銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

金融庁の2018事務年度「金融行政方針」のポイント

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金融庁が2018事務年度の金融行政方針を公表しました。

この行政方針は金融庁の課題・問題認識を反映したものであり、実際にどのように金融機関が「指導」されていくか、規制がどのようになっていくかの指針となります。

現在、銀行業界では「スルガ銀行」の問題がクローズアップされています。銀行業界の今後の動向を見極めるためにも、金融庁の行政方針を確認していきましょう。

 

報道内容

まずは、金融庁の行政方針公表における速報記事を確認しておきましょう。概要が把握出来ると思います。

金融庁、投資用不動産の融資審査を点検 金融行政方針を公表
2018/09/26 15:00 日経速報ニュース

 金融庁は26日、2018事務年度(18年7月~19年6月)の金融行政方針を公表した。アパートやマンション、シェアハウスなどを対象にした投資用不動産向け融資の実態調査の実施を盛り込んだ。融資の審査や管理体制の実態を把握する。金融機関や不動産業者が関与した入居率や賃料、顧客財産・収入状況などの改ざんといった顧客保護の観点から問題があるケースが発生したことを受け、金融庁は対応に乗り出した。

 同方針のなかで金融庁は、過半数の地域金融機関が本業利益(貸し出し・手数料ビジネス)が赤字だと指摘。経営陣による適切な経営戦略の策定・実行と取締役会などによるガバナンスの発揮が重要だとしている。

(以下略)

このように今回の行政方針では、投資用不動産向け融資や地方銀行の存続についての問題意識が反映されています。

 

金融行政方針の位置付け

金融行政方針の内容を確認していく前に、そもそも行政方針がどのようなものかについて、簡単に確認しておきます。

以下は金融庁ホームページの引用です。

金融庁では、平成27事務年度より、金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向け、いかなる方針で金融行政を行っていくかを、毎事務年度ごとに「金融行政方針」として公表してきました。この「金融行政方針」に基づく行政を実施するとともに、その進捗状況や実績は、分析や問題提起とあわせ、「金融レポート」として公表しています。レポートの内容は、翌事務年度の金融行政方針に反映してきており、PDCAサイクルに基づく業務運営が定着してきています。

 本事務年度においては、PDCAサイクルに基づく業務運営を強化する観点から、従来の「金融レポート」と「金融行政方針」を統合し、「変革期における金融サービスの向上にむけて~金融行政のこれまでの実践と今後の方針(平成30事務年度)~」として公表することとしました。

 

行政方針の内容

では、金融庁の行政方針の具体的な内容を見ていきましょう。

以下は行政方針において筆者がポイントと考える点をは抜粋しています。

 

【顧客本位の業務運営の確立と定着】

  • 投資信託等の販売会社においては、投資信託の平均保有期間が短期化。営業現場では期末の収益目標を意識したプッシュ型営業の可能性
  • 金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用を行う全ての金融機関における顧客本位の業務運営の浸透・定着に向け、金融機関の取組みの「見える化」の促進が課題

【地域金融機関】

  • 地域銀行は、足元では役務取引等利益の増加によって本業利益率は下げ止まっているものの、過半数の54行で本業利益(貸出・手数料ビジネス)が赤字(うち52行が2期以上連続赤字)。連続赤字の地域銀行が年々増加。本業赤字をカバーしていた公社債等の含み益は減少
  • ビジネスモデルの持続可能性や、有価証券運用のリスクテイク等に課題を抱える地域銀行をみると、経営戦略等を着実に実施できる態勢の構築、リスクテイク領域・上限の設定やガバナンスの発揮などが不十分な先が存在

【大手銀行グループ】

  • 我が国の金融システムは総じて安定し頑健性を備えているものの、収益力は低下傾向
  • 緩和的な金融環境の下、リスク性資産価格の上昇やリスク選好の高まりが見られ、グローバルに収益追求行動によるリスクが蓄積
  • 海外業務が拡大する中、新興国を含む内外経済・市場環境の急激な変化への対応や安定的な外貨調達に向けた取組み等が課題

【投資用不動産向け融資】

  • アパート・マンションやシェアハウス等を対象とした投資用不動産向け融資については、①金融機関・悪質な持込不動産業者双方が関与した、入居率・賃料、顧客財産・収入状況の改ざん、②抱き合わせ販売といった、顧客保護の観点から問題ある事例が発生
  • 不動産価格が相対的に高額に設定され顧客が過大な債務を負うケースや、空室率の上昇・賃料の低下により顧客が返済不能となるケース、その結果金融機関において損失が発生するといった信用リスク管理上の問題が存在

以上が筆者が考える行政方針のポイントです。

 

所見

以上で確認してきたように、金融庁の課題認識の主なものは以下になります。

  • 顧客本位の業務運営が確立されていないこと
  • 特に投資信託等の期末押し込み販売に問題を感じていること
  • 地方銀行の持続可能性に危機感を引き続き持っていること
  • 大手銀行に対しては海外業務について問題意識を持っていること(リスク管理、外貨調達等)
  • 投資用不動産向け融資について項目を追加し、顧客保護と共に信用リスク管理について課題認識を持っていること

このポイントについては(他にもデジタル対応、フィンテック等ありますが)、金融庁が重点的に銀行と対話を行い、検査し、対応していくことになります。

銀行員にとっても、株主にとっても、もちろん銀行の利用者にとっても、今後の動向を注視していくべきポイントでしょう。

なお、筆者としては投資信託の押し込み販売は本当に止めた方が良いと考えています。来るべきフィンテック時代を見据え、これ以上、個人のお客様の銀行離れを押し留める必要があるのではないかと思う次第です。