2018年7月に日銀主催のワークショップの議論内容が開示されました。
このワークショップではオープンAPIを議論しています。
ワークショップにおける自由討議内容は非常に示唆に富んだものとなっていますので、今回はこの自由討議内容を確認していきます。
ワークショップ
以下では、「ITを活用した金融の高度化に関するワークショップ(第3期)」第6回「オープンAPI」の模様について、日銀が公表した資料から抜粋していきます。
参加者の本音を掴める、自由討議要旨部分のみを取り上げることに致します。
<API開放の意義>
- オープンAPIにより既存の金融機関の役割が変わるのではないか。オープンAPIのメリットとして、「イノベーションの促進」があげられるが、その主体がFinTech企業であるとすると、金融機関は口座情報等を提供するだけの役割になり、黒子に徹することになる。こうした事態を避けるためには、金融機関が「プラットフォーマー」を目指すことが必要になると考えるが、実際にプラットフォーマーになれる金融機関はせいぜい10行であろう。「オープンAPI」が当たり前になる時代には、改めて、自行の役割や立ち位置を問い直すことが必要になるのではないか。
- 金融庁がオープンAPIを推進してきた目的は、一義的には革新的な金融サービスの促進であるが、金融機関自身がユーザの求めるサービスに真正面から取組むようにカルチャーや意思決定のあり方を見直すことにつながるという認識もあったと考えている。
- APIは道路に似ている。お金さえ払えば快適に走ることができる高速道路に例えられるものもあれば、無料で誰でも利用できる一般道路に相当するものもある。そして、FinTech業者だけでなく、APIを開放する側の金融機関もこの「道路」を利用する。オープンAPIも、道路の様に、用途によって仕様、ルールが決まってくるのではないか。
- 当社は、オンラインのデータを用いて、中小事業者向けの融資ビジネスを行っている。マネーツリー社が束ねるAPI経由で提供される入出金のデータを用いて、我々のアルゴリズムで判断して融資しているが、API開放がなければできなかったサービスである。
- 現在のAPIの利用は、家計簿管理や会計ソフト程度で、次の用途がなかなかみえないが、今後は我々のように与信に使う事例も増えてくるし、それ以外の用途も出てくるのではないか。金融機関のなかには、API開放に慎重な先もあるようであるが、いろいろなサービスがつながるからこそ、その銀行を使うのであり、「一般道路の扱い」にして、みんなに使ってもらうことのメリットを訴えていくことが必要であると思う。
- WEBでは昔から共通言語としてのAPIがあるが、他業界との連携はいろいろな可能性を秘めており、金融機関も同じ共通言語で他業界と話せるようになれば、ベンダー·ロックイン(特定ベンダーの独自技術に大きく依存した製品やサービスなどを採用した際に、他ベンダーの提供する同種の製品やサービスなどへの乗換えが困難になる現象のこと。)等の問題も緩和され、システムや運用係るコストも下げることができるのではないか。
- APIには以下の3つの利点があると考えている。①APIにより、システムをインフラレイヤーとプレゼンテーションレイヤーに分解することができ、それぞれを必ずしも同一ベンダーに発注しなくても済むようになるなど、「ベンダー·ロックイン」を気にせず、柔軟な構築の可能性が広がっている。②UX/UIを意識したアジャイル型の開発が可能になり、ユーザビリティに十分に配慮した設計が可能となっている。③銀行のDBが、勘定系を中心としたトランザクションデータに加え、顧客の振舞いに関するログも取得できるようになるため、Al等を駆使したマーケティング用途でのデータ活用が広がる可能性がある。
- APIは手段であり使うこと自体は目的ではない。APIで何ができるかを考えると技術論になってしまうが、発想を転換すると意外とアイデアだけは出てくる。
- オープンAPIは目的ではなく手段であるという意見に共感する。APIはあくまでビジネスを生み出していくための要素技術に過ぎない。各社でデジタルイノベーションに取り組んでいるが、AIチーム、ブロックチェーンチーム、APIチームのように分けるとビジネスが生まれにくい印象がある。目的と手段を取り違えないように、ビジネス視点で判断していくことが重要であろう。
- ITイノベーションを推進する選択肢としては、①自社でアプリ等を開発し内部APIでつなぐ、②FinTech業者と共同で開発する、③FinTech業者と連携する、の3つがあると思う。 ①はビジネスの自由度は高まるが、銀行の発想を脱するのが難しく、ユーザからみると十分なものとならない可能性がある。②はうまくいけばいいが、夢や方針が異なる場合に難しい場面もある。当行では複数の生体認証要素を活用した本人認証プラットフォーム事業がこれに該当するが、うまくいっている。③がまさにオープンAPIの話であり、銀行が手を出せないところに、FinTech業者がきめ細やかにユーザ視点で開発して連携するというものである。銀行の自由度は奪われるがコストはかからないし、守備範囲も広いというメリットがある。このうちどれを採用するのか、あるいは組み合わせるのかが、各行、FinTech業者の戦略に関わってくるところである。
- 当社は、家計簿アプリの提供から事業をはじめたが、当初は想定していなかった家計簿にとどまらないデータ交換ニーズが大きいことに気づき、データ交換を可能にするAPI提供プラットフォーマーを目指すようになった。
- 当社が提供するAPIでは、会計ソフト、銀行バックオフィス関連、クレジットカード等様々な業界のデータのニーズに応えているが、すでに40社が当社のAPIを利用しており、ここまで広がったということが、金融業界でAPIニーズが高い証拠であると思っている。
- APIのプラットフォームは金融機関にもメリットが多いのではないか。支店がなくなり事業戦略が必要といわれる時代に、今後、アプリ、ATM、AIスピーカーなど、どのようなチャネルや技術がメインになっていくかわからず、ユースケースが想定できないなかにあって、どのような状況にも対応できるよう柔軟な基盤を構築しアジャイルで対応できるようにしておく必要があるが、それがAPIであると思っている。
<システム整備面>
- 勘定系直結のオープンAPIでIB(インターネットバンキング)のアクセスを代替することについては、当行のベンダーへの支払い費用がトランザクション量によらない定額制であるため、IBのアクセスが減ったとしてもコストは下がらない。そのような問題もあり、どこまでAPIで機能を提供していくかは、十分に課題を整理しながら検討していきたいと考えている。
- 公開するAPIのすべてがマネタイズされるとは限らず、また、どこまで使われるかも未知数な状況で取り組んでいくためには、同時に内部のシステムをどう効率化するかという観点も、かなり重要である。クラウドを使うことも含めて工夫しながら、銀行ビジネスを変えていきたいと考えている。
- APIの整備はIT部門が投資判断をしなければならないが、最初から投資収益率を算出するなどマネタイズのレベルを示すことは難しく、基盤整備を行ううえでの投資判断は相当困難である。そこで、最初からオープンAPIを整備するのではなく、各個別のシステム開発のなかで内部構造を変えていくことにしており、機能を対外的に開放することも想定に入れつつ、再利用性を高め、デジタル化を促進する手段として内部API化を進めている。その結果として、内部で使っているAPIを、公開して外部でも使うことができるようにすることを目指している。このように工夫しながら、開発スピード、再利用性を高め、生産性をあげていくという観点も加味しつつ、基盤の整備を進めていければと考えている。
- オープンAPIに係る基盤をどう整備するかを考えた時に、現行システムの作りが本当に効率的にできているか考えざるを得なかった。内部システムの基盤の再構築を考えるよい機会となり、意識改革につながった。
<共同システム>
- 当社の経営戦略ではオープンプラットフォームを掲げており、関西も含め、地銀統合も戦略として進めているところである。資本提携をベースとした共同利用型のシステムを使っていくことで、業態全体のコストを下げるという面もあるが、今回のテーマであるオープンAPI基盤は差別化要素があまりないため業界標準的に提供していくことで、資本提携によらない基盤の共同化ということも銀行業界として考えていければよいと考えている。
- 信用金庫の多くは共同システムで勘定系を動かしているので、勘定系に近づけば近づくほど開発に際し制約条件が多くなる APIのオープン化もしんきん情報システムセンター(SSC)といった共同システムの運用というなかで行わなければならず、現在サービスが可能なのは、個人、法人ともに参照系APIのみで、残高照会、入手金の明細照会に限定されている。もっとも、SSCの共同システムの勘定系では更新系APIの余地が一切ないというわけではなく、APIに近いWeb on連携という事実上何でもできる仕組みがあり、この方法で電子稟議や窓口タブレットを運用している。この仕組みに触れるのは共同システムのベンダーであるNTTデータに限られる側面はあるが、機運が熟せば信金業界でもオープンAPIが不可能というわけではないと考えている。
<オープンAPIの活用例>
- 銀行としてオープンAPIをどのように活用していくかは、技術的な面からの活用方法ではなく、「地域金融機関としてお客さまとどのようにお付き合い、例えば、口座を持っていない高齢者に対するアプローチとして、スマートフォン経由のチャネルは無理であっても、家の中で使用している電化製品や見守りサービス用デバイスからAPI接続することはできないか、というように、どうするか。そのためにオープンAPIを活用できないか」という文脈で考えている。
- クラウド会計のfreeと業務提携しており、システム的な接続準備も終わっている。現在、改正銀行法に則った契約締結の詰めを行っているところである。なお、freeとの間では、お互い送客すると手数料を得られることになっているほか、振込データや顧客の財務情報を電子的に受信できるようになる予定である。将来的には、クラウド会計と連携させることで、スモールビジネスやスタートアップ向けファイナンス商品がつくれれば面白いと思っている。
<APIの課金>
- 金融機関にお願いがある。具体的には、他業界との連携で、参照系APIは無料の一般道路の扱いにしてほしい。これを有料にするのは、無料のATMを有料にするようなものであり、顧客本位になっていないのではないか。
- 銀行に無料でAPIを開放してほしいという声が聞かれる。無料で提供したいと考えているが、一方で、API接続基盤を提供しているベンダーが、コールされるたびに銀行から料金を徴収している事例もあり、そうした銀行側の事情も勘案して頂けると助かる。
- オープンAPIの課金制度は今後も議論の必要があると考えている。1社だけの問題ではないため、業界全体でどうあるべきかを考えていく必要があろう。
- 例えば、一律にAPI利用で課金するという考えではなく、一般の道路(一般的な使い方)には課金せず、拡張利用の希望がある場合(より一度に多くの情報を取得したいような場合には拡張分を課金する、といった考え方があってもよいと思う。
所見
当該ワークショップの自由討議は非常に示唆に富んだものになっています。
APIを共通の基盤として提供することが銀行業界にとって有用といえる可能性はあるでしょう。
一方で、APIに対応した銀行といえども、ただのAPI提供業者となる可能性も否めません。
銀行(API提供)とフィンテック企業の関係は、携帯電話のキャリアとMVMO(仮想移動通信業者、他社から無線通信インフラを借り受け、サービス提供)との関係に近いといえるでしょう。
そして、銀行(API提供)とフィンテック企業との関係は、更に、携帯電話のキャリアとAmazon、Google等サービス提供業者との関係となるかもしれません。
利益は、サービスを提供する企業に集中していく傾向にあります。
銀行は基盤の共通にデータを提供するだだけとなるかもしれません。
それでも銀行はAPIの提供を目指さなければなりません。近未来ではAPIを解放していなければ、銀行によって利用可能なサービスに圧倒的な差が出来ている可能性があるからです。
APIの提供は当たり前のものとして、そこから先のサービス向上こそ、銀行が見据えなければならない目標地点なのです。
拠点が限られる信金業界は特にAPIへの対応を業界として急いだ方が良いでしょう。