Facebookの株式時価総額が急落したことがニュースになっています。
一日にして、Facebookの時価総額が10兆円以上下落しました。
10兆円といえば日本の時価総額2位のNTTドコモ、NTT(日本電信電話)、ソフトバンクグループの時価総額に近い数字です(2018年7月27日時点)。
トヨタ自動車は時価総額が24兆円程度ですから、日本の上場企業はトヨタを除くと、今回のFacebookの時価総額の「下落幅」を超える時価総額の企業は無いことになります。
今回は、この株価の下落について簡単に考察してみましょう。
報道内容
まず、Facebookの株価下落についての記事を確認しておきましょう。以下引用します。
フェイスブック株19%安、時価総額13兆円減 米企業で下げ幅最大
2018/07/28 日経新聞
26日の米国株式市場でフェイスブック株が前日比19%安となり、時価総額は1日で1194億ドル(約13兆円)減った。米メディアによると米国の上場企業の1日の時価総額の下げ幅としては過去最大となった。25日に公表した2018年4~6月期決算が市場の予想に届かず、経営陣が成長鈍化の見通しを示したことも嫌気された。
フェイスブックは25日の取引終了後に決算を発表した。25日の取引時間中に同社株は上場来高値を更新。時価総額は終値ベースで6298億ドル(約69兆円)に達していただけに反動が大きくなった。26日にフェイスブックが失った時価総額は、日本のソフトバンクグループ1社分(約10兆円)を上回る。
米CNBCによると、時価総額が1日に1000億ドル以上減った上場企業はフェイスブックが初めてという。これまで最も大きい下げ幅は、2000年9月22日の米インテル株で907億ドルだった。直近では13年1月に米アップルが1日で600億ドル近く下落した。
(以下略)
これが今回のFacebook株価下落についての報道内容です。
時価総額13兆円程度が減少したというのは、記事にある通りソフトバンクグループの1社分の時価総額を超えていますし、前述の通りNTTドコモ1社分をも超えています。
なお、銀行業界ではMUFGの時価総額が9.6兆円(日本で時価総額5位)ですから、当然に一日でMUFGの時価総額を超えるFacebookの時価総額減少と言うこともできます。
下落幅と下落率
今回のFacebookの株価の一日の下落幅(額)は約13兆円となっており、 米企業では過去最大とされています。
13兆円もの「富」が失われたのですから、これは大ニュースだと感じるかもしれません。
確かに、Facebookの株価が急落した場合、様々な影響があります。
Facebookは時価総額が大きいため、様々な機関投資家、ファンド、投資信託等がFacebook株式を保有しているでしょう。
それらの投資家・株主が今回の下落で影響を受けているのは間違いありません。
それでも、筆者はこのFacebookの株価下落を、大きなニュースとして捉えるのは、あまり意味がないのではないかと考えています。
マスコミはインパクトの大きいタイトル、記事のストーリーを選びがちです。
しかし、株価について語る時には、基本的に「率」を基準とすべきです。
ソフトバンクの株価が10%下落したら、時価総額では1兆円が失われます。
しかし、時価総額5,000億円の会社の株価が50%下落しても1兆円の下落額とはなりません。
例えば、スルガ銀行の現在の時価総額は2,350億円程度です(2018年7月27日現在)。年初からだと、半分程度の時価総額になっています。
巨大企業の10%株価下落と、それよりは規模が小さい企業の50%株価下落と、どちらが会社にとって、そして株主にとって影響が大きいでしょうか。当然ながら、後者です。
時価総額の下落額は凄まじいインパクトではあるものの、Facebookの株価下落は「単なる」2割程度の株価下落なのです(2割もすごい割合ではありますが)。
値幅制限
ここで、一つの疑問が出てくるかもしれません。
今回は、Facebookの株価が一日に2割下落しましたが、そもそも、株価は一日にどの程度まで変動するのでしょうか。
日本の株式市場には値幅制限という仕組みがあります。
この仕組みについて、確認しておきましょう。
<値幅制限とは>
株価の急速な変動は、投資家に不測の損害を与える可能性があるので、これを防ぐために1日の呼び値が動く範囲(値幅)は前日の終値(最終気配値段を含む)から一定の範囲に制限されている。
制限値幅は価格水準によって異なる。その制限値幅の上限まで株価が上がるとストップ高、下限まで下がるとストップ安という。
(出典 野村證券ホームページ)
これが、日本の株式市場における値幅制限の仕組みなのです。
株価が基準額対比でどの程度変動することを許されているのかについては、以下の通りです。
基準値段 | 制限値幅 |
100円未満 | 上下 30円 |
200円未満 | 50円 |
500円未満 | 80円 |
700 円未満 | 100円 |
1,000円未満 | 150円 |
1,500円未満 | 300円 |
2,000円未満 | 400円 |
3,000円未満 | 500円 |
5,000円未満 | 700円 |
7,000 円未満 | 1,000円 |
10,000円未満 | 1,500円 |
15,000円未満 | 3,000円 |
20,000円未満 | 4,000円 |
30,000円未満 | 5,000円 |
50,000円未満 | 7,000円 |
70,000円未満 | 10,000円 |
100,000円未満 | 15,000円 |
150,000円未満 | 30,000円 |
200,000円未満 | 40,000円 |
300,000円未満 | 50,000円 |
500,000円未満 | 70,000円 |
700,000円未満 | 100,000円 |
1,000,000円未満 | 150,000円 |
1,500,000円未満 | 300,000円 |
2,000,000円未満 | 400,000円 |
3,000,000円未満 | 500,000円 |
5,000,000円未満 | 700,000円 |
7,000,000円未満 | 1,000,000円 |
10,000,000円未満 | 1,500,000円 |
15,000,000円未満 | 3,000,000円 |
20,000,000円未満 | 4,000,000円 |
30,000,000円未満 | 5,000,000円 |
50,000,000円未満 | 7,000,000円 |
50,000,000円以上 | 10,000,000円 |
(出典 日本取引所ホームページ)
この表にある通り、一日の株価変動の幅は、元の株価水準によって設定されています。
この値幅を設けておくことにより、投資家が突然の損失を受けることを抑止すると共に、相場の過熱・パニック売りを一旦クールダウンさせる効果があります(翌営業日に持ち越し)。
常時、マーケットを確認できないサラリーマン投資家等にとっては良い制度といえるかもしれません。
これが、日本における値幅制限の概要です。
世界の値幅制限
上記値幅制限は世界ではめずらしい制度と言えます。
まず、アメリカの取引所(ニューヨーク取引所、NASDAQ)には値幅制限の概念がありません。
ロンドン証券取引所、フランクフルト証券取引所、ユーロネクスト・パリ等にも値幅制限はありませんし、近隣だと香港取引所にも値幅制限はありません。
一方で、韓国証券取引所の値幅制限は30%です(2015年から15→30%に拡大)。
上海証券取引所・深圳証券取引所は10%(注意銘柄は5%)、台湾証券取引所は10%が値幅制限です。
値幅制限はアジアに多いということでしょう。
値幅制限がないということは、今回のFacebook以上の株価下落もあり得るということになります。(日本でも、±2割程度の株価変動であれば値幅制限にヒットしない可能性もあります)
例えば、2015年の香港市場における漢能薄膜発電集団(ハネジー・シン・フィルム・パワー・グループ)の株価下落は約47%でした。
このようなことは、世界のマーケットでは普通とは言えないまでも、起こりえることなのです。
まとめ
日本の株式市場(2018年7月27日)の値下がり率トップは、セプテーニ・ホールディングスでした。
この値下がり率は、▲21.25%です。
Facebookの今回の下落率よりも大きいのです。
このように2割程度の株価下落はあり得ないことではありません。
今回のFacebookの株価下落は、その「額」は大きかったとしても、「率」ではニュースになるほどのものではないのでしょうか。
筆者としては、非常に違和感を覚えた報道でした。