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これからの日本人は新築に住むことが難しくなるかもしれない

野村総合研究所(以下野村総研)が日本における 「2023~2040年度の新設住宅着工戸数」「2022~2040年のリフォーム市場規模」「2025~2040年度の住宅建設技能者数」の予測結果を公表しました。野村総研の住宅関連の予測は、様々な分野で引用される注目度の高いものです。

この結果を見ると、日本で少子高齢化が進んでいることを改めて考えさせられますし、新築の住宅が希少なものとなっていくことが想定されることも分かります。

今回は皆さんと野村総研の予測について確認すると共に、新築住宅について簡単に考察してみたいと思います。

 

野村総研の予測

野村総研の予測では、新設住宅着工戸数は、2022年度の86万戸から、2030年度には74万戸、2040年度には55万戸と減少していくとされています。

【新設住宅着工戸数の実績と予測(全体)】

(出所 野村総研「2040年度の新設住宅着工戸数は55万戸に減少」)

2040年度の約55万戸というのは2022年度比約36%減です。20年弱で新築の住宅建設が4割弱落ち込むことになります。

これをもう少し詳しく見ていきます。利用関係別では、2040年度は持ち家15万戸(2022 年度25万戸)、分譲住宅12万戸(同26万戸)、給与住宅を含む貸家28万戸(同35万戸)と、いずれも漸減する見込みです。

尚、持ち家とは「建築主が自分で居住する目的で建築するもの」であり、いわゆる注文住宅です。そして分譲住宅は、「建て売り又は分譲の目的で建築するもの」と定義されており、分譲戸建て、分譲マンションが該当します。

【新設住宅着工戸数の実績と予測(利用関係別)】

(出所 野村総研「2040年度の新設住宅着工戸数は55万戸に減少」)

今後の20年弱で、持家は40%減少、分譲住宅は53%減少、貸家は20%減少となっています。

この要因は購入する人口が減少するということもあるでしょうが、建設技能者数の減少という要因も非常に大きいと思われます。以下のグラフは、野村総研が予想する住宅建設技能者数の予測です。

(出所 野村総研「2040年度の新設住宅着工戸数は55万戸に減少」)

住宅建設技能者数も減少を続け、2040年には約51万人(2020年比約37%減)となる見通 しです。

住宅市場は2040年度に新設住宅着工戸数も技能者もいずれも4割減少することになりま す。まさに住宅市場は需要の減少と供給力不足が同時に進行する状態です。

野村総研によると、過去、住宅需要と供給力のバランスがとれている時期における 「住宅建技能者1人あたりの新設住宅着工戸数」は年間約0.8戸/人でしたが、足元では既に約1.0戸/人まで上昇しており、2025年以降は約1.1戸/人という深刻な人手不足状態が続くと見込まれるとしています。

【建設技能労働者の過不足率(上図)、住宅建設技能者1人あたりの新設住宅着工戸数の実績と予測(下図)】

(出所 野村総研「2040年度の新設住宅着工戸数は55万戸に減少」)

2040年度の約55万戸の需要を満たすためには、約1.3倍の生産性向上が求められるということであり、人手不足状態を解消しなければ、新設住宅着工戸数は更に下回る可能性があることになります。

 

人口動態

今までは野村総研の住宅市場に対する予測を見てきました。

今度は住宅に住む人口の動態を確認しようと思います。

日本において2015年の出生数は100万人です。

2040年には30代半ばとなり、住宅購入の 適齢期に入っていると想定されます。2015年生まれの100万人が、男女同数で、且つ全員が結婚していると仮定すると、50万世帯となります。2040年には約55万戸の住宅供給が想定されているため、全員が新築住宅に住むことは理論上可能です。

但し、2040年の想定は、持ち家15万戸、分譲住宅12万戸であり、合計27万戸が購入される新築の住宅となります。すなわち、2015年生まれの方が全員結婚し、50万世帯となっていたとしても(結婚しない人が多いほど世帯数が増えますので、この例としています)、新築の住宅を購入することは難しいということになります。

但し、日本の男性の50歳時点の未婚率は2020年時点で28.3%(令和4年少子化対白書)です。2040年時点では29.5%と推計(「日本の世帯数の将来推計 (全国推計)」(2018年推 計))されています。男性の3割が結婚しない状況が続くとすると、 2015年生まれの男性 50万人(上述の100万人の半分)×70%=35万人が結婚するということであり、新築の家 を購入する最大値と考えても良いかもしれません(これは粗い想定で、未婚の方でも新築の家を購入する可能性は当然にあります)。

35万世帯が家を購入する動機が強いのに対して、新築住宅は上記の通り27万戸しか供給されません。非常に簡単な計算ですが、新築住宅は全世帯には行き渡りません。

尚、日本における出生数の推移は以下のようになっています。

【出生数と新設住宅着工件数の推移】

  • 1990年:出生数122万人、新設住宅着工件数167万戸
  • 2000年:出生数119万人、新設住宅着工件数121万戸
  • 2010年:出生数107万人、新設住宅着工件数82万戸
  • 2020年:出生数84万人、新設住宅着工件数81万戸

この推移で見る限り、今までは新設住宅着工件数は出生数の半分(上記の通り全員が結婚し世帯が半分となることと仮定)に対しては十分な住宅が供給されてきていました。

例えば、1990年生まれの122万人が30歳になった2020年は81万戸であり、122万人÷2=61万人<81 万戸となっていました。ところが上記の通り、これからは新築住宅着工件数は激減していきます。現在でも、結婚したら新築の家を購入するというライフスタイルは過去のものなのかもしれませんが、実際に購入したくても新築物件が無い、という事態になり得る状況なのです。

今回は非常に粗い数字の話をしてきました。実際には、日本に住む人々が新築の住宅を買いたいというニーズが強ければ、貸家ではなく持家もしくは分譲住宅が増えていくでしょうし、ポリシーとして生涯を通して賃借物件に住む人も増えていくでしょう(賃借物件はやはり気楽です)。もちろん、家余りの日本においては中古住宅を購入してリノベーションすれば良いと考える人も存在します。よって、今回述べてきたことは単なる数字の遊びでしかありません。それでも、日本において新築住宅が手に入る可能性はこれから減少していくことは間違いありません。新築好きと言われる日本人がどのような行動を起こしていくのか、将来が気になります。