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株価暴落に踊らされない道しるべとは?

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株価の暴落が続いています。

株式市場はどこが底か見えないようなリスクを忌避する傾向にありますが、今回も同様の事象が発生しているのでしょう。

株価は常に変動しています。

なぜ、ここまで株価が低下するのでしょうか。株価が底を打つとしたら、その参考指標はないのでしょうか。

今回は、株価の水準を評価する尺度である株価指標について簡単に考察しましょう。

 

株価の指標

株価指標とは、企業の株価を比較、評価する際に用いる様々な尺度のことをいいます。代表的な株価指標には、株価収益率(PER)や、株価純資産倍率(PBR)、配当利回りがあります。

株価指標は、規模・売上・利益が異なる企業間であったとしても、投資対象となる株式が「割安」か「割高」か、「買い」か「売り」かなど、個別企業の状況を客観化あるいは相対化して判断することが出来るようなモノサシとなっています。

例えば、利益が500億円で株価が1万円の企業と、利益5億円で株価が1,000円の企業と、どちらが株価が割高かという比較をするのです。

これらの株価指標は、基本的に相対的な評価に使われる指標です。

株価には絶対的な「あるべき水準」はありません。あくまで株式市場で取引された価格が唯一の「正解」なのです。この株価には、その時点の様々な要素が含まれています。政治状況、長期金利の水準、商品市況、エネルギー市況、インフレ率、感染症の影響、業界・他社動向等が株価に影響するのです。

そのため、株価指標は「過去の水準」と「他社の水準」と比較されます。

例えば、過去の株価の動きで、PERやPBRなどの指標の変動が小さかったり、一定の水準に収れんする動きがあれば、株価の評価項目として株価指標は参考水準となるでしょう。過去の水準と現在の指標を比較し、割高か割安なのか、売りか買いかを判断するのです。

また、類似のビジネスを運営している会社同士であったり、成長性や財務体質・収益性が類似する企業同士であれば、株価の水準は同じになるはずです。もし両社の株式指標に差があるとすれば、どちらかが割安または割高に評価されていることになります。

株価指標とはこのように、絶対的な正解はない中で、株価水準を判断する「参考」指標として機能しています。

しかし、絶対的ではないからといって無視して良い訳ではありません。

それは、株式市場が「美人投票」に例えられるからです。

【美人投票】

有名な経済学者のケインズは、玄人筋の行う投資は、投票者が100枚の写真の中から最も容貌の美しい6枚を選び、その選択が投票者全体の平均的な好みに最も近かった者に賞品が与えられるという新聞投票に見立てることができるとした。
各投票者は、自身が最も美しいと思う写真を選ぶのではなく、他の投票者の好みに最もよく合うと思う写真を選択しなければならないことを意味する。
株式投資に関しても、市場参加者(=投票者)の多くが、値上がりするであろう(=容貌が美しいであろう)と判断する銘柄(=写真)を選ぶことが有効な投資方法であるということ。

(出所 野村証券 証券用語解説集)

まさに株式投資は、自分の独りよがりな判断ではなく、他人がどのように行動するかを想定し、判断することです。

よって、他の投資家も含めて一般的な投資判断の尺度となっている株価指標は無視して良いものではありません。

では、以下で代表的な株価指標を採り上げてみましょう。

 

株価収益率(PER)

まずは、非常に分かりやすい株価収益率(PER)について確認しましょう。定義は以下の通りです。

Price Earnings Ratioの略称で和訳は株価収益率。株価と企業の収益力を比較することによって株式の投資価値を判断する際に利用される尺度である。時価総額÷純利益、もしくは、株価÷一株当たり利益(EPS)で算出される。例えば、株価が500円で、一株当たり利益が50円ならば、PERは10倍である。

一般的には、市場平均との比較や、その会社の過去のレンジとの比較で割高・割安を判断する場合が多い。どのくらいのPERが適当かについての基準はなく、国際比較をする場合には、マクロ的な金利水準は基より、各国の税制、企業会計の慣行などを考慮する必要がある。

(出所 野村証券 証券用語解説集より抜粋)

PERは直感的にも非常に分かりやすい株価指標です。

現在の株価が、一株当たりの利益の何倍になっているかを表す指標です。

誤解を恐れずに例を出すと、1,000万円で買ったマンションを毎年100万円で賃貸するとPERは10倍というようなものです。

企業の利益が蓄積されていけば、結果としてその株価が正当化されるのです。

尚、2020年2月末時点の東証一部全銘柄の(単純平均)PERは14.9倍(日本取引所グループ開示)です。このPER水準を過去の水準と比べてみると、株式市場全体が割高なのか割安なのかの参考となります。

ちなみに、現段階でのPERは割安と判断出来たとしても、コロナウィルスの影響のように、これから企業業績に大きな影響を及ぼす事象が発生している時には、どの程度の利益まで落ち込むかの判断が欠かせません。

今までは一株当たり利益が15円、株価225円(=PER15倍)だった企業の一株当たり利益が10円に低下すると、PERが15倍のままだとすれば株価は150円まで低下することになります。更に、企業業績に不透明感がありPERがもっと低い水準にならないと買い手が付かないならば、一株当たり利益10円、PER10倍水準の株価100円になってもおかしくはありません。

このようにPERは活用していくのです。

誰でも知っているPERですが、筆者は十分に指標として有効だと考えています(マーケットが過熱している時等は一時的に有効な指標ではなくなりますが)。

 

株価純資産倍率(PBR)

次にPERと同様に有名な株価指標としてのPBRを確認しましょう。 

Price Book-value Ratioの略称で和訳は株価純資産倍率。PBRは、当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標であり、株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。

PBRは、分母が純資産であるため、企業の短期的な株価変動に対する投資尺度になりにくく、また、将来の利益成長力も反映しにくいため、単独の投資尺度とするには問題が多い。ただし、一般的にはPBR水準1倍が株価の下限であると考えられるため、下値を推定する上では効果がある。更に、PER(株価収益率)が異常値になった場合の補完的な尺度としても有効である。

(出所 野村証券 証券用語解説集より抜粋) 

純資産は株主が最初に出資したお金に、会社が稼いだ利益を蓄積したものを加えた金額です。まさに、純資産は株主から預かっている資産です。逆に言えば、純資産は、会社が解散した場合に株主に配分される資産ともなるため「解散価値」でもあります。

純資産は、きちんとした会計処理がなされた数字ですので、もし会社がその時点で清算となった場合には、純資産の分が現金化されて株主に返されるはずです。

そして、通常通り経営されている会社であれば、販売先、ノウハウ、技術、ブランド力等といった帳簿(決算)に掲載されていない価値も蓄えられてるはずです(一から会社を立ち上げるのは大変です)。すなわち、普通に考えれば、会社の価値は純資産以上になるはずであり、株価はPBR1倍以上の状態であるはずなのです。 

しかし、2020年2月末時点の東証一部全銘柄の(単純平均)PBRは1.0倍(日本取引所グループ開示)です。PBR1倍割れ銘柄は多数あるのです。

PBRという観点から日本の企業経営者は経営として失格と言えるかもしれません。

現金化する費用を考えなければ、ほとんどの企業は現段階で会社を解散して株主に現金を返した方が株主にとっては利益が大きいのです。

いずれにしろ、普通であればPBR1倍は株価の下値を探る水準として参考指標となります。

参考までですが、以下はPBR1倍割れと厳密には同じではありませんが、感覚的には類似する図表です。

これはソフトバンクグループが保有している株式の価値と、ソフトバンクグループの実際の株価が見合っていないことを表している図です。

感覚的にはこのような事態こそがPBR1倍割れの状況なのです。

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(出所 ソフトバンクグループ2020年3月期 第3四半期 決算説明会プレゼンテーション資料)
 

配当利回り

最後に紹介する指標が配当利回りです。 

株価に対する年間配当金の割合を示す指標。

一株当たりの年間配当金を、現在の株価で割って求める。たとえば、現在株価が1,000円で、配当金が年10円であった場合、配当利回りは1%(10円÷1,000円)となる。なお、投資をするときは、年間配当金の予想値で計算し、判断材料とする。

株価が下落すると、配当利回りは上昇する。企業が剰余金の配当を減少させるリスクはあるものの、配当金は株価上昇の値上がり益よりも確実性が高いため、配当利回りを重視する投資家も存在する。

(出所 野村証券 証券用語解説集より抜粋)

配当利回りは、上記の通り年10円の配当金を出す会社の株価が1,000円だった場合には、配当利回り1%となります。

この配当利回りの水準も株価の下値を探る重要な要素となります。

現在の東証1部には5%超の配当利回りとなっている株が多数存在しています。その中の一つである三菱商事は「今出している配当金から減配をすることなく、配当金を出し続ける」塁進配当を宣言している企業です。

そうすると、三菱商事の株価が5%下落したとしても、年間では配当で5%分取り返せる確度が非常に高くなります(税金勘案せず)。

日本では定期預金をしても全く利息の収受は望めません。そのような環境下であれば、高配当を約束している企業は非常に魅力的ではないでしょうか。

これが配当利回りが特に下落相場では一つの参考指標となる理由です。

尚、配当利回りは全ての銘柄にとって有用な指標とは言えません。

高配当を出す株式は、裏を返すと成長性が期待されない企業(株価が割安に放置されている企業)とも言えるからです。昔のIT銘柄等のように自社の事業に資金を投下した方が株主にとって成長(=リターン)が高いと判断するのであれば、高配当は必要ないのです。この点には留意が必要でしょう。

 

所見

筆者は株式市場のエキスパートと自信を持って言えません。本当にプロと言えるほどの能力があれば、すでに莫大な資産を築いているでしょう。

しかし、株式市場との長い関わり合いからくる経験則では、いつか下落は上昇に、悲観は楽観に変わります。

その際の判断には株価指標を分析するのはやはり有効ではないかと思うのです。もちろん、株式市場は上昇も下落も行き過ぎる傾向にあります。しかし、株価指標は冷静な判断に戻る歯止めにはなるはずです。

マーケットのプロを自称する人たちは、株式市場の動きを後付けで講釈します。マーケットのプロの話を鵜呑みにするぐらいならば、自身で株価指標を調査し、自分なりの判断をする方がよほど有用なのではないでしょうか。

マーケットのプロを自称する人たちが本当に株式市場のことを分かっているならば、彼らは既に大金持ちのはずですから。