IT/フィンテック企業がデータを活用し銀行業務(の一部)に進出していく動きが加速してきています。
その中でも、データを活用し、銀行以外の企業が行う融資は「オルタナティブ(代替)・レンディング(貸出)」と言われるようになってきています。
今回はこのオルタナティブ・レンディング(その一分野であるバランスシート・レンディング、トランザクション・レンディング)が銀行に与える影響、及び今後の銀行の取り組みについて考察します。
報道内容
以下の記事はIT/フィンテック企業の融資(レンディング)業務における取組がまとまっていますので、引用します。全体像が把握できるでしょう。
データが導く金融大競争
2018/07/29 日経新聞
ネット上の膨大なデータを経済活動に生かす「データエコノミー」が融資のありようを大きく変えようとしている。楽天などのIT(情報技術)企業が日々の決済や口コミなどのデータから信用力を判断し、銀行を介さずに融資する事業に相次いで参入している。創業後間もない企業にも信用力に応じて融資する。銀行勢は協業を探り、新たな競争に身構えている。
(中略)
こうした融資を「データレンディング」と呼ぶ。人手をほとんど使わず、数百項目のデータを分析する。低コストなので少額融資でも採算がとれることもあり、創業直後の企業でも「門前払い」にしないのが特徴だ。一方、銀行など一般的な金融機関は融資に際して過去数年分の財務諸表や担保を求め、歴史の浅い企業は相手にされにくい。
融資の元手は余裕資金で、金利は年2~15%程度。経営者が自身の名義で消費者金融やカードローンで借り入れるよりも金利は低くなることが多い。担保や連帯保証人が原則不要なのも大きな違いだ。
00年代にメガバンクなどが試みた「スコアリング」と呼ぶ手法とも異なる。財務諸表の内容を点数化して融資を判断しようとしたが、実態をうまく捉えられず貸し倒れが相次いだ。データレンディングは借り手の日々の入出金や受注データまで幅広くとらえ、さらにAIの分析も加えるので、信用力をより精密に見定められるとされる。
リクルートホールディングスは17年8月に参入。旅行予約サイト「じゃらんnet」に登録する宿泊業者、情報サイト「ホットペッパー」を利用する飲食店や美容室が対象だ。こうした企業を資金面から支え、サイトの競争力を高める狙いがある。同サイトで確認できる売上高や予約件数、口コミを中心に評価する。宿泊業者の場合は設備の修繕や運転資金のために数百万円程度を貸し出すことが多い。
楽天も楽天市場の出店企業のほか、楽天カードの加盟店などにも融資している。手続きは初回を除けば数分で完了する。GMOインターネットは子会社のGMOペイメントゲートウェイが日々の決済データをもとに融資する事業を手掛ける。17年末の融資残高は十数億円に達し、海外展開も検討している。
先を行くのが電子商取引(EC)の巨人、米アマゾン・ドット・コムだ。11年に同社に出品する企業への融資を始め、英国や日本にも拡大。17年時点で2万社以上が利用し、融資額は累計で30億ドル(約3300億円)超にのぼる。米国ではキャベッジやオンデックなど独立系も台頭している。ECサイトやSNS(交流サイト)から販売や口コミのデータを集め、幅広い企業に融資する事業モデルだ。
データを活用し、銀行を介さない新型の融資を「オルタナティブレンディング(代替融資)」と総称する。個人間のオンラインでの貸し借りなども含め、17年に世界の取引規模は3800億ドルに達し、22年には2.6倍の9780億ドルに拡大すると独調査会社スタティスタは予測する。
地盤を切り崩される事態を避けようと、銀行勢は協業に動いている。みずほ銀行はソフトバンクと組み、AIを活用して携帯電話料金の支払いなどから信用力を見極めて個人に融資する事業を始めた。三菱UFJ銀行はAI開発会社に出資し、19年度にも中小企業向けのオンライン融資を始める予定だ。弥生もシステム開発・運用については横浜銀行、福岡銀行などの協力を得ている。米銀大手JPモルガン・チェースは一部の融資にオンデックの技術を利用している。
データレンディングの歴史はまだ浅く、信用力の見極めがどこまで正確なのかなど未知数の部分も残る。ただ、「銀行は大企業との取引に偏り、若い企業は資金繰りに苦労しがち」という日本特有の問題が解消に向かうなら、起業を活発化させ、成長力を底上げする可能性がある。
銀行以外の企業がサービスを行うオルタナティブ・レンディングが今後も拡大していくのは間違いありません。
以下で現在の状況をもう少し詳しく見ていくことにしましょう。
銀行以外の融資サービス
データを活用した銀行以外の融資サービスは、オルタナティブ・レンディングと言われるようになってきています。
その中で、バランスシート・レンディングと言われるのが、「事業者が自らの資金で貸し付けを行うこと」です。
米国等ではマーケットプレイス・レンディングという個人等の資金運用ニーズと他者の借入ニーズをインターネットで結びつける(したがって事業者はリスクを負わない)サービスも拡大傾向にあります。このマーケットプレイス・レンディングと対比してバランスシート・レンディングと呼ばれています。
上述記事にあるAmazonレンディングもバランスシート・レンディングです(そして、取引データを使うことからトランザクション・レンディングと言われているようです)。
銀行等既存金融機関の融資サービスとバランスシート・レンディングを比較した場合の違いは、ITを活用し受付、審査、貸出実行までのプロセスを自動化することにより低コスト・短期間で融資を行う点です。
米国におけるバランスシート・レンディングの大手には OnDeckやKabbageがありますが、ビッグデータを活用し審査を行っています。今まで借りることが難しかった中小企業も借入ができる場合があります。
審査方法のイメージとしては、例えば、借り手がAmazonなどのECサイトで販売しているなら、そのサイトの取引状況をチェックしています。これは完全に取引を把握されるようなものです。銀行口座での資金異動をチェックするよりも借り手の実態把握が可能でしょう。
さらに中小企業はクラウド会計を使っていることが多いため、クラウド会計サービスを提供する企業とも提携し、借り手の様々なデータを入手し審査しています。
これは、以前、日本の銀行が取り組んで失敗した決算書だけをみて貸出を実行するスコアリング融資とは比べ物になりません。
スピード、金利のみならず、借り入れを行うことが可能な企業・個人の対象者が圧倒的に拡大しているのです。
参考記事
以下メガバンクの取り組みについて考察した過去の記事を掲載します。
銀行は融資先企業・債務者の全部の情報を握ることはできません。
情報を得て、債務者の本来の信用力を把握するためには、他業態企業との連携が不可欠です。
Amazon・リクルートの貸金業参入についても以下記事を書いています。
このような取組は今後も様々な業態で拡大していくでしょう。
オルタナティブ・レンディングの市場は拡大するか
オルタナティブ・レンディング、とりわけバランスシート・レンディング市場自体はさらに拡大することは間違いありません。
上記の通りデータを活用すれば起業間もない、銀行が通常貸出をしない企業でも、ノンバンクからの借入条件よりも有利な融資を受けられる可能性がありますし、現時点では既存のほとんどの銀行は手を出していない領域だからです。
特に大手銀行はカードローン等小口金融については個人に注力する一方で、中小企業向けの小口融資は審査にかかるコストが効率的ではない等、費用対効果の面から積極的に取り組んでいません。
よって、バランスシート・レンディングはある程度の市場規模拡大を図ることは可能でしょう。
ただし、日本においてはバランスシート・レンディングの専業者が既存の銀行を脅かすまでの規模になることは非常に難しいでしょう。
理由は簡単です。
日本では貸金業法によって上限金利が15~20%(企業が利用する際には、金額規模からいって15%が実質的な上限)となっているからです。
融資を申し込んでくる企業の貸し倒れリスクに比し、金利が確保できないのです。
本当に優良な借り手は金利の安い(=預金で調達できる)既存の銀行から借入を受けてしまいます。
現時点では既存の銀行がリスクを取れない、もしくは(時間的・コスト的制約により)事業を銀行が理解できない企業しか、バランスシート・レンディングを利用しないのです。
一方、先述の米国のバランスシート・レンディング企業の貸出金利は30%以上となっています。これだけ金利が確保できていれば貸し倒れリスクはカバーできているのでしょう。
筆者としては、IT/フィンテック企業が単独で、もしくは銀行がIT企業等他業態と協働してバランスシート・レンディングを狙っていく動きは、今後も出てくると考えています。しかし、マーケットの拡大は既存銀行の顧客基盤を脅かすほどにはならず、新たな借主を相応の規模で発掘(拡大)することになるのではないかと考えています。
今後の想定
既存の銀行のうち、特に地銀は自社の顧客・マーケットが縮小していく影響を大きく受けます。
IT/フィンテック企業が狙っていくレンディングのマーケットは、既存の銀行が発掘できていなかった(もしくは、借入申込があったとしても対応していなかった)分野です。
この分野を新規領域として狙っていくのであれば、IT/フィンテック企業との連携が欠かせません。
筆者は、特に地銀ならば、弥生、マネーフォワードやfreee等のクラウド会計サービス業者を買収するぐらいのことをしても良いと考えています(もしくは、融資サービスを行う子会社を合弁で設立)。
銀行は入出金のデータしか得られませんが(そして銀行口座は他行にもあることが通常なのですべての資金の流れはつかめません)、クラウド会計ならば、決算書が出る前に企業の資金繰り動向を把握することもできますし、そもそも企業全体の資金繰りの状況が分かります。これならば、今まで融資の対象と出来なかった企業に対して低コストで分析を行うことも、融資を検討することも可能です。
一方で、IT/フィンテック企業側も現時点であれば、安定的に低コストで資金供給を行うことが可能な銀行との連携は魅力的な可能性があります。
ただし、独立性を保ちたいIT/フィンテック企業であれば、独自路線を追求するでしょう。
結果として、既存の消費者金融等のノンバンクのように、小口の実際の融資(個人向けもしくは中小企業向け)はノンバンクが実施し、銀行は効率性の観点からノンバンクに融資するにとどめる、という役割分担が、銀行とIT/フィンテック企業との間で成立する可能性も否定はできません。
融資というビジネスが、今後もあまり儲からない分野であるならば、IT/フィンテック企業は、余剰資金もしくは株主からの調達資金を他分野に投入し、外部からの安いコスト(=銀行借入)でレンディング資金を調達した方が、株主からの支持を得られると想定されるからです。
バランスシート・レンディング分野は、今後も要注目な分野です。
特に、貸出先の発掘に困っている地銀にとってはカバーすべき分野なのです。
(筆者は、メガバンク等の大手行は、クロスボーダーの商流ファイナンス等の方が有望だと考えています。もちろん、国内でも業務拡大を志向するならば、このようなオルタナ・レンディングにも取り組むというのは選択肢です。)
ただし、この分野は、既存の銀行を駆逐するというよりは、協業・協働・提携・買収等により銀行とIT/フィンテック企業との連携を強めるという方向に動いていくものと想定しています。