銀行はアパートローンを通じて日本の貸家建築の一翼を担ってきました。
スマートデイズが展開していたシェアハウス「かぼちゃの馬車」のオーナーにスルガ銀行が貸出を行っていたように、金余りの環境下で銀行はアパートローン貸出に注力してきたのです。
しかし、2018年6月に野村総合研究所(野村総研)が発表した住宅マーケットの予測値は日本の住宅賃貸市場が置かれている環境を投資家・家主に認識させるものでした。
また、大エの人数減少は住宅建設のボトルネックとなる可能性が高い状況にあることも判明しました。
今回は、野村総研の発表したマーケット予測について確認しましょう。
これから不動産投資を考えている方や住宅ローン・アパートローンを担当している銀行員は必見です。
野村総研の予測内容(概要)
まずは、野村総研の発表した予測の概要を確認しておきます。
以下、記事を引用します。
大エ不足が深刻に 新築需要に対応できなくなる恐れも NRI予測
ITmediaビジネスオンライン/ 2018年6月13日19時39分
野村総合研究所(NRI)は6月13日、日本における住宅に関する予測結果を発表した。大工の人材不足が深刻化し、新設住宅着工戸数が減少するにもかかわらず、その需要にすら対応できなくなる可能性があるという。
新設住宅着工戸数については、17年度の95万戸から、20年度に77万戸、25年度に69万戸、30年度には60万戸と減少傾向が続く見込み。
大工は15年時点で35万人だが、30年には21万人まで減少すると予測。大エの高齢化や産業間の人材獲得競争の激化などが要因だ。
新設住宅着工戸数の減少幅を大工の減少幅が上回る結果、建設現場の労働生産性を約1.4倍(10年時点を1とする)にまで引き上げないと、30年度の新設住宅着工戸数にも対応できなくなる可能性があるという。
野村総研の予測内容(詳細)
では、より詳細に野村総研の予測について見ていくことにします。
以下は野村総研の発表資料(「2030年度の新設住宅着工戸数は60万戸、大工の人数は21万人に減少~人手不足が深刻化し建設現場の飛躍的な生産性向上が急務~」2018年06月13日株式会社野村総合研究所)からの引用文に筆者が加筆修正したものです。
2018~2030年度までの新設住宅着工戸数
新設住宅着工戸数は、2017年度の95万戸から、2020年度には77万戸、2025年度には69万戸、2030年度には60万戸と減少していく見込みです。
(出典 野村総合研究所ホームページ)
利用関係別に見ると、2030年度には持家20万戸、分譲住宅14万戸、貸家(給与住宅を含む) 26万戸となる見込みです。
(出典 野村総合研究所ホームページ)
これは、2017年度から2030年度にかけて約37%もの新設着工戸数が減少することになります。
持家は▲29%、分譲住宅は▲44%、貸家は▲37%です。
直近15年間で最も新設住宅着工戸数が多かった2006年度には、129万戸の着工がありました。内訳では持家が36万戸、分譲が38万戸、貸家が54万戸です。
2006年度からは2017年度までに、既に新設着工戸数が▲26%程度の減少となっています。ここから更に市場が縮小することになるのです。
これが日本の住宅市場が置かれている現状と将来像なのです。
2018~2033年までの空き家数·空き家率
空き家数・空き家率は、既存住宅の除却や、住宅用途以外への有効活用が進まなければ、2013年の820万戸・13.5%から、2033年にそれぞれ1, 955万戸・27.3%へと、いずれも上昇する見込みです。
(出典 野村総合研究所ホームページ)
この空き家が、賃貸マーケットにも流れ込んでくることが容易に予想されます。
民間の賃貸住宅(共同住宅)戸数は2013年時点で全国1,586万戸と推計されています。
この推計は少々古いデータとなりますが、公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会が2015年に公表しているものです。
当時の推計では総戸数1,586万戸のうち、入居戸数が1,226万戸、空き戸数が360万戸でした。
野村総研が予測している空き家は、当然に「空いている、使われていない住宅」です。
築年が古いものや駅から遠く利便性の低い物件も多数含まれているものと想定されますが、1, 135万戸が賃貸住宅市場に流れてくる可能性があるのです。
2013年時点の民間賃貸住宅戸数の2/3が追加でマーケットに加わるというのは凄まじいインパクトです。
当然に、既存の賃貸住宅との競合、賃借人の取り合いが起こります。
2013年時点での民間賃貸住宅(共同住宅)の空家率は22.7%と推計されています。
よって、人口が増えないことを前提にすると空家率は、更に大幅に上昇する可能性があるということなのです。
これからアパート・マンションへの投資を考えるオーナーに加え、そのオーナへ貸出を考える銀行にとっては、十分に留意しておくべき数値といえるでしょう。
2018~2030年までの大エの人数
大工の人数は2015年時点では35万人ですが、大工の高齢化、産業間の人材獲得競争の激化などが影響し、2030年には21万人にまで減少すると見込まれます。
(出典 野村総合研究所ホームページ)
日本では長年、「大工1人当たりの新設住宅着工戸数」は年間約2戸前後で推移してきましたが、今後は需要(新設住宅着工戸数)の減少幅を、供給(大工の人数)の減少幅が上回ります。そのため、建設現場における労働生産性を約1.4倍にまで引き上げないと、約60万戸の需要でも供給できなくなる可能性があります。
(出典 野村総合研究所ホームページ)
ゼネコンや住宅メーカーはこの事実を認識し、建設現場の生産性を引き上げなければなりません。
近時、建設現場でロボットの活用を検討もしくは導入している企業は、この状況を見据えて対応してきていることになります。
大工の数が減少し、住宅建設のボトルネックとなることは、既存の住宅(賃貸住宅を含む)を保有するオーナーからすれば、新しい競合物件が増えないことを意味しますので、基本的にはプラス要因となり得ます。
しかし、競争力を失った物件をリノベーションしたり、リフォームするコストが上昇する可能性も高くなります。そもそも人口が減るのですから大工不足による物件の供給が低迷したとしても、競争は減らない可能性も高いでしょう。
今後
特に住宅メーカーやデベロッパーは、今まで新しい住宅を建設することによって、収益を獲得してきました。
今後は、このビジネスモデルが成り立たないことは明白です。
海外に進出するか、国内で既存物件のリフォームにも注力するか、他社のシェア(エ事)を奪うか、しなければ売上は維持できません。
2030年度は、あと10年少々で到来します。
その時までに、企業も対応をしなければならないのです。
時間はあるようで、実際には無いということを企業も銀行も、そして賃貸住宅のオーナーも認識・理解し、対応策を着実に打っていかなければならないのです。
この野村総研の予測が完全に当たるかは分かりません。
しかし、空き家が増えること自体は人口が減るのですから確実です。
日本では、不動産投資の中でも住宅投資は長い間、安定した投資でした。
しかし、これからの日本では違う結果となるかもしれません。
投資家や銀行は、この恐怖を感じながら今後も不動産と向き合っていかなければならないのです。