時代になってきている。そうしたなかで、金融機関の働き方は、内部管理事務や組織内の調整に多くの時間を割いており、顧客と向き合う時間を減らしている。また、経済環境にそぐわない数値目標を設定し、金融機関都合の商品やソリューションを販売することで、顧客が真に必要な商品やソリューションを提供できていない可能性がある。
そして、金融機関は、イノベーションや創意工夫により、顧客が必要とする商品やソリューションを提供しなければならいないが、ジェネラリスト志向の強いローテーションが、専門性を軽視させ、イノベーションや創意工夫を生み出しがたい土壌を作っている。こうした働き方のありかたを、顧客視点の観点から見直す必要があると考えられる。

(出典 日本銀行ホームページ https://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/rel180808a.htm/)

 

所見

筆者はこの講演要旨を読んで非常に感銘を受けました。民間銀行ではない日本銀行の職員が、このような分析をしていることに驚きを感じています。

ここまで的確かつコンパクトに、民間銀行の人事制度、企業風土、働き方等の問題を示した講演や文章を筆者は知りません。

まさに、銀行員の働き方に関わる人事制度等は制度疲労を起こしています。少なくともこの10年で、銀行員のみならず、多くの会社員を取り巻く環境や考え方は変わりました。

間違いなく労働人口が減少していく将来において、長時間労働(加えて転居を伴う人事異動)は適合しません。

RPAやAI技術は銀行の「膨大かつ非人間的な」定型事務を削減するでしょう。

銀行の働き方は、内部管理事務や組織内の調整に多くの時間を割いており、顧客と向き合う時間を減らしているという指摘はその通りです。

過度な年次管理、過度な減点評価主義、「総合職と一般職」という職種の区分など、職員の働きがいやエンゲージメントの向上を阻害している要因は、いくらでも人材を採用できる時代でなければ成り立ちません。また、イノベーションは生まれ難いでしょう。

すなわち、「すぐそこにある未来」に現状の働き方は合っていないのです。今のままなら、優秀な人材は集まらず、去っていくでしょう。お客様にも支持されません。

今回のセミナーの内容は銀行員のみならず企業で働く多くの方が感じてきたことなのではないでしょうか。

銀行という器を残していくために、銀行の経営者も人事部も是非とも検討してほしいと思います。

(もちろん、様々な反論があることは承知していますが、それでも「変わる」必要があることには異論がないでしょう)